今日も2人の犬を連れてます。
玉瀬 羽依
序章 3人の約束
あれは、いつの頃だっただろうか―――。
まだ、私たちが小学生になったばかりの頃だった気がする。物心ついた時から、いつも隣には当たり前のように彼らがいた。
『
『結羽ちゃん』
二人に名前を呼ばれると、いつもドキドキする。見つめられると甘えたくなってしまう。
小さい頃からいつも一緒にいて、もはや家族も同然だった。でも、家族に対する想いとはまた違った感情があるのも否めない。まだ、この感情が何なのかは分からないけれど……。
いつか、分かるときが来るだろうか。
知りたいような、知るのが怖いような不思議な気持ち。
だけど、あの約束を果たすためには、知らないといけないのかもしれない。
数十年前、私たち三人はある約束をしていた。確か、家族ぐるみで一緒に旅行に行っていた時だった。温泉旅行で山形に来ていたのだ。
両親たちが旅館のバーに飲みに行っている間、三人は部屋で遊んでいた。誰かの友達が好きな人ができて……というような話をしていた時だったと思う。突然、まだその頃は背が低かった同い年の彼が言い出したのだ。
『俺、将来絶対、結羽と結婚する!』
『えっ……!?』
『何言ってるのさ。結羽ちゃんと結婚するのは僕だよ』
『ええ!?』
もう一人の二つ歳上の彼まで同じようなことを言い出す。突然のことに頭がついていかない。ずっと二人とは一緒にいたいと思ってはいたが、どちらか片方と一緒になるとは考えていなかった。
『あ、あの二人とも……』
『結羽は、俺たちのどっちが好き?』
『ど、どっちがとか決められないよ……』
泣きそうになりながら、二人を見る。
すると、歳上の彼が良いことを思い付いたかのように手を叩いた。
『そうだ!こうしない?』
旅館の部屋に置いてあったメモ帳に、一枚ずつ彼らの名前を書き出し始める。黙ってじっとそれを見つめていると、二人の名前が書かれた紙を四つ折りにして、手渡された。
『結羽ちゃんの持っているウサギのぬいぐるみに、首輪がついてるよね?』
『うん』
『その二つの首輪に、一枚ずつこの紙を入れて』
『おい、どういうことだ?』
年上の彼のしようとしていることが読めず、首をかしげる。彼は得意気に説明しはじめた。
『タイムカプセルみたいなものだよ』
『『タイムカプセル?』』
『そう。結羽ちゃんが二十歳になった時、僕ら二人のどっちかと結婚したいと思った方の首輪を僕たちの誕生日にプレゼントするの』
『ええっ!?』
『なるほど、いい案だな!俺らの誕生日近いしな』
二人がぬいぐるみについている首輪に紙を入れる。ただ一人、自分だけ話についていけないまま、彼らを見つめることしかできなかった。
その首輪は、筒状のカプセルのようなものがついているデザインのものだった。いつか、うさぎを飼うときにつけようと思って、お小遣いで買ったのだ。赤色と青色があり、どちらも柄が可愛くてつい、二つ買ってしまった。
『結羽。失くしたり、捨てたりするなよ』
『二十歳になるまで、大事に持っていてね』
『う、うん……。忘れないようにしまっておく』
『二十歳になったら、結羽は俺らのどっちを選ぶんだろうな』
少し楽しげに、彼らはこちらを見た。
どちらかを選ぶことなど、できるのか。その時は全然分からなかったが、一つだけ言えるのは、彼らとずっと一緒にいたいと思っていたのだ。
まるで、「将来ずっといようね」と約束されたみたいで嬉しかったのを覚えている。
「結羽ー?置いていくぞ」
「あ、ごめん。昔のことを思い出してた」
「昔?結羽ちゃん、何かあったの?」
「ううん、何でもないよ。急がないと学校遅れちゃうね」
あの頃より身長がかなり伸びた二人を見上げると、昔と変わらない二人の優しい目がそこにあった。
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