子どもと、家事と、ひとりごと。

夏戸ユキ

懐かしい「自分」



 私は、占いは信じないし、聞いても参考程度だと思っているが。


数年に一度通う、「街のおばちゃん」の事は好きである。


 子ども二人を、幼稚園と保育園に預け、街に出てきたものの、私は久しぶりに街に繰り出した自分の姿を改めて見て、愕然とした。


 スリッポン・スキニーパンツ・青のストライプのカットソー。


 湿気が多い季節のせいか、何度まとめ直しても、頭はぼさぼさだった。


 これでも、私は。


 10年前の今頃は。


 ワンピースに、髪を巻き、ネイルを揃えて、「いけいけ」の恰好で、よく遊びにいっていた。


 前からあるいてくるような、若い女の子・・・あんな感じ。


 誰も見ていないはずなのに、急に恥ずかしくなり、わたしは建物敷地内ぎりぎりの狭い道に逃げ込んだ。


 北堀江でOLをしていた昔が眩しかった。


 独身生活を、あのまま続けて。


 北堀江で働き続けていたら。

 

 今頃は、綺麗に年を重ねて。少しいいワンピースを着て、ネイルもして、美容院も通って。


 彼氏的な人もいて、週に一度デートして。


 「青春」が続いていただろうか。


 そこまで考えて、私は、笑みが自然とこぼれていた。マスクで隠したけれど。


 そうだ。


 そんな生活は、旦那さんと。


 恋人同士だった時、さんざん、してきた生活だったんだ。


 旦那さんは、私を、「綺麗」にする天才だった。


 何を着ても、可愛いとほめてくれるし、「好き」や「愛してる」も沢山つぶやいてくれた。別れ際はハグもする。彼のそばでは、私は「一番可愛い」「ものすごく綺麗」「美人」になれるのであった。


 だけれど。


 当時の私は、不安で、孤独な日々の時もあった。


誰もいない部屋に、ひとりで帰るのが苦痛な日もあった。はやく孤独を埋めてほしいと思っていた。



 しかし今。


子ども達に囲まれ、幼稚園への送迎にバタバタして、お勉強は、毎日の食事の事ばかり考えている日々の中で。


 あの日々が、眩しく蘇ってくるときがある。


 この、今の寂しさはなんなんだろう。


 時折、あの時代が、恋しいと思うのはどうしてなんだろう。


 

 もし、戻っておいでと、手招きされたら。


 呼び止められそうで。振り向きはするけれど。



 だけど、私は立ち止まりはしない。


 大好きだった。あの日々。


 今も、いつもさみしがり屋で。切ない、幼かった日々の自分は。


 この胸に、そっと、しまっている、輝いている私の一部だ。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る