指切りの契
QAZ
朝のニュース番組はあなたの愛しいチワワちゃん
「・・・未明、近所の住人が・・・現場には男性のものと見られる指の一部が・・・警察では同一人物の犯行とみて・・・」
ねぼけた頭の中に、消したはずのテレビの音声が流れ込んでくる。閉め切ったはずのカーテンから一筋の光が漏れ出て僕の瞼を抉じ開けようとしてきた。僕はなんとなく気怠さを吹き飛ばしたくて、思い切って飛び起きてみた。思ったほど、悪くは無い目覚めだ。そのまま部屋の違和感の正体を探るべく、欠伸をしながら視線を動かす。ベッドとテレビ、クローゼットと僕が住んでいるだけの殺風景なはずの部屋で、テレビに齧り付く一人の少女が居る。
「あ・・・起きたんだ。さっきは、その、ありがとう・・・わたし、ずっと起きてて・・・ニュース、もしかしたら流れているかと思って、いま見てたの。」
ニュース番組では男性1名が行方不明になっており、現場には指だけが残されていたことが報道されている。この事件の犯人はヤツだ。巷でも話題の連続殺人犯”指切り”がまた出現したのだ。
「・・・そうかい。ニュースがね。また、”指切り”ってやつが出たんだろう?もうこれでもう7件目の事件だ。現場には小指だけが残されていくとかって話じゃないか。それにその事件の現場、近所だね。やっぱり君は、何かこの事件に関係してるんじゃないのか?」
僕はそんなことを問いかけながら、昨日のことを思い出していた。この少女・・・
僕の問いかけに、少女は俯いて何も答えない。ニュース番組の音声はもうすでに事件報道は終えて、吐き気がする程可愛らしい動物の特集を垂れ流している。僕はごく普通の一般人として、彼女に警察への保護を勧めてみた。
「ふぅ・・・。君は何も答えたくないのか?なら警察に行こうよ。こんなところに居ないでさ。」
「いやよ。絶対にいや。どうせ警察に行くなら、こんなところに来なかったわ。」
そんなありきたりな会話をした後、彼女は何も言わず、不意に僕の腕に抱きついて来た。思わず心臓が跳ね上がる。少女は涙ながら、少し顔を赤らめて見つめてくる。実に卑猥な光景だ。体温が高まるのを感じる。僕の鼓動が更に僕自身の耳を突く。
「わたし、現場を見たわ。犯人も。顔はわからなかったけど。私は殺されると思った。けど、なぜかあいつは私を殺さなかったわ。その代わり、”このことを警察に話したら、お前を殺す”って言われたわ。わたし、恐ろしくて、絶対に警察になんか行かないわ!お願い・・・ここに居させて。」
僕がこの子を信じる理由など何一つとしてなかった。強いて僕が彼女を匿うことにした根拠があるとしたら、彼女が美しく、可愛らしかったことくらいかもしれない。とにかく僕は、彼女が犯人ではないのだったら、無理に警察に連れていく必要もないと思った。彼女は家が無かった。家出して以来、学校にも行かず、人にはあまり言えないようなことをして何とか生きてきたらしい。スマホだとか文明の利器の類も持っていなかった。だから身分も証明できない。警察に連れて行かないなら、しばらく家に置いておくか、外に放り出すしかなかった。あまり酷いことはできないと思った。なにせ、彼女は可愛らしい。うまくすれば僕のオトコとしての人生ってやつが少し華々しくなるかもしれないという下心も大いにあった。
「・・・わかった。居たいだけここに居ればいい。とりあえず、風呂に入ってその血が付いた服を着替えてくれ。着替えは悪いけど僕の服で我慢してくれよ。すぐに買いに行けるわけでもないんだから。」
「いいわ、ありがとう・・・。うれしい・・・。」
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