目覚めてしまった能力は、とんでもなく使えない

@abcdai

プロローグ


「まもなく、成田空港に到着します。」

彼女は窓の外に広がる雲海を眺めた。飛行機の中にアイツらがいない事は出発前に確認済みだ。もし私の逃亡に気づいたのなら、成田空港で待ち伏せしている可能性が高い。十分に気をつけなくては。彼女は自らを鼓舞するように両手に力を込めた。

「ママー。お菓子―取ってー!」

彼女の向かい側の席には幼い子を連れた若い母親がいる。長旅で疲れているのか、子供のお願いにウンザリした表情で、鞄からお菓子を取り出した。果汁グミ、しかもブドウ味だ。彼女はグミをチラッと見ると、長らく食べていないその味が恋しくなった。

「はい。もうすぐ着くから大人しくしててね。」

「うん!ありがとう!」

子供は無邪気な笑顔でグミを受け取り、袋を開けた。その時、飛行機がぐらっと揺れた。彼女は思わず辺りを見回す。飛行機に乗るのに余り慣れていない彼女は、いつ飛行機が落ちてしまわないかと気が気ではないのだ。

「あっ!」

声のした方向を見ると、さっきの衝撃で子供が手を滑らせたらしい。袋が空いたままのグミが通路へと落ちていった。そこで彼女は指をパチンと鳴らす。飛行機の中で音が目立たないか心配だったが、大した音は出なかった。というよりほとんど音は出ていなかった。また失敗だ、彼女はため息をつく。

「あれ?なんで?」

子供が騒いでいる。母親が疲れきった顔でしーっと注意した。

「もう、なんで通路にママのスマホ置いてるの?邪魔になるでしょ。」

通路には母親のものと思われる携帯が落ちている。子供は首を傾げながら、母親の膝の上に置いてあるグミを取った。

「まもなく、成田空港…」

アナウンスが聞こえる。そろそろ着陸のようだ。彼女は気を引き締め、ブドウグミを一つ口に入れる。口の中に甘さが広がっていく。懐かしい味だ。フー、とため息をつきながら、彼女は着陸途中に飛行機が墜落しないかと考える。

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