1ページ殺人

5人目

　今日も退屈な1日が始まった。

　昨日から降り続いている雨のせいで朝から気分（きぶん）は最悪（さいあく）だ。

　駅に着いたが既（すで）に足元（あしもと）はべちゃべちゃで、今すぐ家に帰りたい。

　一瞬（いっしゅん）、本当に帰ろうか迷ったが仕方（しかた）なく改札（かいさつ）を通（とお）りトイレに行き、雨で濡（ぬ）れた鞄（かばん）を拭（ふ）く。

　雨の為、車内（しゃない）はいつもより人が多（おお）く濡（ぬ）れた傘（かさ）が足にあたり更（さら）に気分（きぶん）が滅入（めい）る。

　毎朝（まうさ）、目的（もくてき）の縁（べり）図（ず）駅（えき）に到着（とうちゃく）するまで、車内（しゃない）でいろんな人を見るのが密（ひそ）かな楽しみだ。

　狭（せま）い中（なか）、新聞紙（しんぶんし）を縦（たて）に4つ折し器用（きよう）に読んでいるサラリーマン。

　毎日4コマ漫画（まんが）の部分（ぶぶん）だけ読み、読み終えると折りたたみ天井（てんじょう）を見つめている。なにか見えるのだろうか。

　人目（ひとめ）を気にせず化粧（けしょう）をする女性（じょせい）。

　以前（いぜん）、電車（でんしゃ）が揺（ゆ）れて口紅（くちべに）で頬（ほお）に線（せん）を描（か）いたことがあったのを思い出す。

　立ったまま器用（きよう）に寝る女子高生等。

　まるで忍者（にんじゃ）のようだ。

　そんな電車の中でおいどんは、駅のトイレに傘（かさ）を忘（わす）れてきたことに気づいた。

　なんてこった。

　縁（べり）図（ず）駅（えき）までは片道（かたみち）15分。短くても満員（まんいん）電車（でんしゃ）は嫌（いや）だ。押し出されるようにして電車（でんしゃ）から降（お）り階段（かいだん）を上（あが）り改札（かいさつ）に向かう。

　改札（かいさつ）横（よこ）のコンビニでビニール傘（かさ）と油性（ゆせい）ペンを買い、傘の柄（え）に盗（と）られないよう油性（ゆせい）ペンで【呪】と書きまくった。

　これで盗（と）られることはないだろう。

　1階のバス乗り場に向かおうと階段（かいだん）を降（お）り始めると、電車（でんしゃ）の中で立ったまま寝（ね）ていた女子高生がすごい勢（いきお）いで通（とお）り過（す）ぎた。

　階段（かいだん）を2段（だん）飛（と）ばしで下りていたが、鞄（かばん）に下（さ）げていた傘（かさ）が足に引っかかりスタントマンのように階段（かいだん）を転（ころ）げていった。

　女子高生はふらふらと立ち上がり「あはは、大丈夫（だいじょうぶ）です」と笑（わら）っている。

　雨（あめ）はさらに激（はげ）しくなり、改札（かいさつ）口（ぐち）に向（む）かう階段（かいだん）には小さな滝（たき）が出来ていた。

　おいどんはちょうどきたバスに乗りこみその場をあとにした。

　その日の夕方（ゆうがた）、ネットニュースを見ていると、今朝の女子高生のことが書かれていた。

　今朝（けさ）、縁（べり）豆（ず）駅（えき）の階段（かいだん）にて、笠（かさ）ひかりさん(17歳)が、

　転倒（てんとう）し頭（あたま）を強く打つなどして病院（びょういん）に運（はこ）ばれたがまもなく死亡（しぼう）ー。

　目撃者（とくげきしゃ）の話（はなし）より、警察（けいさつ）は事件（じけん）事故（じこ）両面（りょうめん）で捜査（そうさ）を開始（かいし）ーーー。

　彼女の立ち寝（ね）姿（すがた）を見たのはこの日が最後となった