第80話 我々はガルグイユ奥地に来ている
結成されたのは、ケンタウロス捜索隊。
その隊長となったのは、絶対にこの地位は譲らないし一番偉い人が説得に行くほうが三顧の礼という礼もあるし効果的だから!! と駄々をこねた黒瞳王ルーザック。
次に、何かと便利な魔法が使えて、知恵袋でもあるディオース。
そして、ご主人様の世話を三日しないと機能停止しますと駄々をこねたメイドゴーレムのセーラ。
この三名となった。
高速戦車に乗り込み、巡航速度でガルグイユの国内を突っ走る。
音はディオースの精霊魔法で消している。
だが、戦車の速度が上がりすぎるとディオースが気持ち悪くなり、音が消えなくなってしまう。
ルーザックには繊細な運転が要求された。
その結果、高速戦車の速度は人を載せた馬が走る程度まで落ちている。
「高速戦車の意味が」
「ご主人様、加減というものがございます。先日の国境線では、ブレーキとアクセルとバックを踏み間違えましたよね?」
「面目次第もない」
素直に謝れるルーザックである。
ディオースも、馬くらいの速度であれば気持ち悪くならないようだ。
外の景色を楽しみながら、精霊を使って情報収集を行うくらいの余裕は持てている。
「自らの足で走る必要が無いというのは、ゴーレムランドでも経験しましたがなかなかいいものですな。こうして魔法の行使に集中できる」
今も、接近してきていた騎士の一団を、見た目と音を消すことでやり過ごしている。
騎士たちは、横合いを通り過ぎていった強烈な風に首を傾げている。
まさか、敵対する魔族の国の王が真横を走っていったとは夢にも思わない。
かくして、数日をかけながらガルグイユの奥地へと踏み込んでいくケンタウロス捜索隊なのであった。
騎士王国ガルグイユは広大な国である。
一国のみで、大陸の三割を占める。
次いで大きいのは狂気王国バーバヤガ。
最小の国は神王国フォルトゥナ。
そして剣王国。
ちなみに、今現在のダークアイもまた、三国を合併した大きさになっているため、大陸の三割を占める大きさになっている。
正直、これだけの広さの国土ともなると、隅々まで把握しきれない。
さすがのルーザックも、最近はホークアイであった地方まで目が届いていなかった。
「これだけ広い国土を、何百年も維持してきたというのはなかなかのものだな。まあ、明らかに人の手が入っていない原生林が多いようだが」
「ガルグイユの民はあまり技術を取り入れることはないと聞いたことがあります。鋼鉄王が馬鹿にしていました。まあ、あの人は自分とメイド以外の全てを馬鹿にするのですが」
「言えている」
鋼鉄王にはシンパシーを感じるルーザックである。
だが、ともにめんどくさいオタク気質のため、絶対に分かり合うことはできなかっただろうと今も断言できる。
「それはそうと、ガルグイユでは技術の不足のために開拓ができなかったということか」
「はい。かの国では騎士王スタニックによる統治が行われていますが、政治そのものは原始的な民主制を敷いています。つまり、市民たちが直接政治を行うのです。その際、代表となるものが選挙で選ばれます。この選挙権は納税の金額が一定を越えたものが得ることができます」
「ほうほう。確かに、政治は面倒だからな。得意な人間に任せた方が良い」
「騎士王国とは言いますが、その騎士も大きく二分されるます。一つが、スタニックに仕える本来の騎士。天翼、旋風、水竜、岩山の四騎士団に所属する真の騎士です。もう一つは、職業としての騎士。役人とも呼べるでしょう。彼らが、己の地位の正当性を見せるためにオークを殺すなどして、正義をショー化しているのです」
「以前のオーク牧場だな。種族の尊厳を剥奪するとは、ひどいことをする」
「はい。ですがご主人様がオークを解放し、仲間に入れてしまったため、騎士王国の民はガス抜きとなる娯楽を一つ失った形になります」
「ほう、それは……利用できそうだな」
「はい」
ふっふっふ、と悪巧みをするルーザックとセーラである。
今も、騎士王国の内情はレジスタンスを通じてダークアイに筒抜けになっている。
