これは魔王討伐を終えたあとの、とある勇者ととある少女の物語

池中 織奈

これは魔王討伐を終えたあとの、とある勇者ととある少女の物語

 勇者。

 それは神に選ばれ、魔王を倒すことが定められているもの。

 神からの祝福を受けたそんな存在。

 勇者は、この度、魔王を倒すことに成功した。それも、ほんのわずかな期間で。

 歴代最高の勇者と呼ばれる存在。





 それが、今代の勇者———エセルト。





 家名が存在しないのは、彼が平民の出だからである。

 歴代の勇者は、魔王討伐を完遂出来た際に神から褒美を受け取っていたという。それは、富だったり、名誉だったり、理想の美女だったり、神は勇者の願いを叶えてきた。


 しかし————、今代の勇者が、何を望み、何を手に入れたのかは誰も知らないことであった。








 さて、物語は勇者が魔王討伐を終えてから数か月の月日が経ったある街に移る。





 そこには一人の少女が居た。少女の名は、シャーリー。

 赤髪が特徴的な平凡な平民の少女である。人の傷をいやしたりする白魔法の適性があるものの、それ以外は特に目立ったところもない少女。





 「勇者様、この街に滞在されているのでしょう? どうしてかしら」

 「さぁ?」

 「もうー、シャーリーってば同じ村出身なんでしょう? 何か知らないの?」






 そう、ただシャーリーは勇者と同じ村出身であった。小さな村で同じ年。家の場所的にも数軒隣。親同士も仲が良い。と、これだけそろっていれば普通は仲良しな幼馴染となり得たかもしれない。






 「知らないわよ。私と勇者が関わっていたのなんて物心つく前よ? ほとんどかかわりがなかったもの」





 そう、勇者とシャーリーの間にはかかわりは最低限であった。上記で上げたような仲良くなる要因は幾らでもあるというのに、彼らの間には何もなかった。




 (……寧ろ、私は避けられていたもの。私が近づくと距離を置いて気づけばいなくなってたりして)




 シャーリーは勇者に避けられていた。物心ついた頃にはそうだった。子供ながらに、シャーリーは勇者が自分に近づく気が一切ないことを悟っていた。

 だから、本当に知らない。





 どうして勇者がこの街にいるのかも知らない。王都に滞在することを望まれ、王女様の伴侶になることを望まれ、貴族になることを望まれ、でも———それを全て蹴ってまでこの街にいる理由が本当にシャーリーには理解不能であった。




 シャーリーは、洋服が好きだった。だから服屋さんで働いている。村から出て街で一人暮らしをしているのは、いつか、自分の店を持ちたいという夢があるからだった。





 魔王が現れ、エセルトが勇者に認定された翌月にはシャーリーは成人したからともう村を出ていた。不思議と魔王が世界を征服するという心配はしていなかった。ほとんど接触をしたことがないのに、シャーリーは勇者が魔王を倒すということをなぜか確信していて、村人たちの不安そうな声にも「大丈夫だよ」と呑気に答えていた。


 シャーリーは、仕事を終えて一人暮らしの住まいへと歩きながら勇者のことを考える。





 (エセルトが勇者に認定されるまで、同じ村で育った。接点はほぼなかったけど。エセルトが魔王を倒すのに要した時間はわずか三か月。その後、エセルトが王都にとどまって魔王を倒した祝杯とかを挙げてたのがつい一か月前まで。お祝いの方が長い。そしてその後、何故かエセルトは私がいるこの街にいる。よく考えたら喋ったことはほぼないけど、私とエセルトって同じ場所にずっといるって不思議)




 そう、たった三か月。

 それだけで勇者は魔王を倒してしまった。

 世界の脅威である存在をあっという間に。

 勇者のことを考えながらシャーリーが歩いていたら騒がしい声が聞こえた。





 (噂をすれば、本人か)




 勇者、エセルト本人が居た。勇者様と騒がれている。目が合う。




 (……あ)




 あ、と思った次の瞬間にはそらされている。




 (………やっぱり、エセルトってよく分からない)




 シャーリーは、勇者の後ろ姿を見ながら思うのだった。






 *






 貴方の望みはなんですか。

 神は勇者に問いかけます。

 それは、魔王を倒した勇者に対する問いかけです。

 勇者は望みます。





 ――あるものは、長寿を。

 ――あるものは、富を。

 ――あるものは、女を。

 ――そして、今代の勇者は××を願いました。












 シャーリーは、夢の中にいた。




 それが夢だと理解出来るのは——、




 (エセルトが、居る)




 勇者がいるからにほかなりませんでした。




 その夢の中では、いつも無表情で、シャーリーを見るとすぐにどこかに行ってしまう勇者が笑っていました。




 幼い勇者が、シャーリーに笑いかけていました。




 『シャーリー』




 と、親しげにシャーリーの名を呼んでいました。

 シャーリーも、親しげに勇者に呼びかけていました。




 (……そんなこと、一度もないのに。どうして、そんな夢を見ているんだろう)




