<おまけ>佐藤さんと鈴木くん高橋くん

「混んでるわね。大丈夫?りりかちゃん」

「大丈夫でえーす…。ごほっごほっ」

「よかったら私にもたれて寝てて」

「うたさん、潰れてー…縮みますよーう…」

「…縮まないわよ」


 とある内科医院の待合室。りりかは憎まれ口をたたきながらも、ありがたく、うたにもたれて目を閉じた。






 今日、うたはいつもより早く店に行った。朝ご飯にと思っていたパンがなかったので、来夢でモーニングでも食べて、店でのんびり仕込みをしようと考えたのだ。


「りりかちゃん、おは――どうしたの?顔赤いけど。熱?」


 うたは、りりかの額に手を当てる。


「わ、熱あるじゃない」

「うー。なんか朝から寒いなあと…思ってたんですう…」

「もう今日は店閉めちゃいなさいよ。で、病院行きましょう、ほら」


 商店街内の医院は休診日だったため、そういえばバス通りで見たことあるなという、存在だけ知っていた初めての医院ところに行くことにした。






 某コンビニエンスストア裏口にて。


「お疲れさまでしたー」

「…お疲れっしたー……」

「?どうした、鈴木くん。なんか、顔赤いぞ」

「高橋くん……、俺…もう駄目だぁー…」

「鈴木くん!?うわ、熱すげっ」


 具合が悪いまま我慢して働いていたのかと思った高橋は、鈴木を放っておけなかった。


(近所に病院あったっけ)






 月曜日だからか、その医院の待合室はいっぱいだった。次こそはと呼ばれるのを待ちわびている人たちに向かって、診察室から出てきた看護師が名前を呼ぶ。


宝生ほうしょうさーん」


蜂須賀はちすかさーん」


渡会わたらいさーん」


 ……………………。


 名前を呼ぶ。


御子柴みこしばさーん」


東久世ひがしくぜさーん」


釜萢かまやちさーん」


 ……………………。


 名前を呼ぶ。


雅楽代うたしろさーん」


あくつさーん」


丁嵐あたらしさーん」


 ……………………。


 名前を、


花ヶ迫はながさこさーん」


津々楽つづらさーん」


謝名元じゃなもとさーん」


栗花落つゆりさーん」


百々海とどみさーん」


春夏冬あきなしさーん」


あららぎさーん」


仁王頭におうずさーん」




 ………………………………………………………。




 呼ぶ。




 何か感じている三人。何にも考えていない一人。


 三人の感じていることは、ただひとつ。




『ここの患者、珍しい苗字多くね?』




佐藤さとうさーん」

「あ、りりかちゃん」

「じゃあー、行ってきまあす……」

「大丈夫?」

「大丈夫ですぅ、すぐそこでぇす…」


 りりかは数歩進んで診察室の扉に手を掛ける。


(なんとなく…みんなに見られてる気がするわ………)


 日本でいちばん多いはずの自分の苗字がここでは逆のようだと、りりかはそんなことを思いながら中に入っていった。


(佐藤さんか。………。見た目派手だけど、なんかホッとした)


(みんな、どんな漢字なのかしら)


(あー…しんどー…)


 高橋、うた、鈴木、それぞれそんなことを思いながらソファーに座っていた。






「はー…ただの風邪でしたぁ………」


 りりかが診察室から出てくると、看護師は次の患者の名前を呼ぶ。


鈴木すずきさーん」

「俺だー…高橋くーん…行ってくるー……」

「おう…」




「佐藤さーん」


 支払窓口に呼ばれたりりかが精算していると、待合室に置かれた年代物らしき壁時計がひとつ鳴った。うたと高橋は、釣られて目を向ける。そのすぐ横の壁には、数枚のポスターが貼られていた。


『帰ってきたら、うがい手洗いをしましょう』

『熱中症対策』

『在宅医療について。お気軽に窓口へ』


「……………………」

「……………………」


 同じようにポスターを見ていたうたと高橋。

 そして同じように、ある個所で目が留まる。


 ポスターのいちばん下に書かれているこの医院の名前。

 名前は気にしていなかったふたり。早く医師に診てもらおうと思っていただけ。


 そしてふたりは突っ込む、同じことを、心の中で。


勘解由小路かでのこうじ整形外科内科』


 ((お前もか!))


 それから。


 ((漢字多!))






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