婚期を逃したブス岸島リオン06
今日は金曜日。待ちに待った岸島の誕生日だった。朝から、ウキウキした気持ちでいる岸島は、いつもより早く出社し、仕事をしていた。今日は、黒岩と会う約束をしているので、残業をするわけにはいかず、定時で帰る為に必死で仕事に励んでいた。
蓮実と出逢ったあの日以来、岸島の評判はさらに良くなっていた。これまで、完璧な女性であった岸島に、どこか近寄り難い印象を持っていた者もいたが、気さくで話しやすい今の岸島は、誰からも好かれる存在になっていた。
その事で、仕事にも身が入り、活き活きとしていた。
昼休み。職場のみんなと、ランチに行こうとしていたが、三木に相談があると言われて、いつものように、二人でランチに行った。この間の一件もあり、きっかけを得た岸島は、三木に謝ろうと思ってた。
「すみません。私の為に、みなさんの誘いを断らせてしまって……」
「いいのよ。それに、三木と話したいと思ってたから、ちょうど良かった」
「そうですか」
「ええ。三木、この間はプライベートな事を聞いてしまってごめんなさい。軽率だったと反省している。でも、色々と知れたらもっと三木と仲良くなれると思って……本当に、ごめんなさい」
「大丈夫です。顔を上げてください。私、気にしてませんから」
三木と仲直り出来た事を嬉しく思う岸島は、安心したように、買っておいたサンドウィッチを口に運ぶ。大きな口を開けて、食べる姿を三木はじっと見ていた。
「それで、三木の相談したい事って何?」
「……え?」
「遠慮しないで、言ってよ。三木は、大事な後輩なんだから。私に出来る事なら、協力するから」
「あ、……そ、それは……」
その時、岸島のスマホが鳴る。着信は、黒岩からだった。今日の誕生日の事だと思った岸島は、嬉しそうにして電話に出る。
「もしも、私」
「今、電話しても大丈夫かな?」
「平気よ。それより、今日は何時に待ち合わせにする?」
「その事なんだけれど……ごめん。今日、遅くなりそうなんだ」
「え? だって今日は、私の誕生日だよ。お祝いしてくれるって言ってたじゃない!」
「祝うよ! だから、電話しているじゃないか。遅くなりそうだから、家で待っててくれないか?」
「何で今日なの? ……わかった家で待ってる。だから、必ず来てね」
「約束するよ、じゃあね」
「あ、ちょっと!」
一方的に電話を切られた岸島。明らかに不機嫌な表情になると、腹いせにとサンドウィッチを無理やりに口に頬張る。
それを見ていた三木が、心配そうに話しかける。
「誰からですか?」
「ああ、彼からよ。今日、遅くなるって連絡してきたの」
「今日は、岸島先輩の誕生日ですよ」
「でしょう? もう、何考えているのか……」
「岸島先輩。やっぱり、そんな男とは別れた方からいいですよ。岸島先輩を、全然大事にしているようには見えません。そんな最低男とは別れてください!」
気弱な三木とは思えない程、力強い口調で必死に説得するが、それでも黒岩を好きな岸島には響かなかった。むしろ、彼氏である黒岩を最低と言った三木を許せずにいた。
「三木に、彼の何がわかるの?」
「わかりますよ。岸島先輩、目を覚ましてください。あんな男……岸島先輩の方から何もわかってないです!」
「もういい。この話は、終わりにしましょう。これ以上話てても、私の気持ちは変わらないから」
「岸島先輩……」
「今後は、私のプライベートに干渉しないで!」
泣いている三木をおいて、岸島は会社へと戻って行ってしまった。黒岩への苛立ちを、何の関係もない三木にぶつけてしまった事を後悔していたが、それでも彼を侮辱された怒りから、許す事が出来ないでいた。
昼休みは終わったが、会社に三木が戻って来る事はなかった。
夜、部屋へと戻った岸島は、黒岩からの連絡を待っていた。メールをしたが返信もなく、待っていた。思えば、黒岩との交際は常に待っている事の連続であった。
交際を始める前も、先に黒岩を好きになっていた岸島ではあったが、自分から告白する事が出来ずに待っていた。何度も、アピールをするのたが、一向に気づいてくれない黒岩を、待っている日々ととても辛かった。何とか告白させる事に成功したが、それからも黒岩からの連絡を待つ人生に、悩まされるだけだった。
鏡に映る顔を見て「こんな、おばさんになるまでな待って」と、愚痴をこぼした。
その時、岸島のスマホに着信が入る。黒岩かと思い手に取ると、母親からの電話だった。
ため息をついた後、電話に出る岸島。
「もしもし、どうしたのお母さん」
「どうしたのって、今日はあなたの誕生日でしょう。おめでとう、リオン」
「ありがとう、お母さん。お父さんは元気?」
「元気よ。リオンが、自家に帰って来ないから寂しいみたい。帰ってこれないの?」
「うーん……仕事が忙しいから、すぐは無理。年末には帰るから。それまで待って」
「本当ね? 年末には帰って来てね。良い縁談もいっぱいあるから」
「お母さん、お見合いはしないって言ってるでしょう」
「そんな事言って、リオンもいい歳なんだから、そろそろ本気で考えてよ。もう、お母さんは心配で……」
電話の向こうで泣く母親に、申し訳ない気持ちでいっぱいになりながら、ひたすらに愚痴を聞く岸島。本当は、自分一番泣きたいのだが、母親が心配すると思い堪えていた。
電話を切った後、さらに深いため息をした後、気分転換にシャワーを浴びた。
シャワーを浴び終わると、缶酎ハイを手にソファに座る。未だに黒岩からの連絡はなく、独り過ごす孤独な誕生日を思うと涙がこぼれた。
諦めかけたその時、インターホンのチャイムが鳴った。
大分遅くなってしまったが、黒岩が来てくれたと思い、急いで玄関の扉を開けると、そこにいたのは黒岩ではなかった。
「岸島先輩、誕生日おめでとうございます」
今日、喧嘩をしてしまった三木が、そこに立っていた。
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