婚期を逃したブス岸島リオン01

 ブランド物の服で身を包み、大手ファション誌で働いている岸島きたにリオンを、同じ女性なら誰もが羨むような存在だった。綺麗で、清潔感もあり、頭の良い岸島は、まさにパーフェクトな女性の理想のようで、後輩から憧れられていた。しかし、そんな岸島にも、人並みに悩みを抱えていた。


 見た目には、綺麗なお姉さんと印象を受けるが、すでに二十代も後半となっている岸島は、大分焦っていた。友達のほとんどは結婚し、幸せな家庭を築いている。また、田舎に住んでいる両親からは、いつまで経っても結婚しない娘を思い、お見合いを勧めていた。

 岸島はいつも決まって「今は仕事が大事」だと、周囲に言ってはいたが、内心は焦っているようで、親友の風谷明日花かぜたにあすかには、打ち明けていた。

 そんな岸島には、三年も交際している男がいる。それが、黒岩瑛士。


 黒岩と岸島は、大学生の時に知り合うが、その時は恋に発展する事はなく、たまに話す程度の付き合いであった。しかし、二人の関係が急接近したのは、風谷の結婚式で再会した事がきっかけとなった。

 結婚式の二次会、偶然隣の席になった二人は、思い出話に花を咲かせた。癖のある教授のモノマネや、大学で語られていた七不思議など、黒岩の面白い一面を知った岸島は、興味を持ち始めていた。そして、連絡先を交換した二人は会うようになり、黒岩が告白した事で交際が始まった。

 そして、交際から三年が経った現在、二人は倦怠期に突入していた。


 これまで、週に二回は会っていた二人だったが、最近では月に一回会うくらいにまで減っていた。それでも、岸島は黒岩を好きでいる事に変わりはなく、不満に思いながらも交際を続けていた。


 その日、岸島は後輩の三木美音みきみねを連れてランチに来ていた。おしゃれなオープンテラスで、優雅にランチをしていると、話題は黒岩の話になった。


「それじゃあ、もう一ヶ月も彼氏と会ってないじゃないですか」

「そうね。でも、私も彼も忙しいから仕方ないわ」


 後輩である三木の手前、忙しいを理由に話をはぐらかすが、本当は仕方ないなど思ってもいなかった。時間を作れば会えるのだが、プライドの高い岸島には、自分から会いたいとは言えず、連絡もあまりしていなかった。その為、黒岩からの連絡を待つしかなく、月に一回しか会わなくなってしまっていた。

 そして、そんな岸島と黒岩の現状を知ると、当然こんな疑いをされてしまう。


「岸島先輩。もしかしたら、浮気されているかもしれませんよ」

「浮気? バカな事言わないの。彼は、私を大切にしているから、そんな事ありえないわ」


 そんな事を言いながら、ストローを噛む岸島。内心は焦っているように見えるが、三木に悟られないように必死に繕っているが、岸島も浮気を疑ってはいた。


「そうですよね。岸島先輩みたいな綺麗な女性と付き合っていて、他の女に浮気する男なんていませんよね」

「ありがとう。でも、私だってそんなに、褒められた人間ではないわよ」

「そんな事ないです! 岸島先輩は、綺麗で理想的な、私の憧れの先輩です! 岸島先輩を、悲しませる男なんて、別れちゃった方がいいです!」


 興奮気味に話す三木に、驚く岸島だったがその時、岸島のスマホにメールが来た。相手は黒岩で、今日の夜会いたいとの内容だった。

 これには、思わず顔の緩む岸島だったが、三木がいたので表情を戻すと、何事もないような素振りを見せ返信する。


「誰からですか?」

「彼からだったわ。今日の夜、会いたいみたい。ちょうど予定もないし、会おうと返信したところ」

「そうですか……」


 ちょうど、昼休みが終わる時間となったので、会社へと戻る二人。帰り道は、心なしか岸島の足どりは軽く感じた。


 夕方、仕事を終わらせた岸島は、急いで会社を後にする。黒岩と会う時間まで大分あったが、途中で美容室に立ち寄る。

 少し長くなった前髪を切ってもらい、軽く髪を巻いてもらう。時折、鏡に映る自分を念入りにチェックしては、納得のいくまでセットし直してもらう。

 ようやく、納得のいく仕上がりに満足すると、美容室を出てタクシーに乗り、待ち合わせの駅へと向う。


 タクシーを降りると、待ち合わせの駅前で、黒岩を待つ。約束の時間より少し早かったので、スマホで見ながら唇にグロスを塗る。化粧を直し終わると、ミント味のタブレットを口にする。念の為、もう一度スマホで顔を確認すると、小さく頷きスマホを閉じた。いつ黒岩が来ても大丈夫なように、気合いを入れて支度をしたが、約束の時間になっても黒岩は現れなかった。

 五分過ぎ、十分過ぎたが、黒岩は一向に現れる様子もなく、待ち合わせ場所を間違えたのかと思い、確認するが合っているので、仕方なく待ち続ける岸島。


 そして、二十分待ったところで、ようやく黒岩が現れた。


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