~37~ 心火
「ハルが倒れた」
ホテルの部屋に入るなり、エクトルは険しい表情でフランクに言い放った。そしてジャケットをソファーに叩きつけるように脱ぎ捨て、その隣にドサッと座り込んだ。
エクトルは激怒していた。
有能なメンターは脱ぎ捨てられたジャケットをハンガーに掛けながら、落ち着いた口調で「容体はどうなのですか?」と訊ねる。
「薬で眠っている」
そう端的に答えた後、エクトルはどこを見るともなく真正面を見据え、徐々にその眼差しを鋭くさせた。
「『
「……」
エクトルが稀に見せる冷酷な表情を、ソファー横にいたフランクは直立不動で受け止める。ここ最近では見たことがない。いや、ここ最近だけではない。ビジネスでもプライベートでもここまで胸の内で激昂しているエクトルを見るのはフランクでも初めてだった。
「詳細をお訊ねしても?」
「……」
フランクの問い掛けに、エクトルはしばらく無言でスイートルームの壁を鋭い眼差しで見据えていた。それから自身を落ち着けるように1つ深呼吸をするとソファーに凭れ、隣に立つフランクに視線を向けた。その眼差しから怒りは消えていないが、先程より少しは和らいで見える。
「そうだな。悪い」
もう一度溜息のような息を吐いたエクトルは、笹原にした時と同様にフランクに説明し始めた。
「……」
エクトルから詳細を聞いたフランクも苦い表情になった。同時に羽琉が負ってしまった傷が未だ根深いことを認識させられる。
「それでエクトルはどうするつもりですか?」
その言葉を受けて、エクトルは思案顔になった。
「部屋にメモを残してきた。取り敢えずハルの体調が良くなってから連絡が来るのを待つ」
そう言うと「今は私のこと以外、何も考えて欲しくはないんだがな」と、激昂した疲れを吐き出すような溜息と共に呟いた。
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