54日目 『平家物語・扇の的』


 ええ。


 はい。


 頭はだいぶスッキリしています。


 気分もいいです。


 大丈夫です。


 なんでも聞いてください。


 はい。


 ええ、もちろん知っています。


 有名な話ですよね。


 あの、的を、射るやつですよね?


 遠くから一発で。


 はい。


 もちろん知っています。


 あれですよね?


 源氏と平家の戦いの。


 あってますよね?


 それだったら知ってます。


 ええと、確か、


 あれですよね。


 的が何かの乗り物に乗ってましたよね?


 いや、大丈夫です。


 思い出せます。


 小舟、ですよね。


 で、射手はあの人ですよね。


 あの有名な。


 那須与一。


 ええ、覚えてます。


 で、的になったのが、


 あれですよね。


 ジョン・F・ケネディ大統領。


 これです。


 これで間違いありません。


 ……違うところが一箇所ある?


 おかしいですね。


 平氏軍がジョン・F・ケネディ大統領を乗せた小舟を出して、源氏軍に「このケネディを射よ。外せば源氏の名折れになるぞ」と挑発。そこから源氏の代表として那須与一が挑み、見事鏑矢の一射でケネディ大統領を撃ち抜いた。


 そういう話じゃないでしたっけ?


 ……違うところが一箇所ある?


 おかしいですね。


 源氏と平氏の戦いってのはあってます?


 あってますよね。


 あ、もしかして。


 的が乗ってた乗り物は、小舟じゃなくて、リムジンでした?


 そこじゃない?


 そこは小舟であってます?


 ええと。


 じゃあ、あれかな。


 源氏の代表として選ばれた武者が、リー・ハーヴェイ・オズワルドですか?


 そこじゃないですか?


 うーん。


 ……あ。


 もしかしてなんですけど。


 的。


 的はジョン・F・ケネディ大統領じゃなくて、


 扇ですか?


 ああ、そうでしたそうでした。


 那須与一が扇の的を射抜く。


 そういう話でしたね。


 ええ、大丈夫です。


 ちゃんと覚えてます。


 あれですよね。


 扇の的を射た後に、那須与一が言ったんですよね。


「俺は嵌められたんだ!」って。


 ……言ってない?


 あれ。


 おかしいな。


 那須与一は源義経に嵌められたんじゃないでしたっけ。


 嵌められてない?


 あ、そうか。


 リー・ハーヴェイ・オズワルドが嵌められたんでしたね。


 源義経に。


 ……違います?


 リー・ハーヴェイ・オズワルドを嵌めたのは源義経じゃない?


 別の人間ですか?


 じゃあ源義経は誰を嵌めたんです?


 誰も嵌めてない?


 源義経って誰も嵌めてないんですか?


 ええと。


 ちょっと紙に書いて整理します。


 乗り物は小舟で、的は扇、射手は那須与一。


 この組み合わせであってます?


 あってますね?


 つまり、こういうことですか。


 平氏軍が扇を乗せた小舟を出して、源氏軍に「この扇を射よ。外せば源氏の名折れになるぞ」と挑発。そこから源氏の代表として那須与一が挑み、見事鏑矢の一射で扇を撃ち抜いた。


 これであってます?


 ああ、よかった。


 スッキリしました。


 ちょっと記憶がごっちゃになってたみたいですね。


 これがあれですよね。


 『平家物語』の一説ですよね。


 ええ、もちろん知ってますよ。


 エイブラハム・ザプルーダー作、『平家物語』ですよね。


 あれ。


 『平家物語』の作者って、エイブラハム・ザプルーダーじゃないでしたっけ?

 

 違います?


 エイブラハム・ザプルーダーはケネディ大統領が狙撃された瞬間を偶然カメラで撮影してた人?


 ああ、そうかそうか。


 すいません、記憶がごっちゃになってまして。


 ちょっと紙に書いて整理します。


 乗り物が小舟、的が扇、射手が那須与一。


 これが『平家物語』ですね?


 で、乗り物がリムジン、的が大統領、射手がリー・ハーヴェイ・オズワルド。


 これがケネディ大統領暗殺事件。


 これであってます?


 ああ、よかった。


 スッキリしました。


 もう大丈夫です。


 頭はとてもハッキリしています。


 ええ。


 あれですよね。


 確か。


 息子の頭上のリンゴを射抜いたのも那須与一ですよね?

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