第88話 ゴーレムアーマー強化計画
黄鉄鉱を回収した。
鉱山で、掘り終わったものを放置してあるので、これを持っていっていいかと聞いたのである。
すると、自由にしていいと返ってきた。
「どうせ、儀式の時にならなきゃ使わねえんだし」
「いつも多めに採掘してるもんなあ」
「ラギール様の恩寵は、一回使ったら一生モンだしな」
そこそこ量産はされるが、数はいらないものらしい。
鉱山の人間は驚くほど少なく、その人数で国中の黄鉄鉱を賄っているらしかった。
それでも余るほどの採掘量。
「では遠慮なくいただいていく」
「ほうほう、やっぱモノが違うぜ。ただの黄鉄鉱じゃねえ」
ルーザックとズムユードが、これをほいほいと持っていく。
目玉爆撃機の、本来であれば爆弾を満載するところに積み込むのだ。
『重くなるではないか。飛ばすのは我輩なのだぞ』
サイクがぶうぶうと不平を言った。
どうやら魔力を使って飛行するにも、荷重は気になるものらしい。
「だがよ、サイク。こいつを加工すりゃ、爆撃機の性能が上がるぞ。具体的には全体的に一割くらい動きが良くなって、あとは多分、隠し玉が使えるようになる」
『隠し玉だと? なんだそれは』
「なんだそれは」
サイクの他にルーザックまで興味を示してきた。
「おう、旦那も気になるか狂戦士になるシステムを利用するんだけどよ……」
男どもが集まって、ワイワイキャッキャと今後の展望のお話をしている。
アリーシャとジュギィは、鉱山労働者からおやつを分けてもらいながらそれを見ていた。
これは、鳥の皮などを素揚げにしたものである。
パリパリ、じゅわっとしていて美味しい。
味付けは塩だけだが、それでもどんどんいける。
「おいしいー」
ジュギィがニコニコした。
これを見て、鉱山の男たちもニコニコする。基本的にずっとニコニコしているのだが。
「それにしても、また戦争の話ばっかりしてるわねえ。ほんと、男ってやーねー」
鳥皮をパクパクやりながら、渋いお茶でこれを流し込むアリーシャ。
魔族となった彼女は、もう体脂肪や体重なんて気にしなくていいのだ。
体についた余分な脂は、すぐ魔力に変換されて全身に充填される。
むしろ、積極的にジャンクなものを取り入れていった方が、彼女が持つ特殊能力、瞬間移動のキレが良くなるとも言える。
「ま、お陰であたしたちは勝ててるんだけどさあ。こう、ねえ」
「おいしいー」
ジュギィが何枚目かの鳥皮をもぐもぐしている。
大雑把に切り分けたものなので、結構肉が付いていて、これもまた香ばしくておいしい。
「あたしはねえ、女子がもうちょっと増えてもいいかなーって。ピスティルが一生懸命抵抗してるけど、セーラはどっちかって言うとルーちん側でしょ? ジュギィはルーちんの一の子分だしー」
「んー? ジュギィはね、ルーザックサマもアリーシャサマもスキだよ」
「うーん! かわいい!」
アリーシャは、脂がついてない方の手でジュギィをナデナデした。
一方、男子組。
『なんだと!? それは凄いな! 我輩も剣王めに一泡吹かせられそうだ。というか、あやつは聖剣が無くなっておるからな。今なら勝てるぞ』
「サイク、小物ムーブはやめるのだ」
『なにい、我輩が小物だと……!?』
「そういうのは後でこてんぱんにやられれるフラグなのだ。どんな時でも、慎重に慎重に攻めれば間違いがない」
『前々から思っておったが、ルーザック。お前は勝てそうな時でも慎重にいくなあ。常に策が当たっているのだから、もっと傲慢になってもよかろうに』
「策が当たる時は、たいてい私が謙虚に作戦を実行している時だ。つまり、私が謙虚であることが成功要因の一つであると考えられる。常に、同じ状況を用意することで策を成功させることもパターン化、マニュアル化しているのだよ」
『相変わらずわけの分からん男だ! だが、それで勝っているのだから間違いないのだろうな! どうだ、もう積み込みは終わりか!』
「おうおう。お陰様でな。おーい、アリーシャの嬢ちゃん! ジュギィ! 帰るぞー!」
ズムユードの呼びかけを受けて、アリーシャとジュギィが帰ってきた。
鉱山の男たちに手を振って別れている。
