婚期を逃したブス岸島リオン05
近くの喫茶店に入った二人。スマホを拾ってくれたお礼も兼ねて、岸島がご馳走する事になった。
席に着くと、ピザやスパゲッティなど大量に注文する蓮実。お腹が空いていたらしく、どんどんと胃袋へと流し込む。その食べ方は、野生の獣のようだった。
「いやー、腹減って死にそうだったよ。ありがとうリオンちゃん」
「そう、それは良かった。それにありがとう、スマホを拾ってくれて」
「いや、別にいいって。困った時はお互いさまでしょう」
麗華とは名ばかりに、かわいい顔をしているが、下品な態度の蓮実。これまで、出会った事のないタイプの性格に、岸島は圧倒されていた。
食事を終えると、デザートが食べたいと蓮実が言うので、了承する岸島。まだ、食べれる胃袋に、感心する。
「ところで、蓮実さんは――」
「麗華でいいよ。私も、リオンちゃんて呼んでるし」
「麗華ちゃんは、女子高生? どこの学校なのかな?」
「学校? 今は行ってない、休学中だよ」
「そうなの? でも、その制服は?」
「これ? 制服を着ていると、男受けがいいから来てるだけ。女子高生って、ブランディング力高いから」
何を言っているのか、岸島には理解出来なかった。いつの時代でも、年齢によるギャップは生じてしまう為、十歳近く歳の離れた二人には、仕方のない事だった。
早々に、切り上げて帰ろうとするが、蓮実は話を始めてしまう。
「それにしても、リオンちゃんは綺麗だね。その黒岩って彼氏が羨ましいよ」
「そんな事ないよ。麗華ちゃんだってかわいいじゃない」
「ありがとう。……でも、リオンちゃんは自分に自信がないでしょう? 自分に、自信を持てたら、もっと綺麗になるのに。もったいない」
岸島はドキッとした。これまで、他人から抱かれるイメージはパーフェクトな女性、理想とされる女性だった。しかし、その中身は内気で、自分に自信のない弱い女性。それを、必死に隠して演じていたのだが、それを見透かすような蓮実の発言が、胸に突き刺さる。
何とか、イメージを保とうとする。
「そ、そんな事ないわよ」
「そうかな? そんなブランド物を着ているのは、自信のない自分を隠す為でしょう。それに、話し方だって、無理に大人ぽく話しているし、何か演技しているみたい。ありのままの自分でも、十分魅力的なのに」
「…………」
何も言い返す事が出来ない。それもそのはず、蓮実に指摘されたすべてが、事実だったからである。岸島は、無理に自分を作っていた。それはすべて、本当は何もない自分に対するコンプレックスからだった。夢は叶わなかったが、親友の風谷は女優になりたいと夢を持っていた。しかし、岸島には夢もなく、今の仕事でさえ自分で選んだ仕事ではなかった。周りに流され、何となくみんなが望むような自分を演じている。その薄っぺらい真実を、蓮実に見破られてしまった。
「……あなたに……あなたみたいな女子高生に何がわかるの! 毎日毎日、やりたくもない仕事に追われ、家に帰るのだって遅くなるし。それでも周りには、綺麗で完璧な女を求められて、私は必死でそれに応えているの。そんな私の苦労を、あなたみたな女子高生に、わかってたまるか!」
誰にも言えず、ずっと溜め続けていた心の声を、岸島は爆発させた。それは、親友にも、後輩にも、恋人にも見せる事のなかった本当の自分だった。
すべてをぶちまけた岸島は、そのまま泣いてしまった。そんな岸島の様子に、店内はざわざわしている。
すると、黙って聞いていた蓮実が動き出す。岸島の肩を手を置いて、顔をのぞき込む。
「いいよ、そのままでいいよ。リオンちゃん。その方が、よっぽど人間らしくてリオンちゃんらしい。私は、今のリオンちゃんの方が大好きだよ」
「麗華ちゃん……」
岸島は思わず、蓮実の手を握る。それに対して、蓮実も力強く岸島の手を握る。さっき知り合ったばかりの二人だったが、すでに親友のように硬い絆で結ばれているようだった。
数分後、店を出た二人は連絡先を交換した。ちょっと照れくさそうに、岸島の方から連絡先を聞いた。それは、また会いたいと思う、岸島の意思表示だった。
「じぁ、またね。リオンちゃん」
「うん、またね。麗華ちゃん」
蓮実と別れた岸島は、スマホを渡しに黒岩の家へと向う。本当の自分に、自信を持てた岸島は、黒岩にある思いを告げようと思ってた。それはこれまで、中々言い出せずにいた自分の思い、黒岩と結婚したい思っている事だった。
これまで、変なプライドからはぐらかしていたが、今なら素直に言えそうな気がした。
しかし、家に着くと部屋の電気は消えて。黒岩がいないのなら諦めるしかなく、置き手紙を添えてスマホをポストへと入れる。
誕生日の日、今週の金曜日に思いを伝えようと決意し、岸島は自分の家へと帰る。
しかし、その時黒岩がどこで何をしていたのか、岸島は知らなかった。
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