第6話 比べる命なんてない
夕日に焼かれたように赤くなる住宅街の道路。そこに大きな影が落ちる。巨大化した
「なんだ、いったい!?」
データベースを確認してみても、今度は見落としはなかった。どこにも巨大化する種族とは書いていない。ということは、こいつ自身の能力じゃなくて外的要因だ。まさか魔物を巨大化させる魔物がいるのか?
そもそもどうして
「――これは?」
ふと視界に表示された300MPという数字に目が行く。ゼノークスで100MP、ブルブッフが一体で40MPだから、工事現場にいたやつと合わせて6体浄化して240のはず。ということは340MPじゃないとおかしい。数字が合わない。
「ということは……まさか」
工事現場のやつを仕損じていた? 浄化できてなかったそいつを、他の魔物が巨大化させたのか!
大きな腕が振り下ろされそうなのを見て、「柴田さん、逃げて!」と叫ぶ。しかし柴田は動かない。気圧されたのか、巨大化した
「くそっ!」
振り下ろされたハンマーのような腕が当たる寸前、柴田の服を掴んで引っ張り、そのまま飛び上がった。
「きゃあああ!!」
「気がついた?」
「あれ? 私……」
「でっかい
「そ、そうだったの……って、それどこじゃないわ! 離して!」
「はあ!?」
「言ったでしょう! 私はもう一週間目なの! 日暮れがタイムリミットなのよ!」
「MP没収されたってまた稼げばいいじゃないか!」
「なにを言ってるの!?」
「なにって、MPってアイテム交換用のポイントなんじゃ?」
「……それ、誰から聞いたの?」
「えーと、赤い髪の魔法少女から」
「赤い髪の……まさか、10キロメートルエリア担当の!?」
「そうそう、その子」
「……なるほどね、あの人からしたら、
「どういうこと? ていうかその子のこと知ってるの?」
「当たり前よ。魔法少女やってる人で知らないのは、あなたみたいな本当に新人の人くらいよ」
「どういう人なの?」
「彼女は、
「1万MP?」
というと、大型Aランクのゼノークスが100MPだから……。
「一週間で、ゼノークス100体分!?」
「どれくらいすごいのか、分かったでしょ?」
そりゃあ、ぷに助もヘコヘコするわけだ。大型新人なんて次元じゃない。一週間で課長にだってなれるわ。
と、話していたら
「げっ!? こいつ空飛べるのかよ……」
「こうなったらこのまま迎撃するわ」
「このままって……こんなところで戦ったら住宅に被害が出るじゃないか!」
「仕方ないでしょう、運が悪かったのよ」
「仕方ないわけあるか!」
「え……?」
「下には何十人って人がいるんだぞ、その無関係な人達を巻き込むつもりか!?」
「私には時間が無いの! あなたは知らないでしょうけどね、毎年魔物による被害で何千人から何万人って人が死んでるのよ! それに比べたら――」
「比べる命なんてないんだよ!!」
「――!」
「スレイプニルから聞いたのは、魔法少女の使命は魔物討伐による世界平和の維持だ。それはつまり、人々を魔物の脅威から守ることなんじゃないのか!? 年間何万人と殺される被害者を一人でも減らす。それが魔法少女の使命じゃないか! それなのに、人々を守る仕事をしてる魔法少女が、民間人を殺すような戦い方するのが仕方ないなんて、そんなわけあるか!」
「……じゃあ、どうしろっていうのよ」
「……」
「私は、もうすぐタイムリミットでペナルティがあるのよ!? こうでもしないと、
「私がなんとかする」
「え……?」
「タイムリミットは日暮れだよね?」
「え? ええそうよ」
「なら、それまでにあいつを倒せば問題ないな」
「ちょっと! そんな簡単に言わないで! 民間人に被害出さないで倒すなんて無理よ!」
「やってみなきゃ分からない。それに例え無理だろうと、なんとかするのが私の仕事なんだよ」
無理だ無茶だ不可能だなんてのは、もう言い飽きるぐらいボヤいてきた。それでも、そんなこと言ってられない日々を10年以上も繰り返してきた。間に合わない納期を無理やり間に合わせて、無茶な要求に徹夜で応えて、理不尽なことにも耐え抜いて……。
「そんなのに比べれば、この程度なんでもない!」
まずは場所を移動しないとな……。
「とりあえず場所を変えよう。付いてきて」
「どこへ行くの?」
「確かこの近くに、マンション建設予定地の空き地があったはずだ」
「そっか、あそこなら……ってなんで知ってるの? あなたこの辺の人?」
「さっきの子を守るために、周辺数キロ圏内は調査してあるんだ」
襲われてからじゃ間に合わないし、万が一なにがあっても対応できるように、下調べはしてあった。まさか気配を消せる魔物に襲われるとは思わなかったが。
「見えた。あれだ」
ちょうどいい広さの空き地が見えてきた。周囲に人の気配も無さそうだ。
後ろを振り向くと、ちゃんと
「さーて、ここなら遠慮なく思いっきりやれるな!」
魔法の杖を構えて、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます