黒岩瑛士とブス達の観察日記

一ノ瀬樹一

プロローグ

 机の上に置かれた数枚の写真。その中から一枚の写真を手に取ると、私は懐かしい気持ちになり記憶を辿る。写真に映っているのは黒岩瑛士くろいわえいし。私は、写真に映る黒岩の顔を指でなぞる。

 癖のない、スッキリとした顔立ちは、女性なら誰でもうっとりとしてしまうような、美術的造形。彼は生まれながらに、女性を虜にしてしまう魔性せいを持っている。

 少なくとも私は、黒岩に魅了されていた。


 そんな思い出の写真は、他の誰にも見せる事は出来ない。だって、これは隠し撮りをした一枚。私が、罪を犯して手に入れた写真の為、誰かに見せてしまったら、私は罪を償わなければならない。

 そんな事になったら、もう二度と黒岩を追いかける事が出来なくなってしまう。


 それにしても、自分でも良く撮れた写真だと自負する。とっさにスマホで撮ったのだが、元々写真に疎い当時の私にしては、ピンボケも被写体のブレも少なく、良く撮れている。今では、望遠レンズと本格的な一眼カメラも購入し、写真も勉強した私には、そんな失敗は皆無。バッチリと、黒岩をカメラに抑えられるほど成長していた。

 人は、好きな事には能力が開花すると言われている。それは、好きな事には諦めが悪くなり、時間を惜しまず努力を続ける。その結果、目覚ましいほどの効果を発揮するまでに成長するのだが、私にとっては黒岩瑛士という人間だったようだ。

 また、私が開花した能力はそれだけに留まらず、盗撮、盗聴、ピッキングに、ロッククライミング等、黒岩のすべてを知る為に、私は努力を重ねた。


 これまで、何をしても長続きせず、諦めの歴史を重ねていた私に、ストーカーという才能を目覚めさせてくれた黒岩に、私はとても感謝している。神様など信じていない私だが、あの日、黒岩と出逢わせてくれた事は、まさに神の啓示だと私は信じている。

 そして黒岩と、黒岩に関わるブス達とが繰り広げる物語が、どんなドラマよりもドラマチックで、私はネットを通じて公開している。こんな面白いドラマがこの世界で起きていると、みんなにも知って欲しい一心で、私は今日も文章を書いている。

 黒岩瑛士のすべてを晒す。それが、私の使命となっていた。


 『黒岩瑛士とブス達の観察日記』

 

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