第6話 好き同士

あの後、コーヒーカップに乗ったりお化け屋敷に入ったりして私が用意したプランで佳恵と夢の国で1日を過ごした。


特にお化け屋敷は、小さい子も楽しめると話題の怖さは少なめのアトラクションで長蛇の列ができていた。絶叫系よりも混んでいるのを見て佳恵に並んでも大丈夫か問うと、彼女は笑顔で頷いた。

そして順番が来るまでの間、お互いが知らないお互いの2年間の話をしあった。


「私、もう佳恵とは一生会えないんじゃないかなって思ってた」

「寂しかった?」

「どうかな?」

「え、なにそれ。私、悲しい」

「うそうそ(笑)あの頃の私にとっては、親友みたいな存在だったし正直寂しかったよ。大学でもバイト先でも友達できないし、高校の頃の友達はそもそも東京来てないから会うの難しくて…。東京に来てからずっと1人だった」

「そっか。そんなこと言ってくれるなんてうれしい」

「でも、もうちょっと早く連絡してくれてもよかったじゃん!」

「未来だって連絡してこなかったじゃん。同じだよ~」

「だって、自分からSNSを控えるって言ったし、しかも私の受験が終われば次は佳恵の受験だって気づいちゃったら話しかけにくくて…。そこからズルズル来ちゃったわけで…。しかも気になってSNS覗いたら、いつの間にか女の子になっちゃってて昔の佳恵じゃなくなっちゃたのかなって思っちゃったし」

「え?私のSNS覗いてたんだ」

「え…あっ。違う!最近ね!定期的に見てたわけじゃないよ!本当。最近ふと、佳恵を思い出してもう2年も話してないし会ってないなぁって、興味本位で猫の道って調べてみたらまだアカウントがあって、それで…」

「やっぱり、私の事気になってたんじゃん」

「気にしてたわけじゃないの!ふと思い出したんだって!」

「えへへ。でも、忘れられてなくてよかった」

「忘れるわけないじゃん。私の人生で佳恵といたことが一番濃い思い出だもん。私の青春の思い出だもん」

「そっか。じゃあこれからも思い出、更新してこうね」

そうやって呟き、私を見る佳恵の顔は2年前の面影があり胸がキュンとなった。


順番が回ってきて私達は中に入る。

古びた洋館がモチーフの薄暗い廊下を歩いていくと、そこには…愉快な音楽とともに夢の国のキャラクター達がお化けになってパーティをしている映像が流れていた。最初から最後まで脅かし要素は一切なくて、パーティへようこそ!とお化けたちにただひたすら歓迎されるだけ。


私はホラーは苦手だけど佳恵といい雰囲気になるかなと思って、今まで避けてきたこのアトラクションに入ると決意していた。

しかし、予想外のお化け屋敷には雰囲気も何もなかった。

でも佳恵は「かわいいね」と喜んでくれていた。


だから、まぁ、いっか。


夜になりレストランに入る。

夢の国ならではの料理がたくさんあって、2人で目を輝かせながらより取り見取りのメニューから夕飯を選んだ。写真映え間違いなしのテーブル席を選ぶと、佳恵は喜んでいろんな方向からいろんなフィルターを駆使してパシャパシャと写真タイムを楽しんでいた。案の定SNSに載せるらしい。


お腹いっぱいになって私達はレストランを出る。屋内の冷房が効きすぎていたせいか、外は3月の温かい風が気持ちよかった。この後は夢の国の名物イベントである花火大会を、ネット記事に書いてあったオススメスポットで見る予定だ。


