第52話 深夜会議

「まずは新島について報告と、メイプルの紹介をしたい」


 もはや恒例となりつつあるアパートでの深夜会議。本当なら薄壁一枚のアパートで深夜話し合うなんて間違いなく壁ドン案件なんだが、ぷに助が遮音結界という大変便利な魔法陣を展開してくれてるおかげで心置きなく話せる。


「新島は例の器にヒビが入った人間だな? メイプルってのは昼間に連絡してきたアレか。お前に連絡手段は無いはずなのに不思議だったが、そういうことか」

「まず紹介からするか。ハロー、メイプル」

『お呼びですか、マスター』

「ぷに助に自己紹介を」

『はい。初めましてスレイプニル、技術班の小堂藍音に作られた姫嶋かえでサポート用の魔法AI、メイプルです』

「ふーむ、こんなにも完成度高い魔法AIを作れるとは……。それにしても、なぜわざわざこいつのために作ったんだ?」

『ドクター藍音はマスターのことを大変気に入っておりまして、姫嶋かえでのポテンシャルを最大限引き出すために私を開発されたようです』

「ふむ。まったく御方といい廷々さんといい、どうして姫嶋かえではそんなに好かれるのだ? 中身は彼女いない歴イコール年齢の童貞だというのに」

「うるせーな、童貞関係ねーだろ」

『ドウテイとは……?』

「知らなくていい」

『はぁ……。それと、彼女がいないということはマスターは同性愛者なのですか?』

「ああー、それについてちゃんと話さないとな。いいよな? ぷに助」

「スレイプニルだ。……うーむ、本当なら駄目だと言いたいが、致し方あるまい。機密保持は徹底しろよ」


 というわけで、実は俺が男でサラリーマンやってて偶然魔法少女になっちゃった。といった経緯を話した。


『……大変複雑な理由があったんですね』

「秘密にできそうか?」

『はい。ドクター藍音はシステムメンテナンスに触る程度なので問題ないかと。念の為に暗号化しておきますが、もし知られた場合は連絡します』

「よろしく頼む」

「まったく、ここ数日で機密がダダ漏れではないか。……まあ、味方が増えたと思うしかないか」

「これからはぷに助との連絡もメイプルを通じてやり取りできるし、便利になって良かったじゃないか」

「スレイプニルだ。廷々さん含めてここまでのバックアップ体制を構築できたのだ。もうバレるんじゃないぞ?」

「ああ、頑張ってみるよ。――次は新島についてだ。今日メイプルから聞いたんだが、魔物化した人間はローレスっていうのか?」

「そうだ。ローレスは通常の魔物とは異なる、一線を画す存在だ。特に魔法が異質だ」

「異質ってどういう?」

「フォール魔法といってな、これは唯一ローレスにしか使えない魔法なのだ」

「フォール魔法……なんでローレスにしか使えないんだ?」

「それは未だ解明されておらん。ローレスは天界の技術をもってしても謎が多いのだ」

「ちなみにどんな魔法なんだ?」

「魔法少女殺しの魔法だ」

「え……? それってどういう……」

「魔法少女であっても魔物に殺されることがあるのは知ってるな?」

「ああ」

「魔物に殺されたら死ぬだけだが、フォール魔法はただ殺すだけでなく魔法少女の器を腐らせてしまう」

「器って腐るのか!?」

「本来はあり得ない現象だ。器というのは脆くはあるがあまねく不変の存在で他の影響は受けない――はずだったのだが、ローレスがその常識を根底から覆した」

「それで、腐るとどうなるんだ?」

「器というのは、魔法少女が死ぬ時にその欠片カケラを魂に託す。そして生まれ変わったら新たに器が生成されるのだ。だが腐った器は欠片カケラを託すことができず、生まれ変わっても器が生成されることはなく、魔法少女になることは不可能となる」


