第120話 新メンバーの噂
長い技能試験が終わって数日後、出勤直前に俺の魔法の杖にも通知が届いた。
「……魔法少女、姫嶋かえでを10キロメートルエリア担当に任命します」
ついに来たかぁ。これで家賃8割引きだぜ!
……と、喜んでばかりもいられない。メイプル曰く10キロメートルエリア担当はめちゃくちゃ忙しくなるらしい。
「これか」
通知にも重要事項として書かれていた。
・救援要請には必ず応えること。
・月に一回必ず活動報告すること。
・魔物の討伐、調査指令の遂行。
・魔法及び術式開発の制限解除。
他にも細かいことがいくつか書かれていたが、なにより目を引いたのは制限解除というもの。
「制限? そんな話は聞いてないけど……」
まあいっか。なんにせよこれで術式を使えるようになる。今夜早速本部に行って術式を組み込んでみるか。
今までは考えられない徒歩出勤で意気揚々と開発室に入ろうとすると、渦中の人と
「――よう、宮根」
「……どうも」
「聞いたぞ? この前の企画、宮根が発案だって?」
「ええ……まあ」
「俺も見させてもらったよ。良いアイデアだ。プロジェクトは誰とやるんだ?」
「ありがとうございます……。プロジェクトは上木真人さんと……」
「上木さんと!? すごいじゃないか! 頑張れよ!」
「は、はい。……あの、先輩は……その……」
「なんだ?」
「……いえ、なんでも……ないです」
――宮根は元から明るい性格ではなかったが、開示請求のせいかここ数日はより暗い感じがする。
引用リツで殺すと書いたのが宮根だということは、表向き俺は知らない。話を聞いたのはあくまで姫嶋かえでだからだ。
向こうは俺が有栖川彩希と仲良くバーで飲んでいたと思ってるんだろうな……。
「なにか相談でもあるのか?」
「いえ……別に」
「そうか、もしなにかあれば言ってくれ」
我ながら白々しいとは思う。宮根がどんなことで悩んでいるのか知ってて知らないフリをしているんだからな。
開発室に入ると、早速佐々木が絡んできた。
「先輩! 有栖川彩希とバーでデートしたって、本当なんですか!?」
「いや、そんな洒落たもんじゃないよ。有栖川の本社に用事があって、彩希さんに案内してもらうついでにバーを見せてもらったんだ」
「でも彩希さんすっげー嬉しそうじゃないですか!?」
「そりゃあ美味かったからな、あそこのカクテル」
「え!? 彩希さんってまだ未成年スよね!?」
「ノンアルコールカクテルっていうのがあるのよ」
ねー、先輩。と新島がやって来る。
佐々木がいればもちろん新島もいる。最近はチームで動いてるのもあって、この二人は本当にいつも一緒にいる。
「え? カクテルって酒じゃねーの?」
「カクテルがお酒なんじゃなくて、混ぜた飲み物の総称なんだそうだ」
「そうなんですか! さすが先輩は博識ですね!」
「いや、俺は――」
「ホント、先輩ってなんでも知ってますよねー」
あれ? なにこれ? 俺いつの間に物知り博士みたいになってるんだ? カクテルはバーテンダーに教えてもらっただけなのに……。
「……まあ、そういうことにしておくか」
「先輩! 今度私もバーに連れてってくださいよ!」
「え? 新島って酒飲めたのか?」
「飲めますよー、なんで飲めないと思ったんですか?」
「だって、飲み会とか誘われても行かないだろ?」
「ああー、あれは単に……」
「単に?」
「――気分ですよ、気分! あのバーなら行ってみたいなーって思って!」
「そうか。なら今度行こうか」
「ホントですか!?」
「先輩、俺は!?」
「なんであんたが来るのよ!」
「はぁ!? いいだろ行ったって!」
「あんたは居酒屋にでも行きなさいよ!」
「まあまあ、一緒に行けばいいじゃないか」
「いいんスか!?」
「えー?」
「新島と二人で飲む機会もまた作ればいい。それでいいか?」
「……はぁい」
あまり納得いかない様子だが、なんとか落とし所が見つかって良かった。
「そういえば先輩、噂聞きました?」
「噂?」
「HuGFの新メンバー!」
「ブッ!!」
あまりの衝撃的な噂に飲もうとした缶コーヒーを吹き出してしまった。
「先輩!? 大丈夫ですか!?」
「ゲホッ! ゲホッ! ……な、なんとか」
「いやーでも驚きますよね!」
「ゴホンッ! ……その、新メンバーって本当なのか?」
「はい! まだ噂ですけど、かなり濃厚な確度高いって話ですよ!」
ほら、と見せられたスマホ画面には確かに「HuGFに新メンバー!?」とある。
開示請求の直後に流れたということは……恐らく東山の仕業だろう。いきなり完全サプライズよりは「もしかしたら新メンバーが!?」と煽ることでワクワク感を演出してるんだろうな。
「当日発表されたらすぐに先輩に報告しますから!」
「ああ、楽しみにしておくよ」
まさかその新メンバー(仮)が俺だとは、二人は夢にも思わないだろうな……。
To be continued→
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