 シャーリーは不思議でした。勇者がシャーリーを名で呼んだことなど、ましてや親しげに笑いかけてくれたことなど一度もありません。

 両親からも昔は仲が良かったという話も聞いたことがなく、昔からシャーリーは勇者に避けられていました。

 でも、夢の中の勇者とシャーリーは違います。





 『エセルトは、やっぱりすごいね!! 私は白魔法しか使えないからなぁ』

 『それでも自慢できることだろう? 適性が高いって聞いたよ』

 『んー、でもエセルトは全部の魔法使えるじゃない!』




 幼いシャーリーは勇者と楽しそうに笑っています。まるで仲が良い幼馴染であるように、話しています。




 (全然知らない記憶、わけが分からない)




 そう、疑問を感じたあと、シャーリーは目覚ましの音に目を覚ました。






 シャーリーは、ベッドの上にいた。








 先ほどまで見ていた夢について思考する。




 (……エセルトが、魔王を倒したって時期から時々不可解な夢を見るのはなんでだろう)




 勇者が、魔王を倒した時期からシャーリーは記憶にはない。現実ではありえない光景を夢として見ている。



 エセルトと、シャーリーが仲良く過ごしているなんてわけが分からない夢。




 (……私が、エセルトと仲良くしたかったってこと? 願望? 確かに、幼い頃はなんで仲良くしてくれないんだろう、仲良くしたいと、そんな風に思っていたけれど……)




 昔は、幼い頃はエセルトに避けられるのがただ不満で、悲しくて。仲良くしたいと思っていた。でもあまりにもエセルトがシャーリーを避けるからシャーリーは諦めた。エセルトが勇者と認定されてからは、別世界の人と認識していた。




 (……なのに、何でこんな夢を見るのだろうか)




 分からない。シャーリーには本当に分からない。

 自分のことなのに、全然分からない。



 シャーリーはふぅと息を吐いてぶるぶると首を振る。考えても仕方がないと、身支度を済ませて仕事に向かった。



 その仕事先に向かう最中にシャーリーはまた、勇者を見た。



 (狭い街とはいえ、よく見かける。よく遭遇するからあんな夢を見てしまったのかな)




 シャーリーは、ただそう考えて勇者に背を向けた。

 勇者もまたシャーリーから背を向けた。








 *




 血だまりの中に少女が居る。

 少女は息を引き取った。



 炎の魔法に少女が呑み込まれる。

 少女は息を引き取った。



 鋭い爪を持つ魔物が少女を切り裂いた。

 少女は息を引き取った。



 巨大な口を持つ魔物が少女を飲み込んだ。

 少女は息を引き取った。



 盗賊に襲われ少女は首を吊る。

 少女は息を引き取った。



 少女は——、少女は——、少女は———息を引き取った。 




 *






 「勇者様って不思議な方よね」

 「それは、そうだね」



 同僚の言葉に、シャーリーは頷く。



 勇者がこの街に滞在しているからか、毎日のように勇者の話をシャーリーは聞かされる。



 シャーリーが勇者と同じ街出身だからというのもあるだろうが、ほとんど勇者とかかわりがないシャーリーからしてみれば勇者の話題は少し返答に困るものだった。




 「王女様の求婚も断って、どんな美女でもはべらせ放題だろうにさ」

 「いや、勇者だからってはべらせ放題はないでしょう」

 「甘いよ、シャーリー。歴代の勇者の中にはあらゆる美女美少女を傍に置いている存在が居たんだからね。そもそも勇者で魔王討伐の際に結婚をしないのも珍しいよね。歴代の勇者はさっさと結婚しているっていうのに。もしかして影でこっそり女好きなパターン?」

 「……勇者は、エセルトはそういうことしないわよ」

 「あら? やっぱりかかわりないっていって、親しくしてたりしたの?」

 「え、いや、違うわ。ただ、そう……思っただけ」




 なぜかそういうことしないなどと確信めいた言葉が自分の口から出たのかさっぱり分からないシャーリーである。ただ、時々こういうことがある。


 知らないはずなのに、なぜかそうであると確信をもって口から言葉が出ることがある。


 確かに歴代の勇者は魔王を倒したあとすぐに結婚することが多かった。王女様や貴族令嬢、または仲間と結婚したり、あとはハーレムを形成したり。寧ろ結婚話を断る勇者が居なかったというべきなのかもしれない。




 ただ、今代の勇者は王女様からの求愛をばっさり断り、一人で魔王退治をしたため仲間もおらず、誰かと一緒にならずに一人でなぜかこんな街にいる。


 

