第38話

 霧島先輩にこんこんと折檻された俺はキャンピングカーを隠すように高架下に停車。

 片耳にワイヤレスマイクを装着した俺と霧島先輩が感染者を捌きながら、電動キックボードで監視カメラを設置。

 エンジンを落とし、監視カメラの映像を確認できた状態で作戦会議に入る。

 バイオハザードという状況で避けては通れない道。武器の調達についてだ。

 

 玲ちゃんは村雨先生の膝の上にいる。

 言動こそ生意気ではあるが、幼女にしては空気が読める上、ツンデレということで女子陣からの人気が高い。

 悪くない傾向だ。それ故に霧島先輩の弱点克服は急務といえる。それについては個別に村雨先生にお願いするつもりだ。

 というより、


「まずは今後の方針を共有するためにチーム全員で行う。その後、村雨先生、霧島先輩、瀬奈の全員とそれぞれ個別に作戦会議だ」

「ん? いまこうしてチーム全員が集まっているのにわざわざ個別にするのか? 一緒にやってしまえばいいと思うのだが」

「これだから脳筋先輩は。秋葉くんには秋葉くんなりの考えがあるのよ。そうでしょ?」

「チッ」


 意味深な視線を送ってくる瀬奈と忌々しげに舌打ちをする霧島先輩。

 俺のことを太ももに挟んでからというものの、瀬奈は先輩に対して勝ち気でどこか挑発的になっている。

 雰囲気的に致命的な不仲ではないと判断。それに発展しかねない場合は村雨先生にお願いすることになるが、彼女は彼女で「実に楽しい光景だ。ねえ、玲くん」と頭を撫でている。

 この分じゃ、二人の視線の応酬は問題ないだろう。


「わざわざ個別に行うのは方針を共有後に各担当に専門的な話合いをするからだ。隠しているわけではないが、聞いたところで興味が薄い分野は理解できない。時間の無駄だと判断した。それぞれの時間を過ごしてくれればそれでいい」

「などと言っているが、この言葉を意訳すると、俺様が個別に専門的な指示を送るから集中力を欠かさずに聴きやがれ、だよ。玲くんはどう思う?」

「人遣いの荒いリーダーね」

 

 くそっ。綺麗に枠に収まっているな。

 見事に図星を突いてくるところもさすが村雨先生だ。


「……否定はしない」

「俺は雄ライオンだ。雌は働けと言っているよ玲くん」

「最低ね」

「それは言ってねえよ」


 さすがにそれは曲解だ。

「玲くんを揶揄うのもその辺にしてあげてはどうだ先生。個別に専門的な話をそれぞれにするということはそれだけ秋葉が熟考していた時間が長かったということ。頭脳も立派な労働だ」

「悔しいけどそれに関しては霧島先輩に同感ね」

 さっきまで言い争っていたかと思えば今度は俺の擁護。忙しい二人だ――と思ったが、どうやらこれは誘導されているな。

 俺の個別の打ち合わせが進み易くなるよう、村雨先生がワザと玲ちゃんを使って俺を悪く言っていたのだろう。

 やはり食えない大人の女性だ。副司令官は彼女以外にありえない。


「では。これから武器を調達するために動き始めようと思います」

「ほう」「やっとか」「待ってたわ」

 俺の言葉に三人の反応は劇的だった。

 できるかぎり安全を確保できるよう心がけていたとはいえ、やはり丸腰は心もとなかったのだろう。


「全員共通の武器として拳銃を、そして霧島先輩には刀を握ってもらおうと考えています」

「問題は以前も言ったとおり、入手先だね」

「ええ。それは私も気になっていたのだけどどうしてじゃなく、なの?」

 と瀬奈。

「理由は二つ。一つは善と悪。どちらから武器を奪い取ることに抵抗がないか、精神的な抵抗力の差だ。今すぐ警察署に駆けつければ火の海が待っているだろう。場合によっては市民を守ろうと必死に攻防している可能性もある」

「反社ならどうなろうと構わないと?」

 と霧島先輩。

「そこまでは言いませんが襲われる覚悟のある者たちではあります。いえ、襲われても仕方がない者たち、でしょうか。どちらにせよ存在自体が覚悟の上に成りなっている人です」

「なるほど。武器を奪うことを、場合によっては命を奪うことに少しでも摩擦を抑えようというわけか。よく考えられている――私の仕事もたくさんありそうだ」

 

 いち早く個別会議で仕事を振られることを察した村雨先生が苦笑混じりに言う。


「でもそういう人たちってやっぱり一筋縄でいかないんじゃないかしら? 危険じゃない?」

「危険なのはどちらも一緒だ。だが、警察署は阿鼻叫喚なのは間違いない。恐怖に取り憑かれた市民が逃げ込む先の一つだからな。その分、肝が据わっている相手の方がやり易い――と判断した。そこについては個別会議で二人一組で行動する霧島先輩と詰めるつもりだ」

 神妙な面持ちで頷く先輩。

 俺が拳銃と刀を入手するため暴力団事務所を選択したのにはもう一つ別の訳がある。

 彼女が子どもに手を加えられない点だ。

 警察署と暴力団事務所ではどちらが彼女の弱点を現れる可能性が高いかは言うまでもない。


「今回の襲撃に関してはチーム全員が明確に役割分担がある。村雨先生は精神メンタルケア、感染者・健常者問わず人間に暴力を振るうことに対する心理的抵抗の緩和、それに加担する瀬奈の罪悪感を取り除くための診療となります。次に霧島先輩は俺と二人一組ツーマンセルで暴力団事務所の制圧、武器の調達回収となります。そのためにお願いしたいことがいくつかあります。そして最後に瀬奈。お前には得意のハッキングで収集してもらいたい情報がある。各々の個別会議後、襲撃できる準備が整ったら再度全体会議で最終調整を行います。何か異論や質問はありますか?」


「君に任せよう」「大丈だ。任せる」「任せるわ」


「よし。それじゃ次は個別会議だ。まずは――」

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