指切りの契
いつの間にか眠っていたのか、記憶が飛んでいる感じがある。目を開けると、宇佐美は横に居なかった。左手に違和感を感じる。痛みだ。痛み。そして出血・・・。僕の小指が消えていた。
「あっ・・・いいっぅう・・・!?」
言葉にならない音が口元から落ちてきた。うずくまろうとすると体が思うように動かない。僕は縛られているようだった。涎がつぅっと顎を伝ったのを感じる。ぼたっと床に落ちると、女の声がした。
「ダメじゃない、汚しちゃ・・・」
宇佐美の声だ。この指・・・この指は宇佐美がやったんだ。この女だ。僕の直感は、この女が”指切り”だと言っている。この女だ・・・この女が連続殺人鬼・・・だから僕に近づいたんだ・・・僕を殺すためだ・・・。身をよじって声のほうへ視線を向ける。
「動いちゃ、ダメ・・・もっときもちよくなっちゃうから・・・」
ゾッとするほど静かな声色で囁いてくる。宇佐美は刃物を僕の腹に刺し込んで、グリグリと刃を回転させてきた。骨と刃がぶつかり、ゴリッ・・ガチッ・・・っと音がしている。目から涙なんだか、血なんだかわからない汁があふれてくる。景色がグルグルと回転している。脳味噌でぷちっとぷちっと音がしているような感じがする。体が硬直して、何かの電流がずっと流れているような感じがし続ける。そして痛みだ。すさまじい痛み。宇佐美は唐突に手を放した。
「あ・・・。あ・・・・。」
「ふふ・・・うふ・・・人って、なかなか死なないわよね・・・。あなたもなかなか死なないわ・・・きっと、前のひとたちより、もっと楽しめる・・・。ようやく、ようやくよ・・・長かったの・・・ずっと待ってた・・・この気持ちはもう、抑えられないわ・・・。」
ぐぶぅっ・・・とか、ぎゅびぃっとか、そんな感じの声が出る。人間じゃない音みたいだ。宇佐美は僕の左手の小指を咥えて、悦に入っている。痛みに耐えながら、やっとの思いで言葉を出す。
「おまえ・・・が・・・”指切り”なのか・・・」
「わたし・・・?そうね・・・そう呼ばれているかもね・・・。興味がないわ。だから、言ったでしょ?”指切り”は快楽殺人だって・・・あなた、わたしの好みよ・・・ずっとこうしたかった・・・。」
宇佐美が刃物を引き抜いた。腹から出血が止まらない。頭がぼうっとしてきて、体温が下がるのを感じる。腹の傷口を見ると、ぷるぷるした内臓がはみ出ているのが見えた。僕は死ぬ。そう肌で感じざるを得なかった。
死ぬ間際、人間は性欲が最も強くなるとかいう話を何かの本で読んだ覚えがあった。僕は絶頂を感じている。こんな状況で、気が狂ったに違いない。宇佐美は悦に入った顔で僕を見つめている。宇佐美がはみ出た内臓を鷲掴みにして、頬ずりしたあたりで、僕の意識は真っ白い光の中に包まれた。体の痙攣だけがいつまでも感覚として脳に信号を送り続けていた。耳元で女の声が大きく響いた
「このちぎった指はまた再会するときのための約束よ」
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