 隠れて女遊びをしているという可能性はなぜか、シャーリーにはないと確信していた。


 「本当? 実は仲が良かったとかかなーって思っちゃうんだけど」

 「いや、全然それはない」

 「んー、でも同じ村出身で、同じ年で、今も同じ街にいて……それで交流がないっていうのが不思議なんだけれど。向こうだって、シャーリーのことはしっているんでしょう?」

 「……そうね。知らないはずはないわ。村人全員が知り合いっていう街だったもの」

 「それで関わり合いがないってある意味不自然じゃない?」

 「まぁ。そうだね」



 シャーリーはその言葉に頷く。確かに、不自然である。


 シャーリーと勇者は小さな村の中で育った。村の住民たちは互いに知り合い同士であり、交流がないというのはおかしなことなのだ。




 (そもそもエセルトは私のことは本当に驚くほどに避けてたけれど、他の村人と仲良くしていたかというとそんなことはなかった。両親とはそれなりに仲良くしていたように見えたけれど、他とかかわることはほとんどなくて。そのくせ、昔から大人びていて……、でも村人たちを大切にしていないとかはなくて……本当よくわかんない)



 勇者は、不思議で、よく分からない人だ。

 何を考えているのかも全然分からない。――シャーリーはそう思っている。思っているし、事実そうである。




 だけど、どこか不思議な感覚になる。




 (……でも時々、エセルトを知っているつもりになっている。知っているような気持ちになっている。なんでだろう。変な夢も見るし、私、エセルトが魔王を倒してからおかしい)




 シャーリーは、よくわからない気持ちに最近よくなっている。どうして、知っているつもいになっているのか、変な夢を見るのか、シャーリーには分からない。




 だって、シャーリーは勇者とほとんどかかわりなく生きてきたのだから。






 *




 少年が笑う。

 少女が笑う。


 親しげに微笑む二人。

 手を取り合って、楽しそうに笑っている。

 その様子を大人たちはほほえましそうに見つめている。





 ――いつも、二人は仲が良いね。

 ――うん!





 仲良しだね、と告げられた言葉に少女は満面の笑みで頷いた。




 少年もそれは否定はしない。

 少年と少女はいつも一緒に居た。




 同年代が互いしかいない村で、共に育った。

 少年が”特別”だと発覚してからも、彼らの関係は変わらなかった。

 少女は少年についていく道を選んだ。

 少年は選ばれた仲間と、少女と共に旅に出た。






 ――その先で、少年は少女の身体を抱きしめて大粒の涙を流した。






 *




 「あ」



 思わずシャーリーは声を上げた。それは家に急いで帰ろうと歩いていたら、人にぶつかったからだ。見上げた先にいたのが、勇者だったからだ。



 勇者をこんなに至近距離でシャーリーが見たのは初めてだった。



 「ちょっと、勇者様に何ぶつかっているのよ!!」

 「離れなさい!!」




 勇者の後ろをついていっていた取り巻きの女性たちは、口々にシャーリーにいった。シャーリーは慌てて勇者から身体を離す。




 そして「すみません!」とだけ告げてその場を去る。その際にちらりと見えた勇者の表情が、驚いたような、複雑そうな表情で、シャーリーには何故勇者がそんな表情を浮かべていたのかさっぱり分からなかった。




 (エセルトに、あんなに近づいたの初めてだ)



 初めて——、本当に初めてだ。

 そう、そのはずなのに、懐かしさを覚えていた。




 (何故、懐かしいなんて、思うのだろう。エセルトにあれだけ近づいたのなんて初めてなのに)




 分からなかった。そして、何故だか、胸が痛かった。





 そしてその夜、夢を見た。






 『エセルト、これも美味しいね』

 『ああ』




 野営をしている様子が映し出される。そこで、勇者とシャーリーが親しそうに隣り合って座っている。


 その場には、他にも何人かの人物がいるようだ。



 『本当に勇者殿と聖女殿は仲良しだな』

 『……ふん、その娘は白魔法をすこしだけ得意としているだけでしょう。それを聖女呼びなんて』

 『本当、その通りですわ。同じ村出身とはいえ勇者様には相応しくありません』


 


 そして勇者の仲間たちが、口々に言う。




 一人は、騎士である男。

 後の二人はこの国の王女様と、その王女付きの侍女。




 王女様は白魔法こそ使えないものの、他の攻撃系の魔法が得意であった。だから、勇者のパーティーに参加していてもおかしくはない。とはいえ、シャーリーはこの夢が所詮夢であるとしか思えなかった。



 確かに自分は白魔法を使えるが、聖女なんて呼ばれるほどではない。そもそも素質はあっても磨いてはこなかった。それに、勇者は単身で魔王を倒したというのが事実である。


 だからこそ、何故こんな夢を見るのかさっぱり分からなかった。


 また夢の中の場面が変わる。





 『貴方は、ただの同じ村出身の身で、勇者様と親しくしすぎですわ。聖女などと呼ばれて調子に乗っているのかもしれませんが……、勇者様と結婚をするのはこのわたくしですから』

