~13~ 気弱な上司②

 そんな常に自信に溢れているエクトルが、今、こんなにまで落ち込んでいる。

 今までにないこの状態に、フランクは少し心配になった。

「小田桐さんに会わなければ分からないことです。今あれこれ悩んでも仕方がないのではないですか」

 長い溜息を吐き「……そうだな」と呟くと、エクトルは苦笑した。

「自分がこんなに迷うなんて初めて知ったな」

「それも悪くないんじゃないですか。エクトルはいつも完璧過ぎるので、少しは弱みがあった方が良いと思います」

 返ってきた言葉に、エクトルは瞠目する。

「驚いたな。フランクがそんな風に言うなんて」

「近しい者の前では、という条件付きです。商談相手に隙を見せるほど弱くなるようなら、早々に今の地位を退くことをお勧め致します」

 エクトルがそこまで腐抜けになるほど自分を見失うとはフランクも思っていない。言葉は棘があるように聴こえるが、フランクとしては気弱になっているエクトルを鼓舞しているつもりだった。

 当然エクトルもその不器用な激励を察しているので、部下の手厳しい言葉にも楽しそうに笑う。

「確かに、その通りだ」

 フランクの言葉で自分を取り戻したエクトルは深く深呼吸すると、いつもの自信に満ちた笑みを浮かべた。

「さぁ、ハルに会いに行こうか」

 そう言うとエクトルはフランクと共にホテルを後にした。

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