「じゃあ、この後はね…」

「未来。私、あれ乗りたい」


佳恵が指さしたのは、夢の国のシンボルでもある大きな観覧車だった。


私は観覧車を見上げて悩む。


花火はもうすぐで始まる。あのゆっくり動く観覧車に乗っていればオススメスポットは人だかりができてうまく見れないだろう。


しかも私にとっては観覧車は絶叫系の類。私は、高い所が苦手なのだ。

でも、乗るアトラクションを私に任せてくれた佳恵が、最後の最後に乗りたがっているんだから期待には応えなきゃいけない。


「うん。わかった。観覧車ね。乗ろっか」


この観覧車は大きくて、夢の国を一望できることで知られているが実は花火はあまりきれいに見えない。だからこの時間はアトラクションから人が消える。

観覧車も、いつもの時間はさっきのお化け屋敷ぐらい並ぶが5分も待たず乗ることができた。そして観覧車に乗ってからあることに気づいた。


ここは、2人きりの密室だということに。


私達の乗る観覧車のドアをスタッフさんが閉め、その反動で観覧車は揺れながら徐々に上昇していく。2人向かい合わせで座っていて、少し緊張してしまう。

不自然にならないように佳恵から目を背けようと外を見たが、もうすでに高い。

高いのちょっと怖いかも…。前も、横も見れないなんて詰んでいる…。


「未来」


佳恵が外を見ながら私を呼ぶ。

「ふぇっ!?なに?!」

いきなり呼ばれてビックリしてしまった。絶対緊張してることを悟られた。


「私、未来のために変わったんだよ」

「え?どゆこと?」

「お昼も言ったけど、未来に綺麗になったって思ってほしくて、連絡とってない間にたくさん学校の勉強もしたし、おしゃれも勉強して研究したんだ」

「う、うん。言ってたね」

「…初めて話した時の事覚えてる?私が女の子を好きだってカミングアウトしたの」

「お、覚えてるよ」


「あのね…好きだよ。今でも」


ずっと外を見ていた佳恵がこちらを向く。

私は咄嗟に顔をそらしてしまった。


「未来とたくさん話して、お出かけしてさ、だんだん好きになっていってた。でもあの頃は怖かった。直接、好きだっていうのが。でも2年間で何か自分も頑張ろうって思ったときに自信がある自分になって未来に告白しようって決意した。もし付き合えたら、私が隣を歩いても未来が何か言われるなんて嫌だったから綺麗になろうとしたし、気にしいでネガティブな未来を支えることができるように大学は心理学を専攻することにした」



・・・今、私は告白をされている?

待って待って。だって私が先にするって決めたじゃん。なんで固まってんの、私。


動きは完全にフリーズしてしまった。ただただ鼓動だけが早くなる。


「…未来は、男の子が恋愛対象だっていうのはわかってる。でも2年間この言葉を伝えるために努力してきたから、もう我慢ができなかったの。急にごめんね」



なんで謝るの。私だって、私だって佳恵のこと…


「好き」


緊張で口が震え、安定しない好きが口から出てしまった。

やっとフリーズから勇気を振り絞れた。

もう、言葉はまとまってないけど言おう。


「私も佳恵が好き。当たり前に会えてた2年前は親友として大好きだったけど、やっぱりふと思い出して好きだったなぁって寂しくなってたし、やっと佳恵と連絡を取ってみようかと思ってSNSを見たら変わりすぎてて、もう私のことなんて忘れちゃったのかなってショックだった。でも佳恵から連絡が来て嬉しくて嬉しくて久しぶりにスキップとかしちゃったし。だから、自分から告白しようって決めてたの。でも、勇気出なかった。私女の子同士の恋愛とかよくわからないけど、歳は私のが1個上なんだからしっかりしなきゃいけなのに本当に頼りないと思う。今も言葉がまとまってないし。でもね、私の方こそ佳恵の事好きって思ってるよって言いたくて」


観覧車が揺れる。


気づくと向かい合って座っていた佳恵がこっちにきて抱き着いていた。

その時にここが観覧車であることを思い出し、急に我に返って怖くなった。


「ごめん!私観覧車怖いんだ!」


私の大きな声に佳恵はビックリして少し離れたけど、ゆっくり横に座ってきた。

思いのほか観覧車は傾きはしなかった。


「未来。好きだよ」

佳恵は安堵して嬉しそうに言う。

私をじっとみつめていて、手もいつの間にか触れ合っていた。


「私も、佳恵のこと好き」

「そう言ってもらえるなんて、ほんと幸せ」


佳恵の指が私の指の間に絡まってきて、触れ合っていただけの手が恋人つなぎになる。


「あ、あと言い忘れてた。そのネックレス」

「あ、これ。佳恵がくれたやつだよ」

「2年前にあげたアンスリウムのネックレス。大切にしてくれてたんだね」

「うん。佳恵からもらったものだもん」

「それ、花言葉があってね」

「煩悩、恋に悶える心でしょ?」

「あ、調べたんだ」

「好きな花だっていうから。佳恵の誕生花なんだね。花言葉もかわいいし、花自体もかわいかった。乙女な花だよね。私も好きだよアンスリウム」

「乙女…?」


その時、遠くでバーンと花火が打ちあがった音が聞こえた。

綺麗な花火の光が観覧車に届く。


「あ、花火始まったね!でも私、外見れないや…佳恵?」


いつの間にか佳恵の表情が喜んだ顔から少し悲しげな表情になっていた。

「…涼香ちゃん」

「どうした?花火の音でよく聞こえなくて」


私が大きめの声で言葉をかけると、佳恵はハッと我に返った。

「えっ?あ、なんでもない。嬉しかったからフリーズしちゃってたかも」

「なにそれ(笑)」

「あ、もう観覧車地上に着くよ。…ってことで、今から彼女と彼女だからね」

「う…うん。緊張するけど、よろしくお願いします」

「…私、未来の事大切にする。幸せにするから」


そうして観覧車を降りた後は、もう1個乗ってない絶叫系があると言って佳恵に無理やり絶叫系に乗せられた。付き合っているという緊張にプラスして、絶叫系に乗る時特有の緊張が現れたから乗った記憶はほとんどないけど。


でも落ちる瞬間を撮られた写真には、恋人繋ぎで万歳をしながら落ちる2人が映っていた。片方はやったー!って叫んでいるような笑顔でいて、はたまた片方は手をつないでいない方の手で必死に乗り物にしがみついて、こわばっている顔をしていた。


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