 『……幼馴染なのですから、仲が良いのは当たり前でしょう』





 夢の中のシャーリーは王女様に難癖をつけられていた。王女が勇者に熱を上げているという点は、夢でも現実でも同じなんだなとシャーリーは思った。




 (私が、聖女とか、ありえない)




 そう思うシャーリーの頭は、まだ夢を見続けている。




 『――エリアヒーリング』




 夢の中のシャーリーは使えるはずもない魔法を使っていた。適性はあっても磨いてこなかったシャーリーには使えないはずの魔法。

 その場の怪我人たちを一斉に回復させるような魔法。





 (だから、聖女……? 夢の中の私は、なんなんだろう)




 確かに私である、そうわかる。でも現実のシャーリーとはかけ離れている。

 また、場面が変わる。




 『なぁ、シャーリー』

 『んー、なに?』




 眠たそうにしているシャーリーに、勇者が声をかける。夢の中のシャーリーは会話の最中に勇者に寄りかかって眠ってしまう。



 『シャーリー……よ』



 勇者が、何かを言った言葉は夢の中のシャーリーにも、現実のシャーリーにも聞こえなかった。




 そこで目が覚める。








 ベッドの上に座り込んで、シャーリーは先ほどまでの夢について考える。




 (エセルトは単独で魔王を倒した……はず。それは間違いない。間違っても騎士様も、お姫様も一緒ではなくて、私も一緒に行くとか、ありえない。……そのはずなのに、何であんなに鮮明な夢を。エセルトが、私に優しくしている夢なんて……)



 なぜか懐かしいと思ってしまった。また、あんな風に——と。ありえないのに。




 (懐かしい、って何。エセルトと喋ったことなんてほとんどないのに。夢の中みたいに、エセルトが笑いかけることもないのに。寧ろ、エセルトは表情は変えない。ほとんど無表情で……。そういえばぶつかった時のエセルトも、無表情じゃなかったけれど……)




 分からない、理解が出来ない。――だけど、懐かしいと、シャーリーは思ってしまう。現実ではないことを、懐かしいだなんて。




 その日は仕事中にそのことばかり考えてしまった。






 *




 脅威が去った。



 ――これで世界は平和になる。


 だから?

 だから、なんだというのだ。



 そう、少年は感じる。




 なぜなら、少年の求めていたものは、世界が平和になりますようにではなかったから。

 世界が平和になったからと、それが手に入るわけではなかったから。





 神が、そんな少年に問う。





 願いは、なんですか。

 ――少年は告げる。





 神は首を横に振る。




 ――少年はいう。




 神は首を縦に振る。





 そして、世界は。






 *




 シャーリーの目の前に泣いている少女が居る。


 街中でこけて怪我をしてしまった少女。




 シャーリーは、その少女に手を差し伸べながらふと夢の内容を思い起こした。




 (白魔法を、上手に使っていた。私も、夢の中の私のように——)




 ふと、使えるのではないかと思った。何故だか、魔法の行使の仕方が、手に取るようにわかる。どうしてだろう——、そんなもの、使ったことがないのに。その疑問は当然わいてくるが、だけど、思わず使ってしまった。





 「ヒーリング」



 その魔法はすぐに形となって、少女の傷を治した。少女は驚いた顔をしている。魔法を行使したシャーリー自身も驚いていた。どうして、自分は……と。




 「秘密ね」




 なぜか、知られてはいけないという思いにかられて少女にそう告げて、シャーリーはその場を後にする。

 頭がいっぱいいっぱいだった。わけが分からない。




 「…魔力。シャーリー……の」




 シャーリーが魔法を使った直後、勇者が唖然としてそうつぶやいていたことも、シャーリーはもちろん知らなかった。






 何故、自分は魔法を使えるのだろう。

 シャーリーは自宅に戻ってからもずっと考えていた。





 (夢の中の私は使えていた。平然と。でも私は魔法なんて使ったことがない。習ったことも、ないはず。なのに、どうして)




 どうして使えたのか自分でも分からない。




 (夢の中の出来事は、経験したこと? いや、そんなわけない。私は、エセルトとあんなに親しくしていない。エセルトは、一人で魔王を倒した。……その、はずなのに)




 なんで、どうして。



 「……どうしてなんだろう」



 シャーリーには分からない。








 *




 少年は、またかと嘆く。




 泣いて、泣いて、泣いて。

 腕の中の少女を抱きしめて。




 ――神に願う。

 ――1つのことを。




 あきらめが悪いね、と声がする。

 少年は当然だと答える。




 少年にとって、それは諦められるものではないから。




 失われずにすむかもしれないのなら、少年は諦めない。

 それが、運命だとしてもと、また声がする。問いかける声。




 そんな運命、糞喰らえだと少年は答える。




 ―――じゃあ、また。




 声はそういって、少年を送り出す。




 そして、世界は。






 *




 「シャーリー、どうして勇者様をじっと見ているの?」

 「……んー、ちょっとね」




 夢を見る。そして現実で出来ないはずのことを、何故か出来た。

 夢は現実味を帯びている。だけど、決して現実ではない。




 何処までも不自然に見る夢。シャーリーが勇者と仲良くしたい願望があふれ出て——という可能性も考えたが、そんなことはないとシャーリーは冷静に分析する。ただ、同じ村出身であるというだけのはず、なのだ。




