89日目 『世界は統合できるか』

 

 万有引力の法則を知っているだろうか。


 アイザック・ニュートンが17世紀に発見した物理法則だ。


 簡単に説明するなら、“質量が大きな物体ほど強い重力を持ち、物体から距離が近いほど重力は強く、遠いほど弱い”という法則でね。


 この法則は一定の数式を当てはめることができ、これによって様々な自然現象を統合された一つの式によって説明することを可能にした。


 例えば惑星の公転運動などもこの式によって計算ができる。


 ニュートンは木からリンゴが落ちるのを見たときに、この万有引力の法則についてインスピレーションを得たというエピソードがあるが……


 物体が地面に向かって落下するという動きと、宇宙空間における天体の動きが実は同じ一定の法則で解釈が可能ということに気づいたわけだ。


 前者のようなごく身近な出来事と、後者のようなスケールの大きい出来事が、同じ法則に従ってもたらされている。


 この発見によって、我々の身近に広がる小さな世界と、宇宙全体に広がる大きな世界は一つに統合されたわけだ。


 だが、時代が進むにつれて、万有引力の法則が当てはまらない世界が存在することが明らかになる。


 太陽に一番近い惑星である水星。


 時代が進むにつれてニュートンの時代よりも惑星の軌道をより細かく観測することが出来るようになったのだが……


 実はこの水星の軌道を非常に細かい精度で観測したとき、万有引力の法則に基づく公式で計算される軌道とはごく僅かにズレた動きをしていることが明らかになったんだ。


 科学者たちは“水星と太陽のあいだにまだ発見されていない未知の惑星があり、その影響で水星の軌道がズレているのだ”という仮説を打ち出し、その未知の惑星の観測に乗り出したが、一向にそのようなものを見つけることはできなかった。


 これを解決したのがアインシュタインだ。


 アインシュタインが提唱した一般相対性理論については知っているだろうか?


 簡単に説明すると、“質量を持つ物体は、重力で周りの時空を歪め、歪んだ時空にある物体は、その歪みの影響を受けて、引っ張られたように動く”というものでね。


 万有引力の法則では、質量を持つ物体は重力という“引っ張る力”を発生させているという解釈だったが……


 一般相対性理論ではそうではなく、時空を歪めることで周りの物体が引っ張られるような動きをする、という風に少し違った解釈をしたわけだ。


 一般相対性理論の解釈だと、殆どの場合は万有引力の法則と同じになるのだが、極端に質量の大きい物体が周囲のものを動かす際の式が異なる形になる。


 例えば、太陽のような巨大な恒星と、そのすぐ近くにある惑星の動き、とかね。


 そしてこの一般相対性理論に基づく公式で計算したところ、計算された水星の軌道が観測結果と完全に一致した。


 これによって、矛盾は解消されて世界は再び一つに統合されたわけだ。


 だが、更に研究が進むにつれてこの一般相対性理論が当てはまらない世界の存在が明らかになった。


 それが量子力学の世界だ。


 量子力学については知っているだろうか?


 簡単に説明すると、分子とか原子とかそういう極小の世界を研究する学問なのだが……


 こういう極小の世界においては一般相対性理論が当てはまらないことが現代の研究ではわかっている。


 原子にもごく小さいながら質量があり、それによって時空を歪ませて重力を発生させている筈なのだが……


 こういう極小の世界での原子や分子の運動を観測したところ、そういったこととは全く無関係の動きをしていることが明らかになった。


 一般相対性理論で説明される世界と、量子力学の世界。


 この二つは未だに矛盾したままで統合はされていない。


 現代の科学者たちはこの二つを統合するための理論を作り出すことに心血を注いでいるわけだ。


 でもねえ。


 わたしとしては、それはできないんじゃないかと思っている。


 いや、科学者の人たちを貶めるつもりは一切ないのだが……


 わたしが思うにこの世界というのは元々“矛盾を孕むもの”であり、場所によって全く異なる力が働いているもの。


 そういうものなのだと思っている。


 例えば、アポロ計画。


 あれについてはずっと昔から“実際は月に行っていない”という説が挙がり続けている。


 アポロ計画はNASAの捏造だと主張する人は絶えない。


 最初にこれを主張したのは平面地球協会という団体で、


 彼らは地球は球ではなく平らな形をしているという主張をしている。


 アポロ11号が月に行った世界と、行っていない世界。


 地球が球体である世界と、平面である世界。


 わたしたちはこの矛盾する世界観が重なった世界に生きている。


 こういう例は他にもいくらでもある。


 マイケル・ジャクソンは児童に性的虐待をしていたのか、していなかったのか。


 リー・ハーヴェイ・オズワルドはケネディを撃ったのか、撃っていないのか。


 どちらの主張も存在していて、両者は矛盾するわけだが……


 わたしはこれらの矛盾について、どちらか一方が嘘をついているとは思っていない。


 両立し得ないことが両立する。


 この世界はもともとそういう性質なのだと、そう思っている。


 だからこう考えてほしい。


 君の見る世界では、冷蔵庫には君の買ったプリンが入っていた筈なのにいつの間にかなくなっていた。


 わたしの見る世界では、冷蔵庫には元々プリンなど入っていなかった。


 この二つは両立し得ない世界観だが……


 その二つが重なる世界にわたしたちは生きている。


 そのように考えてみてはどうだろうか。

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