 そうか、魔法少女を殺してもまた新たに魔法少女は生まれる。なら、彼女らを魔法少女たらしめる器の機能を壊せばいい。という発想の転換がフォール魔法ということか。


「じゃあ、厳密には女性全員に器があるわけじゃないってことか?」

「例外中の例外だがな。ところで新島は魔物化の兆候があるのか?」


 俺は昼間見た新島のノイズを思い出したが、「メイプルがローレスらしき反応があるって言うからさ」と濁した。


「なるほどな、その時は近いのかも知れんな」

「……次行こうか、実はちょっと困ったことになった」

「なんだ? まさかまた正体バレそうだとか言うんじゃあるまいな?」

「うーん、同じくらいのピンチかも……」


 東山煌梨きらりと会ったこと、アイドルとして出演するかも……といったことを話した。


「……なんだと?」

「だから、東山煌梨きらりと一緒にアイドルのステージに立つことになったんだよ」

「誰がだ?」

「姫嶋かえでが」

「……お前は、いったいどれだけ私を苦しめれば気が済むのだ?」

「あのな、言っとくが今回は俺も酷く困惑してるんだ。俺だってアイドルやるなんて嫌だし、いかに危険かも理解してる。だからこそぷに助に相談してるんだよ」

「スレイプニルだ。……しかしまあ、東山煌梨のことは私も聞いてる。超絶人気アイドルグループのリーダーで魔法少女としても一級品。だからこそ上も強く言えないのだ」

「それであんなにも自由奔放ほんぽうなわけか。それで、どうすればいい? 人形使うか?」

「アホめ、ステージで歌って踊るのに汗一つかかない人間がいるか?」

「じゃあ、そういう仕組みを作ってもらえば……」

「その場合、当然別料金となるな。経費で落ちないから自腹で出すか?」

「……遠慮しておきます」

「お前が出るしかなかろう。どのみち最高機密を晒すのなら姫嶋かえで本人のほうがいい」

「えぇ……。でも衣装はどうするんだ?」

「衣装はどうとでもなる」

「それに――、待てよ? 衣装って言えば……」

「なんだ?」

「前に間宮楓香と会った話したろ?」

「ああ、お前がデュプリケートで倒れた時か」

「あの時に衣装のこと言われたんだよ、なんでも自分でデザインしたのと酷似こくじしてるとかで」

「……なんだと?」

「俺はなにも考えずに変身したし、楓香のデザインノートなんて見たことないし、なのに似てるって言うんだよ」

「……まさか。いや、だとすると……」


 急に真剣な面持ちでブツブツと呟く。


「ぷに助?」

「いや、なんでもない。その話はまた詳しく調べておく。それとスレイプニルだ」

「そっか、話を戻そう。そもそも魔法少女モードだと姿が見えないんじゃないか?」

「姿は見せるしかないだろう」

「え? 見せれるの?」

「別に見せれないとは言ってないぞ? 無用なトラブルを防ぐためにも普段は民間人に見えないのがデフォなだけだ」

「そうなのか。……てことはやっぱり俺が歌って踊るのか……俺は歌も踊りもド素人だぞ? カラオケで80点が最高記録だ」

「心配するな、誰もお前に期待なんかしておらん」

「ぐっ……それはそれでムカつくな」

「歌はどうとでもなるとして、問題は踊りのほうだろうな」

「そうだ! 俺のダンスセンスの無さに絶望して話が無しになるとか、あるんじゃないか!?」

「なんなのだ、その希望的観測は……。しかしその想定はしているはずだ。あの東山がプランを考えてないはずがない」

「ずいぶんと知ってるんだな」

「知らんのはお前だけだ。それだけ東山煌梨という魔法少女は有名なのだ」

「へー」

「ともかく、状況は逐一報告しろよ。私もなるべくバックアップはするが……嫌な予感がしないでもない。気をつけろよ」

「嫌な予感?」

「気にするな、本当にただの予感だ。そう大したものではない」

「ふーん?」

「では私は戻る。あとは頼んだぞメイプル」

『了解しました』

「すっかりメイプルは俺の監視役だな」

「いいか、仕事サボるんじゃないぞ」

「サボらねーよ! お前こそサボるなよ!」

「ふん!」


To be continued→

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