 「何か気になることでも?」

 「ちょっと、聞きたいことはある、かな」




 夢の内容について勇者に聞きに行くなんておかしなことかもしれない。だけど、特別な存在である勇者ならば、どうしてシャーリーがそんな夢を見るのか知っているのではないか。




 (……そう、思ってしまうのよね。他人の夢の内容なんてエセルトが幾ら勇者であっても知らないだろうに)




 知らない、だろうと常識的に考えてシャーリーは思う。

 だけど、知っている気もする。





 (話せない……かな。でもどうやって……)




 そう考えた時、頭の中で一つの情報が浮かび上がる。




 (暗号……あれ、何この暗号。そう、これは……二人で。あれ? 二人って、誰? でも、これ……エセルトはわかる。え、何で? なんで、私……こんな身に覚えもない不思議な文字を、エセルトがわかるって思っているの?)




 シャーリーは、知らないはずの文字を理解していた。加えてこれを、エセルトが知っていると知っていた。



 おかしな話だ。誰かが聞けば首をかしげるような馬鹿みたいな話。だけど、それを事実としてシャーリーは受け入れていた。




 シャーリーは、誰もが見ることが出来る街の掲示板にその暗号を記載した。






 『聞きたいことがあります。一人で裏通りの1番街のはずれに来てください』





 ただそれだけ書いた。誰にあてたものかも書かなかった。誰からのメッセージかも書かなかった。だけど、エセルトは、来るはずだとなぜか確信しているシャーリーが居た。




 「……覚えて、るのか」




 そしてその場にやってきたエセルトは、戸惑ったような表情を浮かべていた。覚えているのか、と。




 「覚えて、いるって?」

 「……あの文字使ってただろう」

 「……何だか、思い浮かんだから。なんであんな文字、知ってるか知らないの」

 「……そうか」




 夢の中の勇者はもっと笑っていた。夢の中の勇者はもっと話していた。そう、シャーリーは思いながら勇者を観察する。






 黒。

 夜色の髪と瞳を持っている。

 珍しい黒を持ち、整った顔立ちをしている。





 (覚えているのかって、なんなんだろう。あの夢は……でもおかしい。それは……)




 混乱している。けれど、勇者の言葉はシャーリーとエセルトの間で何かしらかかわりがあったという証である。でも、それがなんなのか、シャーリーには分からない。




 「……魔法、使っただろう」

 「え?」

 「魔力感じた」

 「………え、ええ。なぜか分からないけれど、使える気がして」

 「……そうか。それで、聞きたいこととは」

 「……私と、貴方はかかわりがある?」

 「それは、一番自分でわかるだろう」

 「……私は、エセルトとかかわりはほぼないと思っている。同じ村出身なだけで」

 「なら、そうだろう」

 「なのに、夢を見る。私が、エセルトと仲良くしていた夢。一人で旅に出た勇者が数人で旅する夢。私が……魔法を使って人を助けている夢。そんな、記憶ないのに」

 「………なら、そんな記憶はないと切り捨てたらいい」

 「切り捨てられないわ。エセルトは、何か知っているんでしょう? だったら、教えて。この記憶は何? さっきの覚えているのかって何?」

 「……気にするな。シャーリーは、俺に関わらない方が、いい」

 「待って!!」





 かかわらない方がいいと告げて、勇者はその場から消えていった。待ってと口にしても勇者は立ち止まらなかった。




 「……関わりたくないなら、何でここに来たのよ。覚えているのかって、何よ……」




 シャーリーは勇者が去って行ったあと、そんな言葉をつぶやいた。






 *




 少女が居ない。




 ――その命を散らしてしまったから。




 少年は、願う。

 願って。

 また始まって。




 少女はまたいなくなって。

 少年は、また願って。

 そして始まって。





 少女は消えて。

 少年は、願って。

 また始まる。


 ………。






 *




 『ねぇ、どうして王国からの仲間をいらないなんていったの?』

 『……居ない方がマシだから。シャーリーも、俺についてこなくていい』

 『エセルトをたった一人で魔王の元へ行かせるなんて出来るわけないでしょう!!』

 『……それで、また死んだらどうするんだ』

 『また、って何よ。勝手に私を殺さないでよ。大丈夫よ、絶対生きて、この村に帰りましょう』

 『ああ。……今度こそ』





 夢の中の会話を聞きながらシャーリーはあれ? と感じる。以前見た夢では勇者にはシャーリー以外にも三人の仲間がいた。でもここでは二人旅になっている。やっぱり、この夢はおかしい。そして勇者がいっていることも、全然意味が分からない。




