海辺の逃避思考

其所は真っ暗な深海だった。


底は冷たい。


まるで冷蔵庫の様に

何もかもを冷やしていた。



例えばそう、


平たい石の上に転がる珊瑚の死骸。


それらを操る薄汚い蛸


彼等は一度入ってしまったこの場所から

一生出ることはないだろう。



例えばそう、


水中を泳ぐ魚達。


綺麗な尾びれを揺らす冷たい心


淀んだ彼女等の色は他の魚を飲み込む色だ。




僕は深海に通うヤドカリだった。



ヤドカリなんかじゃこんな所


住めやしないのに馬鹿らしい。



いつか過ごしたあの場所、


青い空が輝く白い砂浜へ

暖かい太陽が包む砂浜へ


彼処へ帰るとき


僕は深海の有難みを感じることができるだろう


……という呪文。



自分の重たい殻を呪いながら


僕はまた、あの冷たい深海へ向かう。



冷えゆく生命に気付きもしないまま。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る