ガルグイユの軍事機密などは完全に不明だが、それでも、国の情勢や流行り廃り、昨今の国民の様子などは分かるのだ。
「ですがご主人様。陰謀はいいのですが、実際、人間社会を熟知して陰謀を行えるのがご主人様お一人ですから……心配なのです」
「ふむ」
「相手に、策略を得意とする七王がいる可能性はありませんか? 私が危惧しますのは、魔導王ツァオドゥが国家の運営をしなくなったことで、その知略をご主人様への対策に向ける可能性があることなのです」
「さすがに詳しいなセーラ。そうか、ツァオドゥは知略系の七王だったか。そう言えば……ディオースも詳しかったな」
「然り。我らダークエルフを研究し、対策し、我らの技の特質を見抜いて無力化する。あれをやってのける魔導王は、魔法を行使するだけの相手ではありませんな」
「よし、分かった。策略ばかりに注力することは止めよう。いや、私以外にも陰謀を使いこなせるスタッフが欲しいな……」
「魔族に、あれほど人間の特性を知り尽くし、それを利用できる者がいるとは思えません。我ら魔族と人間は不倶戴天の敵でありますゆえな。もしも、それができるとすれば……」
「人間しかいないだろう。つまり、幹部になれる人間をスカウトする必要がある」
ルーザックの言葉に、ディオースとセーラは眉をひそめた。
「ルーザック殿、私は反対です。人間は所詮人間。必ず裏切りますぞ」
「ああ、魔族からするとそう思えるかも知れない。気を悪くしないでほしいのだが、魔族は人間と比べるとその性格の多様性に欠ける。均質に近い性質を持っているということだ。なお、ゴブリンは私が見る限り、極めて多様性に富んでいるが」
高速戦車は即席会議場となりながら、森の中を走っていく。
石や木の根を踏みつけてガタガタ揺れるが、会議に熱中する三人には気にならない。
「人間の中には、人間の滅びを望んでいるような個体もいるのだよ。私は詳しいんだ。そういう者を味方につける」
「そんな者が!? だが、それでは我らダークアイについたとしても、いつか我らの滅びを願うようになるのでは」
「ああ。滅びを願う人間の特徴は、共同体から排斥されていることだ。社会性に欠けているのだな。大抵は気難しく、社会に適応するには繊細過ぎる。そして自意識が過剰で、会話をする前に思考が挟まるため、円滑なコミュニケーションを不得意とする」
「詳しい」
「詳しすぎませんかご主人様」
「フフフ」
ルーザックはミステリアスに笑った。
割と人間だった頃の自分がそうである。
そして、人事部という役職の関係上、生前のルーザックこと柘植隆作はそんな人間を何人も見てきた。
「仮に、この世界にいる人間ではそれが難しいとしたら……私がいた世界からスカウトすればいいだろう。後で魔神氏に依頼してみよう。そして、その人物を我がダークアイに取り込み……承認欲求と帰属欲求を満たして組織への忠誠心を持たせるのだ……!!」
「社会から弾かれた者を、能力を認めて社会へ帰属させるということですか。悪魔的発想ですご主人様」
パチパチパチとセーラが拍手をした。
得意になるルーザック。
「だがルーザック殿、承認欲求と帰属欲求を満たすとは、どうするつもりか?」
「魔族にパートナーができれば問題あるまい。昔の会社もそうやって社員の忠誠心を勝ち取っていたのだ」
「会社……?」
首をかしげるディオースなのだった。
かくして、今後の会議をしているうちに高速戦車は昼なお暗い森の中へ。
快調に突っ走っていたのだが、いよいよ道が細くなり。
ルーザックの腕ではおしゃべりしながらの運転は無理になったようであった。
即ち、戦車が太い樹木にぶつかったのである。
「うおー」
「あーれえー」
「うわー!」
三人が悲鳴を上げた。
それと同時に、周囲に気配が生じる。
「ルーザック殿、囲まれました」
「ふむ。探すまでもなく、あちらから来てくれたということか」
ガルグイユ奥地にて、ケンタウロス捜索隊は、ついにケンタウロスと遭遇するのであろうか……!
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