 また、ってなんだろうと。そして、今度こそとは。


 次に見た光景はまた奇妙な光景だった。





 『……なんで、ついてこようとする』

 『最近は親しくしていないとはいえ、幼馴染を一人で行かせるわけないじゃない。本当、どうして最近私を避けているのよ?』

 『……結局こうなるのか』

 『何がよ? 私だって白魔法の腕は凄いんだから、エセルトの力にはなれるわ』





 先ほど二人で旅に出てなかったっけ? と夢を見ているシャーリーは思う。

 そして次に見た旅立ちの場面もまた違った。





 『なんで、ついていっちゃだめなの! 私はエセルトが心配なのよ』

 『駄目だ。魔王はさっさと倒してくるからおとなしくしていろ』

 『何よ、幾らエセルトが強いからって———!!』





 夢の中のシャーリーはおいていかれていた。






 はっと目を覚ます。








 「意味が、分からない」




 夢の内容が色々ありすぎてわけがわからない。鮮明に覚えている夢を思いながらシャーリーは、そうとしか言えなかった。


 (仲間がいた場合とか、二人で旅に出た場合とか、おいていかれた場合とかの記憶があるって、なんなの? 私は全くエセルトとかかわりないはずなのに、何か、忘れている……?)




 何か、何か重要なことを忘れているのだろうか、そうシャーリーは不安になった。






 *




 ――なんで、毎回こうなるんだ。

 それが、運命だからだよ。




 ――何故、それが運命なんだ。

 君が特別だから。そして特別な君の周りには、そんな運命がめぐっている。





 ――糞喰らえだよ、本当に。どうしたら、あいつは……。

 まだ、続けるの?




 ――当たり前だろう。

 それだけ、大切なんだね。




 ――当たり前だ。

 何度やっても変わらないかもしれないのに。今度は君が——。





 ――意味がない。あいつが居ないと。

 君も、頑固だね。あきらめた方が楽なのに。




 ――諦めるわけ、ない。俺の願いは、いつも通りだ。

 君とのこのやりとりもいつまで、続くんだろうね。




 ――あいつが、生きるまで。








 *








 勇者との邂逅後も、シャーリーの日常は変わらなかった。




 ただ、勇者と会話をしたあとは勇者がこちらをちらちら見ていたり、勇者に関する夢をより一層見るようになったことぐらいだろうか。




 その日、シャーリーが見た夢はシャーリーが死ぬ夢だった。




 勇者が泣き叫んでいて、シャーリーが死ぬ夢。




 (……エセルトが、泣いている。私が、死んだと。いや、まって、私生きているよ。なんで死ぬ夢なんて……)




 と考えていたら今度は別の要因で死ぬ夢を見る。




 毒殺、撲殺、事故死、火あぶり………暴行死、自殺などなど、バリエーション豊かな死に様をその日は永遠と夢で見た。




 シャーリーは自分の死に様を何度も何度も見なければならないことに混乱していた。死ぬ時に、夢の中のシャーリーは、エセルトの事を考えていることが多かった。




 何度も、何度も、何度も、夢の中のシャーリーはしんだ。










 「……はぁはぁ、わ、私生きているよね?」




 起きてすぐに、シャーリーは自分が死んでないことを確認する。何故何度も何度も死んでいるのか。何故、それを実際に起きたことのように感じてしまっているのか。やっぱりシャーリーは分からない。










 *




 ようやくだね。


 ―――ああ。

 でも、いいの? これで。




 ――構わない。

 じゃあ、望みはどうする?





 ―――あいつが、幸せになりますように。

 君はぶれないね。了解。



 ―――ああ。






 少年が去っていく。それを見届けたその存在。



 「本当に、諦めが悪かった。凄い執念だ。彼女が幸せになりますように……か。もう会う事もないだろうけど、もし、また会えたら、怒られそうだな」




 それは、そんなことをつぶやいた。






 *






 勇者が、最近神殿にいっているという噂をシャーリーは聞いた。今まで寄り付きもしなかったのに。そしてぶつぶつと何かを言っていると。




 (神様と、会話しているんじゃないかって言われているけど。そういえば、勇者は神から願いを叶えてもらえる、のよね。なら———エセルトは何を願ったのだろう)


 そう考えてふと、気づく。




 (もしかしたら私の不可解な現象は、神への願いが関係している?)




