Track.4 夢寐委素島乱戦記~ただし、前半部分まで!~
「あ、この盗賊、死んじゃったのか……」
夢寐委素島乱戦記の第五犠牲者は、京の都で盗みを働いていた女房、女性使用人の
ただし、性別は女ではなく、女装して、数々の貴族の屋敷に入り込んでは、盗みと恐喝を繰り返していたという、色物の枠の盗賊だ。
女性と見間違えるほどの細身と、持って生まれた美貌を武器に、主人公を油断させ、追い詰めるという実力者でもあった。
だが、不運にも崖から落ちてきた岩につぶされ、死んでしまった。
「男とわかったときは衝撃的だったけど……死に方もすごいなぁ」
目的を達成できる瞬間に、この結果である。
盗賊佳乃自慢の逃げるための足は地面のぬかるみにはまりったことで、
押し寄せる岩々に体を圧迫される、佳乃。
生きたまま、つぶされるというのはこういうことなのだと、生々しく残酷な描写で書きつづられていく。
それでも、まだ佳乃は生きていた。全体的にボロボロで、両手両足とも地面について身動きできない状態なのだが、頭や脊髄は無事。
一瞬、やりすごせたとのだと思った。
耐えきった。自然に勝った、と誰もが思った。
呼吸を整え、冷静になって、泥から足を出せば、主人公からもまだ逃げられる可能性があった。
だが、死の運命は佳乃を逃がさなかった。
最後に大きな、本当に大きな岩が最後に転がり落ちてきて、押しつぶされてしまうのだ。
脊髄、肋骨は折れ、体内に四散したのだろう。傷つけられ、圧迫される内臓。
口から一筋の血をたらして、佳乃は絶命した。
「残りは、主人公・
ボクは、いったん、夢寐委素島乱戦記の今までの話を振り返ってみる。
第一犠牲者は、ルール説明を受けている中、騒ぎ立てた元貴族、
第二犠牲者は、乱戦の最初の脱落者。医者として数々の人間を救ってきたが、逆恨みによって流刑者となった、
朽骨は一撃必殺で田近を殺さないといけないぐらい、追い詰められていたというべきだろう。
田近は夢寐委素三種の神器の一つ、
夢寐委素三種の神器を持つことで神通力を得られる、この物語。夢魔勾玉の能力は、敵対者に幻覚を見せ続けるという、目くらましの効果を持っている。
朽骨は、今まで殺してきた人間たちの怨霊に追いかけられ、崖の下に誘導される。あと一歩で落下というところで、幻覚を見破り、田近を一撃で殺す。
いたぶる余裕なんかなかった。
田近が完全にこと切れたのかどうか、不安だったため、田近の心臓を持っていた刀で突き刺す。すると、切先になにやら硬い鉱物に当たる。その鉱物こそが、夢魔勾玉だった。
夢幻勾玉を手にした朽骨。
神器を手にしたことで、島にはびこる、神々しくもまがまがしい気配に精神を蝕まれようとする。
隙だらけとなった朽骨に近付く影が出てくる。
第三犠牲者となる山賊の
だが、夢寐委素島に送られたのには意味がある。
青波様が欲するのは強く賢く、そして強運の持ち主だ。
八人の参加者が青波様のおひざ元である夢寐委素島で、殺し合い、その中で生き残ったものであることこそが重要なのだ。
罪人でも関係ない。しょせん、罪は人間の世の道理の話であって、神の道理の話ではない。
時の帝もそれに同意し、流刑者を送り込んだのだ。
『神主』になったら、島から出られないのだから、暴れまわれることもない。
神の望みをかなえた上に、罪人は一掃される。
人間の社会にとっては、良いこと尽くめなのである。
そんな思惑があろうが、今は生き残ることが第一だと、悪次郎は朽骨の背後から、頭を勝ち割ろうと刀を高々に振り上げる。だが、その時、夢魔勾玉の神通力を得た朽骨は、悪次郎に 自分が見たような悪夢を展開させる。
今まで殺してきた人間が怨霊となって集まってくる、幻覚。
悪次郎は、群がる怨霊によって動きを封じられる。
幻覚なのに、と思われるだろうが、ここで朽骨の性癖が出てくる。
朽骨は具体的に、悪次郎が夢魔勾玉によってどんな幻覚を見せられているか、わからなかった。だが、ときおり出てくる悪次郎の罵声と動きによって、何に警戒しているのかわかったからだ。
急所に触れられるのを嫌がるのは当然、逃げ出そうとするのは本能だ。
防衛本能をよくよく観察すれば、どこを傷つけられると不都合なのかがわかる。サディストな朽骨は、悪次郎が今見ている幻覚に重なり合わせるようにタイミングよく、刀を振るい、弱いところを効率よく傷つける。
幻覚の中にいある悪次郎は、あまりの痛みが怨霊に食われているからと錯覚。
怨霊に生きたまま自慢の肉体を無残に貪られているいう、地獄のような幻を見せられる。
大量に、深く、体を傷つけられ、零れ落ちる臓物のほとんどが怨霊に食われ、虚空へと奪われる。
まさに夢魔という名にふさわしい、幻覚が広がる。
朽骨が粗方悪次郎の肉体を切り刻み、それなりに解体。大量に血を流させて殺すころには、悪次郎の顔は夢魔勾玉による精神的苦痛によって、一気に老けこんでいた。
それこそ、今まで殺してきた老人のように……。
最後は目をくり抜かれ、鼻、耳と無残にそぎ落とされ、顔の皮を剥がされるのだが、その前に粘土状の泥の上に顔を押しつぶされる。泥の中に殺される寸前のしわくちゃな苦悶に満ちた顔が転写されたのだった。
この生粋の悪人が、同じ悪党とは言え殺しのベクトルが違う殺人鬼になぶり殺されるという衝撃的シーンは、夢寐委素島乱戦記でも屈指の残虐性をもっていると思う。
第四犠牲者は、武家の
その死はあまりにもあっけなかった。
首を吊り、死んだ。
異様な夢寐委素島の空気に正気を失ったのか。朽ち果てた一室の中で、彼は静かに首に縄を括り、重力に抗うことなく、息を引き取っていた。
だが、自殺にしては、台座なしと不可解なところがある。
そして、雨宿りのため、松五郎の死体がある小屋に立ち寄り、見つけてしまった主人公の後ろに、人影が重なり合う。
不審な影だ。
懐には光る楕円形のものがあると、まだ作中で存在を隠されている、三種の神器の一つ『鏡』の所有者であるような描写がされている。
佳乃の登場で、人影の印象は煙のように消えてしまったが、気になるといえば、気になる存在だ。
ボクはこの人影が、道摩だと思っている。
海賊のくせに……と、いうか、日本の海賊は、副業強奪、本業海の案内役だから、荒くれモノであるのは変わらないが、お偉い人たちとの交渉技能が必要なところもあって、学があってもおかしくない。
くたびれた一冊の本を常に持ち歩き、夢寐委素島のことをよく知っている、なぞの男。
倫之助、朽骨、道摩の三つ巴の戦いが始まろうとした。
「いったい、これからどうなるのだろう……」
話の展開にドキドキする。
しかし、不意に電撃が走るとともに、ボクはこの続きを読む余裕はなくなってしまった。
立ち上がり、いったん本を閉じ、テーブルに置く。
飽きたからではない。
生理的現象の導きには従うしかないのだ。
「……トイレに行こう」
給湯室でお茶を飲みすぎたのか。利尿効果は抜群だった。
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