「ジュギィを見ても何にも言わなかったし、ここってそこそこいいところなんじゃない? 素朴だけど食べ物もまあ美味しいし」
「うむ、勇者ラギールが、彼なりに人間を幸福に生存させるため作り上げた国家だからな。人の精神はラギールによって制限されるが、それ故に誰もが単純で素朴になる。進歩することがなければ、永遠に同じ暮らしを続けていくことも理論的には可能だろうからな」
「そうねえ。あたしはあんま向上心とか無いから、これはこれで好きかな。今まで行った国の中で一番居心地がいいよ」
「だが、この国で暮らすとなったら、ラギールのクサビを受け入れて感情を喪失せねばならないがな」
「うえええ、それはいや」
「うむ、私もいやだ。というか、私は向上心が無い国はちょっと向かないな」
「ほう、ルーちんもだめでしたか」
「ダメでしたのだ」
「ジュギィもー!」
「ジュギィもか。どうやら我々にこの国は合わんな」
わーっと盛り上がる三人。
「おーい、そこの親子、こっち来て手伝ってくれえ」
「だーれが親子よ!」
ズムユードの呼びかけに、駆け寄ったアリーシャがその頭をぺちんと叩いた。
「あいてっ! だってお前ら、三人並んでると親子みたいじゃねえか。付き合いも一番長いんだろ?」
「そりゃそうだけどさあ。おや、ズムちんなにしてんのよ」
「ズムちんっておめえ……まあいいか。あのな、黄鉄鉱の質にもムラがあるんだよ。ちゃんとしたのと、ちょっと質が悪いやつ。質がいいのは旦那のゴーレムアーマー野サイクに使って、質が悪いやつは常に組み込むんじゃなく、一瞬効果を発揮する武器になるんじゃねえかなって」
「あー、さっぱり分からんわー」
「だろうなあ……。おうい、旦那にジュギィも来てくれえ! 輝きが弱いやつを選り分けてくれ!」
「うむ」
「はーい」
ということで、黄鉄鉱の選り分けを行いつつ、目玉爆撃機はバーバヤガ上空をダークアイに向けて進んでいくのだった。
遠くに、先日訪れた瓦礫の山……いや、ラギールの城が見える。
何の手出しもしてこない。
「本当に素通りさせてくれたな。勇者ラギールは律儀な人物だ」
「律儀っておめえ……。いや、いいか」
『我輩が知る勇者は、もっと普通の人間的な感じだったがな』
「お、サイクはあれだったな。初代黒瞳王と一緒に戦ってたんだっけ?」
『うむ。あのお方とともに勇者どもと戦ったぞ。あれは良き時代であった。弱かった七王が、どんどん強くなってなあ。ついには一人ひとりで我輩と渡り合うほどまで成長した』
爆撃機の中央に鎮座するサイクが、遠い目をした。
『魔族は誰もが誇りを持ち、人間どもを圧倒しておった。黒瞳王陛下の采配の下、我輩たち悪魔は総勢で七騎。当時は七魔将などと名乗っておったなあ……』
「おいおいサイク! 勇者、勇者の話!」
『おうおう、そうであった』
「ったく、年寄は話があちこち飛んでいけねえ」
初代黒瞳王に付き従い、全ての魔族に畏敬を抱かせる悪魔、サイクロプスを前にしてズムユードも豪胆である。
『勇者はな、なんというか軟弱で、いちいち人間どもを守らねば先に進めぬ男であったぞ。あまりに頼りが無いので、七王をまとめていたのは剣王であった。あやつのぐいぐい前に進んでいく力が必要だったのだろうな。だが、今になれば、勇者めがバラバラの性格をした七王めをまとめ上げておったのだろうな』
「ほう。興味深い。今のラギールとは全く違うように思えるが」
『それはそうよ。あやつは陛下を倒した。その時、陛下は魔力の塊となり、勇者と一つになった。あの男の中には、初代黒瞳王陛下の魔力が渦巻いておる。故に狂ったのであろう』
「なるほど。では、彼と戦うことで、初代黒瞳王の手の内が少し分かるかもしれないというわけだな」
『うむ……って、なんだお前、陛下と戦うつもりなのか? 陛下はもう死んでおるぞ』
「いや、初代が別格と称されている話をあちこちで聞くからな。参考までにだ。参考までに」
『おかしな男だ』
「こうして点と点が繋がってくると、フラグなんだ。私は詳しいのだ」
「何いってんのルーちん」
誰も理解できない。
だが、ルーザックの中だけに、妙な予感めいたものがあるのだった。
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