 そう感じて、シャーリーは仕事が終わるとすぐに神殿に向かった。勇者が訪れることが多くなっているということもあって神殿には人が溢れていた。




 「……神様、私の不可解な現象はなんなのでしょうか」




 答えなど、帰ってこないと思った。けれど、一言だけ聞こえた。




 ―――それは、君が思い出せば全てわかるよ。




 ただ、それだけの声。だけど、おそらく神の声だろうとはシャーリーにも想像が出来た。






 そしてそれにどこか聞き覚えがあると、感じた時、シャーリーの頭がガンガンと痛み始めた。


 そして、シャーリーは意識を失った。










 夢を見る。

 もう、やめさせて。




 ――彼は、望んでやっているよ。

 もういいの。




 ――彼は、よくないって。

 私はいいのに。どうして。





 ――彼は、君が大切だからだよ。

 また、やり直すなんて。




 ――それだけ、失いたくないんだろうね。

 嫌だ、私、忘れたくない。


 


 ――彼は、忘れてくれることを望んでいるよ。

 でも、嫌だ。






 ――なら、こうしようか。彼の願いがかなった時、君が世界に存在していたなら——思い出せるようにしてあげようか。

 それって……。




 ――彼はきっとあきらめないよ。

 なんで。





 ――だから、それは君が大切だから。

 止めてはくれないんだよね。




 ――止めない。だってそれが彼の願いだから。








 目を覚ました時、倒れてから三日ほどたっていた。そして、シャーリーは全て思い出していた。


 同僚から、一度だけ血相をかえた勇者が飛び込んできたと聞いた。やっぱり親しくしていたんじゃといわれた。





 「ちょっといってくる」

 「どこに?」

 「馬鹿な幼馴染のところ」




 シャーリーはそういって飛び出した。








 *




 あははは、やっぱり怒っているし。ぶつぶつと、文句ばっかりいっている。なんで覚えているんだって言われてもねぇ? それが彼女の望みだったんだから仕方がないじゃないかってしか僕は思えないよ。




 彼女が幸せになることを望んだのだから、こうなるのも当然だよ。彼女は忘れたくないって思ってたんだから。




 かかわりたくないって言いながら同じ街に居ついて、本当笑っちゃうよ。彼女に話しかけられて嬉しかったくせに、ぶっきらぼうな態度をとってさ。どちらにせよ、彼女が思い出したらかかわらないなんて選択肢はないのに。




 何度も何度も何度も———本当に数えるのが面倒になるぐらい僕に願って。そして、ようやくかなった先でも彼女のことを願って。本当にあきらめが悪い勇者だよ。本当にこんなに僕が関わった勇者なんて初めてだよ。同じ願いを何度も何度も、口にされるのも。

 さっきちょっと彼女に声をかけちゃったけど、もうこれ以上はやったら上に怒られちゃうからね。あとは、君たち次第。






 *




 勇者とは、特別な存在である。

 魔王を倒す可能性を秘めた救世主。

 そして勇者とその周りには特別な運命がめぐっている。





 歴代の勇者は大切なものを失って強くなった。要するに、そういう運命がめぐっている。

 魔王を倒したあとの願いに、生き返らせることを望んだ勇者がいた。それは無理だといわれる。勇者は諦めて受け入れる。




 でも、生き返らせることが無理ならば—――またやり直すことは出来るかと、問う。それは出来ると答える。





 だけど、運命の力は強い。

 一度やり直して挫折して、その勇者は受け入れる。




 でも、受け入れなかった勇者——それがエセルト。








 (……そして、私は何度も死んで、そのたびにエセルトが魔王を倒して巻き戻していた)







 それを、シャーリーは思い出した。本来ならやり直した記憶は勇者だけが持つ者だったが、忘れたくないと願ったシャーリーに神が、そういう施しをしてくれた。

 勇者があきらめずに、シャーリーが生き残る未来が訪れたならば思い出せるようにしてくれると。

 膨大な記憶。何度も何度も何度も、数えきれないほどの記憶。今の人生以外で、シャーリーは思い出した分の数だけ死んでいた。

 やり直し続ける記憶——それはどれだけ辛いだろうか。そして、何度願っても、何度やり直してもシャーリーが死ぬ。それを目の当たりにするのはどれだけ辛いだろうか。






 いつだって残されるものはつらいのだ。





 (……今回の人生で、私がエセルトとかかわりがなかったのは……多分そうしないと、私が死んだから。一切かかわらないようにして、ようやく私が生き残った。魔王討伐を終えたあとも。そして、魔王討伐がなされた時に、私が生きていたから思い出すようになっていた……ってことよね)




 記憶の中のシャーリーは本当にあらゆる要因で死んでいた。魔王討伐についていかなかったときでさえ、エセルトと親しくしていたら何かしらの要因で死んでいた。




 シャーリーはエセルトを探していた。思い出した今となっては、もう思い出した人生分だけエセルトをよく知っている。その分だけエセルトと幼馴染として生きた事実が頭に残っている。




 シャーリーはエセルトに言いたいことがあった。話したいこともたくさんあった。捜し歩いて、この前エセルトと話した場所にはまだいっていないことに気づいた。



 そこに足を運ぶ。




 「エセルト!!」




 そこに、エセルトは居た。


 エセルトの名を呼んだ私の方を、エセルトが振り返る。そして、私の顔を見て諦めたような顔をした。





 「……やっぱ、思い出したのか。あいつ……」

 「神様にあいつなんて、言わないの! それに思い出したのは、私がそれを願ったからよ!」

 「なんで……だよ。何度もやり直した記憶なんてあっても辛いだけだろ!」

 「忘れたくなかったから、に決まっているじゃない!! 大体、思い出してみて思うけど、あんたどれだけやり直しているのよ!! 私が死ぬ運命だったっていうならそれでいいじゃない。あんなに、記憶が残ったままやり直すなんて———!!」





