第95話 技能試験②

「さて、都合により話を跨いでの試験官紹介! お次は皆さんを地獄に落とすか天国に導くか!?」


 司会がギリギリの発言してるような気がするが、たぶん気のせいだろう。


「独自技能試験を担当するのは、魔法少女の中でも一際異彩を放つこのお二方! ヤーヤーと軽快に魔物をたたっ斬る天然金髪美少女の神楽・ソランデルさん! そして大和撫子とはこの人のためにある言葉! 的場奏雨さんでーす!」

「ヤーヤー、みんな元気ー?」


 神楽が挨拶すると会場のボルテージは一気に上がる。


「神楽さーん!!」

「奏雨様ー!!」


 やはり100キロメートルエリア担当の中でもtre'sの人気はぶっちぎりのようだ。


「二人も来たんだ」

「確か、かえでを助けてくれたんだよね?」

「うん、魔法が使えなくてられそうになったところを助けてもらったんだ」


 あの時のことは、今でも覚えてる。死にかけて意識がおぼろげだったのに、凛とした的場奏雨とハチャメチャな金髪美少女の神楽・ソランデルのことはハッキリと記憶にある。

 触手攻撃が厄介なワュノードをいともたやすく、赤子の手をひねるようにあっという間に浄化してしまった。

 今の俺は、少しはあの二人に追いつけたのだろうか?


「今回の独自試験、スペシャルミッションは神楽さん考案! 的場さんが監修を務めたハードな内容となっておりますので、気をつけてくださいねー!」


 あの二人が作ったスペシャルミッション?

 ……嫌な予感しかしない。そう思うのはどうやら俺だけじゃないようだ。


「神楽さんが考案したって?」

「的場さんじゃないのか……」

「どうする?」

「私は降りたくない、けど……」


 二人の登場に一瞬沸いたものの、考案者を聞いた途端びっくり水が入ったように静まり、そしてザワつく。

 ところが、逆に闘志を燃やす魔法少女がここに一人いた。


「いいねー、そう来なくちゃ!」

「大丈夫?」

「ヘーキヘーキ、そのぐらいじゃないと燃えないって」

「試験って燃えるもんなの……」


 まだザワついていると、「静かに」と阿山本部長の声が発せられた。不思議と一気に場が静まる。


「ハードな内容ですが、10キロメートルエリア担当にとっては高位ハイランクの壁を経験するいい調整になってます。5キロメートルエリア以下は免除となっているので基本試験と仮想戦闘に集中してください」


 高位ハイランクの壁か……。でも俺は免除扱いだからどのみち参加はできないな。


「かえでも参加できればいいのになー」

「うん、ちょっと残念だけど仕方ないよ。まだ5キロメートルエリア担当だし」

「肩書きはね。実力的にはもうとっくに主力級エースレベルだよ。さっさと昇格してきな!」

「う、うん。ありがとう」


 ――主力級エース。魔法少女全体の10%しかいない、魔物討伐の7,8割を担う選りすぐりの精鋭。

 それでも、ローレスと化した歩夢には手も足も出ない。紙くずのようにほふられる。……いや、よそう。いくらリアルな夢だったからとはいえ、所詮夢は夢だ。


「それではご自分の戦闘スタイルと同じ試験官に付いて行ってくださいねー!」


*   *   *


 試験は訓練棟で行われた。戦闘スタイル別の基本試験会場と仮想戦闘会場が各部屋に特別仕様として作られていた。その反対にある部屋では試験会場の様子が巨大な投影モニターに映されていた。


「へー、訓練棟にこんな使い方があるとは」


 歩夢とは戦闘スタイルが違うので部屋も別になっている。一応別の試験会場も小さいモニターで映されてはいる。


「しかし誰も知り合いがいないのは寂しいもんだな」


 これだけ大きなイベントだからメイプルと話すわけにもいかず、暇を持て余していた。――と、そんな俺に話し掛けてくれた子がいた。


「姫嶋さん、ですよね?」

「そうだけど……?」

「あの、私この前魔物から助けていただいた柳瀬みのりといいます」

「柳瀬……ああ! あの銀ドラゴンの!」

「あ、はい! ……姫嶋さん5キロメートルエリア担当だったんですね。てっきり10キロメートルエリア担当かと思ってました」

「あはは……たまたま器が強いらしくて」

「羨ましいです……」

「柳瀬さんも一緒に昇格しようね」

「“さん”なんて、みのりでいいですよ。わ、私なんて無理……ですよ」

「じゃあ、みのりで。――自信無いの?」

「器は弱いし魔力量もピュアラファイ一発が限界で、なのに当てることができなくて……」

「ちなみにその一発ってどのくらいの威力?」

「どのくらい……普通ですよ、水鉄砲くらい?」


 ということは、恐らく歩夢が見せてくれた時の感じか。あれ一発で魔力が終わるのは確かに辛いな……。


みちの整理はした?」

「え? 路の整理ってなんですか?」

「もしかしたら、みのりの悩み解決できるかも」

「本当ですか!?」


 みのりと話していると、「それではー、魔法少女技能試験スタートです!」と愛恋あこさんによる号令が発せられた。


To be continued→

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る