第161話 狡猾な罠

『さすが廷々さんね。もう打つ手なしかと思ったのに』

廷々わたしの本領は術式ですので。本当は最初の探索魔法で見つけるつもりだったんですが……手強いですね。御坂さん、真島さん、今いる所から南東に3歩、南に5歩進んでください。そこの壁に魔力攻撃を』

『了解!』

『分かりましたー』


 俺と水鳥も現場に到着した。上空で待機していると、舞彩が壁に向かって魔力攻撃を撃った。


『空間に歪みが!』

『そこが入口です。さすがに内部の情報は分かりませんので、気をつけて下さい』

『はい!』

『行ってきまーす』


 *   *   *


 舞彩と乃愛が入った空間は、薄暗い石造りの小部屋のようだった。


「陽奈!」


 部屋の奧に椅子に縛られた陽奈がいた。


「今助けるから!」

「待って、舞彩」

「なんだ!?」

「罠の可能性もある。調べるから待ってて」

「なんだ! それなら早くしてくれよ! ていうか急にキャラ変わるのやめてくれ!」

「えー? いい加減慣れてよ」

「まったく、相変わらず二重人格みたいなやつだな!」

「皆には内緒だよー?」

「秘密にする必要もないと思うけどな!」

「いいのいいの」


――まっ、かえでちゃんにだけは教えバラしちゃったけど。


「それで、トラップはありそうか!?」

「うーん……大丈夫そうだけど、意識を失ってるみたいだね。洗脳魔法のほうは本部で精密検査しないと分からないなぁ。それと、魔物の気配もないね」

「私らが来たことを察して逃げたか!?」

「魔法少女を洗脳するような狡猾こうかつな魔物だとしたら、そうかもね」

「よし! ひとまず救出だ!」


 二人が陽奈を連れて脱出しようとした瞬間、入ってきた空間の歪みが閉じてしまった。


「なに!?」

「なっ! ……本当に狡猾な魔物のようね。――こちら真島、聞こえますかー? ……ダメね。魔法通信も通らない」

「ということは、ここは隔絶された異空間か!」

「そうみたいね。この空間に繋がる座標を知ってるのは魔物だけだろうし、もし強引に破るとしても私たちの力じゃ無理。高位ハイランクのパワーがないと……」

「信じるしかないな!」

「え?」

「歪みが消えたのは表の皆も分かってるはずだ! 緊急事態となれば高位ハイランクの応援も来るだろう! 皆を信じるしかない!」

「……そうね。信じて待つしかないかな」


――かえでちゃん、信じてるよ。


 *   *   *


「なっ! 歪みが消えた!?」

「これは、罠だったということですか?」

「……悔しいけど、そうだろうね。中に陽奈さんがいたとしても、罠に使われたってことだろう」


 一番悔しいのは紫のはずだ。術式でやっと見つけた異空間が罠だったなんて。


『――皆さん、戦闘態勢を維持してください』

「紫?」

『私が異空間をこじ開けます!』

「無茶です! 異空間をこじ開けるなんて!」

「そんなに大変なの?」

「異空間のレベルにもよりますが、少なくとも高位ハイランクレベルの攻撃力が必要になります!」

「そんな……!」


 ここにいる魔法少女は全員優秀だ。でも高位ハイランクは一人もいない。……まさか。


「紫、アレを使うのか!?」

『まだ不安定ですが、やるしかありません。それに、これは私のミスですので』


 こうなると紫は聞く耳を持たない。だがあの技はどう考えても無理がある。歩夢もそれを指摘していた。もし暴走なんてしたら……。


「なら、私がやるよ! 私の魔力なら」

『いいえ。かえでさんの魔力は確かに強大ですが、ピュアラファイでは異空間に穴を開けることはできません』

「でも!」

「姫嶋様、それは本当です」

「水鳥……」

「ピュアラファイはあくまで浄化魔法なんです。どれだけ魔力を込めたところで異空間には通じません」

「くっ……!」


 こんなことならピュアラファイ以外の魔法も覚えるべきだった!

 と、激しく後悔していると思わぬ助っ人が現れた。


「あらあら、お困りのようですね」

「あなたは……芦森有紀寧先輩?」

「あら、もう覚えてくださったの? 陽奈ちゃんを探してたら、面白そうな現場に出会しましたわ」

「面白そうなって――!」

「異空間をこじ開ければいいんでしょう?」

「え? はい、そうですけど」

「簡単なことじゃありませんか」

「簡単って……。高位ハイランク相当のパワーが必要なんですよ!?」

「姫嶋さんだったかしら?」

「え? はい……」

高位ハイランク相当のパワーが高位ハイランクじゃないと出せない。なんて、誰が言ったのかしら?」

「え? それはどういう……」

「姫嶋様」

「なに?」

「有紀寧先輩が三ツ矢女学院の中でもトップクラスの実力があると言いましたよね」

「え? ああ、うん」

「有紀寧先輩は――」

「よろしくて? 廷々紫さん」

『芦森さんなら心強いです。よろしくお願いします』


 芦森は魔法の杖を異空間の入口があった辺りに向ける。


「――10キロメートルエリア担当ながら、高位ハイランク相当の攻撃力がある魔法少女なんです」

煌めく星星の瞬きネビュラバースト


 キラキラと輝く光の粒が降り注いだと思うと、大爆発を起こした。


「うわああああ!?」


 いくら結界内の出来事が一般生徒に分からないからって、やりすぎだろ!


「ほら、開きましたよ」

「はは……は」


 めちゃくちゃだな……。

 熱血隊長の舞彩に小悪魔な乃愛、姫嶋かえでを敬愛してやまない水鳥、そして今度は高位ハイランクレベルのド派手魔法か……。

 お嬢様学校である三ツ矢女学院でも、魔法少女はやっぱり個性的な子ばかりだな。



 To be continued→

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