 シャーリーは思う。自分はまだいいんだと。なぜならすべてが終わってから思い出したから。




 でもエセルトは違うのだ。やり直すときに毎回記憶があった。その状態で、何度も何度も、何度もやり直した。





 「シャーリーが死んで、良いわけあるか!!」

 「だからって、あれだけやり直すなら普通諦めるでしょうが! あんた、どれだけ私のこと、好きなのよ!」





 思わず叫んでしまったのは、過去の何度もやり直した人生を思い起こしたからだ。そもそも好きでもない相手のために何度も何度も人生をやり直したりなんてしないだろう。




 「……好きで、悪いかよ」

 「……悪くないけど、そこで照れないでよ。私も恥ずかしくなるじゃない」




 照れたようにそっぽむく勇者に、シャーリーの声も小さくなる。




 「あれ、でしょ。あんた、私に関わるなといいながらこの街にいるのも、私と同じ街にいるためとか、なんでしょ、どうせ」

 「……ああ。悪いか」

 「悪くは、ないわ。でも関わりたくないならここにこなきゃよかったのに」

 「……それは、俺が嫌だったから」

 「大体諦めてもよかったのに。私は、死ぬたびに、エセルトが苦しまなければいいって、幸せになってくれればいいって……。無事に魔王を倒してくれればいいって思ってたのに……。エセルトは……、魔王を倒してもまた、やり直して。やり直して……魔王を倒せなかったらどうするつもりだったの」

 「その時はその時だ。シャーリーも、俺も死んだってだけだろう」

 「……世界が大変なことになったたわよ? きっと。魔王を倒すのも大変なことなのに」

 「もう慣れたからさっさと倒せるし、途中からはただの作業だった」







 何度も何度もやり直しすぎて、魔王退治が作業と化していたなどと、他のものが聞いたら卒倒しそうなことをエセルトはのたまった。




 「エセルト、私、あんたとこれからかかわって生きていくから。エセルトに拒否権はないから」




 シャーリーが宣言すれば、エセルトは動揺した表情をする。




 「待て。シャーリー。思い出したのは、わかるが……俺とかかわって何度死んだと思っているんだ。もうやり直せない、のに」

 「……だから、何? 私はエセルトの傍に居たいもの。私は私のやりたいようにするわ。……というか、エセルトのことだから、どうせ、最後の神への願いも私に関することでしょう?」

 「………」

 「無言ってことは図星ね。なら、大丈夫じゃないかしら」




 そういって、シャーリーはにんまりと笑った。


 そしてエセルトに近づく。





 「ねぇ、エセルト。あんた、今までの記憶の中で、ただの一度も、私のこと、なんて思っているか言ってくれたことないんだけど」

 「……っ」

 「さっき、私のこと、好きだって認めてたわよね? 今までの記憶からエセルトの思いなんてバレバレだけど、ちゃんと、聞きたいわ」





 ……シャーリーがそういってエセルトのことを見上げる。


 


 「私はエセルトが嫌がってもエセルトの傍にいるわよ。どうせ、私のこと邪険には出来ないでしょう? いいから、諦めて、言ってほしいわ」




 エセルトはシャーリーがまた死ぬことを恐れている。ましてや、もう願いはかなえられたあと、もうやり直しは出来ないから。勇者に関わって、シャーリーはしんだ。かかわらないで過ごしたら生きながらえた。




 だからかかわることを恐れていた。だけど、シャーリーは思い出した以上、勇者の側を離れる気はない。




 「――――シャーリー」




 そして、その決意が分かったから勇者は決意したような声で、シャーリーを呼んでその身体を抱きしめた。すっぽりと、腕の中にシャーリーが収まる。




 「生きててくれて、ありがとう」

 「……うん」




 シャーリーが生きていることが嬉しいと、その声がいっている。


 「―――愛している」

 「うん、私も」




 エセルトの言葉に、シャーリーは答えた。












 そして、二人はその後ともに生きることになった。

 今まで関わり合いが全然なかった。ただの同じ村の出身者であっただけだった。それなのにどうして、と誰もが聞いた。




 それに、二人は「秘密」とだけ答えた。




 彼らの事実を知るのは、彼ら自身と、

 ―――やっと、共に未来を歩めるんだね。良かったよかった。

 と楽しそうに彼らを見ていた神だけだった。










 ―――――これは魔王討伐を終えたあとの、とある勇者ととある少女の物語

 (勇者はやり直してやり直して、やり直して———ようやく少女との未来を歩める)

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