第47話 あなたは、何者ですか?

 ――イメージしろ。

 おけなんて無くたっていい。

 水竜巻のようにゴブレットから水――魔力を巻き上げて魔法の杖に流し込め!


「ピュアラファイ!」


 構えた瞬間、そのイメージで魔力を魔法の杖に注いで魔法ピュアラファイを発射する。

 先ほどのような密度じゃなかったし、杖に一瞬振動があったが、構えて撃つまで2秒ほどという新記録を達成した。


「すごい!」

「さすがね、やっぱりセンスあるわ」

『お見事です。マスター』


 ……なんだか、こんなに褒められると照れるな。

 普段から褒められることがないので、こちらにも免疫がないようだ。


「こんな感じでいいんですか?」

「ええ。あとは無意識レベルで必要な魔力量を調整できるくらい、ひたすら練習あるのみね」

「ありがとうございます!」


 確かに分かりやすかった。器の認識から意識集中コンセントレーションの短縮まで一つも引っ掛からずスムーズに理解できた。

 優海さんの授業が人気なのも頷けるな。


「さて、私はそろそろ用事があるから帰るけど、かえでちゃんはどうする?」

「そうですね……せっかくなので、もう少し練習していきます。いいかな? メイプル」

『もちろん』

「では、私もこれで。メイプル、かえでさんをよろしくね」

『了解しました』

「よーし、じゃあやるか!」


*   *   *


「――……ふぅ」


 何度目か分からない魔法ピュアラファイを撃って、魔法の杖を下げる。


「メイプル、今ので何秒?」

『1.12秒です。アベレージは1.19秒になります』

「うーん、なかなか1秒が切れないなぁ」

『少し休憩なされては? すでに2時間連続です。いくら魔力量があるからとはいえ、お体にさわります』

「……そうだね、そうするよ」

『私との会話は魔法の杖を通じて可能ですので、いつでも呼び出してください』

「そんなことできるんだ……すごいの作ってもらっちゃったな」

『はい。ドクター藍音は素晴らしい御方です』

「じゃあ、ちょっと外に出るよ」

『行ってらっしゃいませ』


 外に出ると、早速困ったことになった。


「どうやって外に出ればいいんだ? メイプル」


 ……応答がない。


「……ハロー、メイプル」

『お呼びですか?』

「ああ、やっぱりハローがキーワードか」

『はい。ご存知のものと思ってました。失礼しました』

「いや、構わないよ。ところで、本部に行くにはどうしたらいいのかな?」

『ルーム宣言ののち、終了と言っていただければ』

「そうか。――ルーム終了」


 宣言すると、すぐに外の景色が広がった。

 いつの間にやら訓練棟の外へ転送されたようだ。


「便利なもんだな」


 本部へ行き、ショップでお茶を購入する。魔法少女MポイントPを電子マネー感覚で使えるのは非常に便利だ。今後の買い物はこのショップ中心にしたいな、米もあるし。


「ふぅー」


 ショップ近くの休憩所にあるソファでくつろいでいると、「隣、いいですか?」と声をかけられる。着物を着た小柄な女の子……月並みに言えばお人形のような子だ。

 それにしても……魔法少女は和服が流行りなのか? 優海さんもそうだし、確かtre'sトレズの的場奏雨かなめも和服だったよな。


「どうぞ」

「……初めまして、ですね?」

「え? はい、そうだと思います」

「一つ、お訊きしてもよろしいでしょうか?」

「なんでしょう……?」

「あなたは、何者ですか?」


 これは……どういう意図だ?

 単純に名前を訊いてるのか、それとも……。

 ――いや、考えすぎだろう。会ったこともないんだ。


「あ、私は姫嶋かえでといいます。一応5キロメートルエリア担当で――」

「これ、見てください」

「……?」


 そう言って鞄から取り出したタブレットで再生される動画を見て、戦慄が走る。


「――!!」


 あの日の夜。H公園上空から見下ろした角度で歩夢と人形かえでが映っていた。そして、画面に半透明の青いディスプレイが現れると、4点滅していた。


「この映像は、先日たまたまお仕事で向かったH公園での出来事なんですが……なにか気づきませんか?」

「……?」

「はい、そうなんです。とても不思議に思いまして、空間解析してみたんです。そしたら……」

「――っ!」


 レーダーとは別のディスプレイが現れた。そこにはノイズ掛かってはいるが、動画と同じ角度の映像が表示されていた。現実の光景と違うのは、そこには


『へぇー、ぷに助も考えるもんだな。……でも入れ替わって遠くにいる俺の気配分かるんじゃないか?』

『スレイプニルだ! 気配など微塵みじんさとられぬよう結界を張るから問題ない。

『なら安心か』


 おいおいおい、強力なレーダーあるじゃねーか!!

 安心か、じゃねーよ。特大級のピンチだよ!!


「これ、スレイプニルの隣にいる子。あなたによく似てると思うんです。それに――」


 指をスーッと動かして歩夢と話している人形かえでして止まる。


「これも。こちらは顔がよく見えます」


 冷や汗なのか脂汗なのか分からない汗が止まらない。心臓が破裂しそうだ。せっかく歩夢の疑いを晴らせたというのに今度は知らない魔法少女が証拠付きで揺さぶりをかけてきた。ていうかもうこれ確信犯だろ。若干意味は違うけども。


「えーと……なにが言いたい、のかな?」


 とぼけてみるが、正直苦しい。誰がどうみても詰んでる盤面で王手の状態。見苦しく逃げるか負けを認めるか、二つに一つだ。

 そしてお人形のような可愛らしい魔法少女は、さらに追い打ちをかける。


「最後に不思議なことがもう一つ」


 歩夢が本部に飛んでしばらくしてから、離れたところにいたがバッチリ映っていた。


「今一度問います。――あなたは、何者ですか?」


To be continued→

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