寝盗るブス風谷明日花05
部屋に入るとすぐに、風谷は服を脱ぎ始めた。上と下に履いていたスカートを脱ぎ、下着姿になる。黒岩は、風谷がなぜ服を脱ぐのか理解出来なかった。
「あ、明日花。何をしている?」
「…………」
下着姿のまま黙っていた風谷は、次の瞬間、黒岩をベッドへと突き飛ばすと、そのまま上へと覆い被さった。突然の事に驚く黒岩を無視して、風谷は唇を重ねる。それは、いつもあの先生がするような、激しいキスだった。
「……ちょっと……あ、明日花……」
「いいから……そのまま、私を抱いて……私に、これ以上、恥をかかせないで……」
これまで見た事のない風谷に、黒岩はどうすれば良いのかわからなかった。二人は大学時代につき合っていたが、風谷のトラウマもあり、した事がなかった。それだけに、風谷がこんなキスをする事も、激しく求める一面も知らなかった。
こうして、二人は初めて身体を重ねたのだった。
セックスが終わると、黒岩の腕に頭を乗せて余韻に浸る二人。風谷は、バッグからタバコを取り出すと、口にくわえて火をつけた。
「あれ? 明日花ってタバコ吸ってたっけ?」
「たまにね。大学を卒業してからだから、瑛士は知らなかった?」
「知らなかったよ。僕は、明日花の事は知らない事だらけだ」
タバコを吸い終わると、風谷は冷蔵庫から缶ビールを二つ取り出し、一つは黒岩に渡した。
一口で半分くらい飲むと、風谷は黒岩に話しかける。
「あーあ、親友の彼氏と寝っちゃった。リオンにどんな顔をして会えばいいのか……」
「……言わなければいいんじゃないか?」
「そんなの当たり前でしょう。こんな事、リオンに言ったら、あの子が傷つく」
「そうだな。岸島の為にも、二人だけの秘密にしよう。だから、もう一回しよう。明日花」
「…………」
缶ビールを置いて、二人はもう一度身体を重ねた。お互いが、お互いの相手を裏切っている行為と知りながら、ただ快楽だけを求めて。そこにはもう、理性や倫理観は忘れ去られ、純粋な欲望だけが二人を支配していた。人間の恐ろしい一面を、見ているようだった。
シャワーから出ると、黒岩は眠ってしまっていたので、ホテル代を置いて風谷はホテルを出た。
すでに辺りは暗くなっていて、街は夜の顔を覗かせていた。幸せそうに手を繋いで歩くカップルや、子供連れの家族とすれ違うと、急に独りでいるのが寂しくなり、一緒にいてくれる相手のいない風谷は、気づけば岸島の家へと向かっていた。
玄関先で座り込んで待っていると、岸島が帰って来た。風谷を部屋に迎え入れると、岸島は着替えながら話しかける。
「ビックリした。来るなら、連絡をくれればいいのに。警察に通報するところだったよ」
「ごめんね。スマホの充電がなくて、連絡出来なかった」
本当は、スマホの充電など切れていなかった。無意識に岸島の家へと来てしまっただけで、後ろめたい気持ちから電話はかけられなかった。
岸島の顔を見ていると、自分が裏切ってしまった事を後悔する。
渡された部屋着に着替えると、テーブルの上にワインとチーズが用意されていた。会話をしてながら飲んでいると、二人とも大分お酒が進んでいた。
会話は、段々とお互いのパートナーの愚痴へと変わり、岸島と黒岩が上手くいっていない事を風谷は知る。それでも、健気に黒岩を想っている岸島に、胸を痛める風谷だった。
罪悪感から、すべてを打ち明けてしまいたい衝動に駆られるが、岸島を失う可能性を考えると、黙っているしかなかった。
風谷には、もう岸島しか残っていなかったからだ。
そのまま眠ってしまった二人が起きたのは、翌日の夕方だった。風谷は急いで支度をすると、岸島の家を出て家へと向う。家の近くまで着くと、ふと風谷はこんな事を思った。
『このまま帰っても、あの家には私の幸せはない』と。
そう思うと、急に足が止まってしまい、一歩も進めなくなってしまった風谷は、来た道を引き返すのだった。
もう、あの家には帰りたくない。行くあてのない風谷は、夜の街へと消えて行った。
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