そのまま私

もめなし

そのまま私

私は自然になった。何も考えずにただ自然となった。天からの贈り物をただただ感じ、私はそれを表情とした。私の持つ表情は自分でも知らない間に目まぐるしく変わるようで、心外にも多くの人々を困らせたようであった。

例えば、夏。私は海になることが出来た。波とは友達で、よく一体となって遊んだ。彼は私に程よい振動を与えてくれ、私はそんな衝動に飽きることはなかった。しかし、そんな彼も調子が狂う時もあった。突然イラつき、いつもとは比べ物にはならないほどの振動が伝わって来るのだ。その衝動をなんとか私は自分の中に取り込もうとする。しかし、自分が震えてもあまりの衝動は外へ出てしまうのだった。恐ろしいことに私の上に人間がいる時。そこには死というものが残された。波がそうさせたのだ。いや、私のせいか。波との共存が上手くいかなかった私の責任だ。私は屍に無言の弔いをするしか無かった。

冬の場合。私は山の土となった。天からの贈り物、白く、冷たいそれは私の肌を冷たくした。浸透させた。しかし、私はそれを負担に感じることなどなかった。彼はよく馴染み、しばらくは私のところに留まることが約束されていた。天は私を信用した。信用したゆえに多くの彼らを私の所へ送り込んだ。私たちは仲良くしていた。ぴったり引っ付いて。しかし、彼らもまた調子が狂うようで、私とは馴れ合わずに勝手に行動してしまう時もあった。彼らはそんな時だけ私だけでなく、風と仲良くするのだった。彼らはつるむとお互いがお互いをエスカレートさせていくようで、悪い化学反応を起こさせた。もう、それは私にはどうしようも出来なかった。嗚呼、人間の肌を感じ、そこに屍が残された時、私には無言の弔いしか出来なかった。私のせいだ。私のせいでしかない。肌で感じる。人間の体温が失われて行くのが。その時私は深い絶望に襲われる。また、私のせいで。

春夏秋冬。私は様々な変化を肌で感じ、柔軟にそれらと付き合う。彼らとコミュニケーションをとることは、決して得意でも苦手でもなく。ただ、なれないだけであった。しかし、私は彼らの故郷であり、迎えることしか、歓迎することしかできないのであった。

ある時、テレビで散骨という方法を知った。自分の命はもう長くない。あまり意識をしないようにしてその散骨という方法の特集を見る。私は自然が大好きだ。夏には海、冬には雪山でスキー。波や、風とはもう何年の仲であり、彼らは私の運動する意欲を高めるものでしかなかった。しかし、そんなことは過去のこと。病気が分かり、入院生活をするようになってからは風でさえも触れ合えない。自分の衰弱していく身体を鏡で見ながら、もう二度と彼らとは触れ合えないないんだろうなぁと思う。そんな時に散骨。これなら、死んだ後、大好きな彼らと触れ合える。私は、彼らと触れ合って目まぐるしく変わる季節の故郷となるのだ。プリン買って来たよ、と入ってきた母親にこう言った。


「母さん、私、自然になる。」

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そのまま私 もめなし @momenasi

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