第十三話 安全確認
「暗いな」
俺一人だけの懐中電灯だとやはり暗く、あまり奥まで確認することができなかった。
水はチャポン、チャポン言っており、今だ不気味な雰囲気は消えない。
「うわぁ!?」
何かに引っかかり俺は転んでしまった。
「いった」
懐中電灯で確認すると、引っかかった物は玩具だった。
「玩具? 何でこんな所に……」
考えられることと言えば玩具の持ち主がここを通ったことのみ。
アルファが出現する以前は子供、ましては玩具で遊ぶぐらいの小さな子がこんな所に入るわけがないからアルファが出現して以来にここを通って落とした。
ということは、この先に子供を連れた生存者がいるはずだ。
「ふぅ」
俺は玩具の主に会った時用に玩具を拾い、リュックの中に入れた。
――ゴー。
「は?」
どこからか風のような音がした。
「風? いや、何で」
ここは地下だ。風なんて入ってくるはずがない。
「まさかっ!」
俺は腕時計を確認した。
「今は十七時」
風が地下に入ってくるということはどこかの扉が開いている、または穴が空いている可能性がある。
いくら小さい扉でもあの小さなアルファが入ってこないという保障は一切ない。
今は十六時でまだ日が昇っている時間。
もし、アルファが地下水路に下りているなら大変なことになる。
「くそっ」
まだ日が昇っている時間だけれど確認せずにはいられない。
「頼む……」
俺は側面や天井などを中心的に懐中電灯で照らしながら先を進む。
正直、俺の進行方向が正解なのかも分からない。
だけど信じて歩くしかない。
もしアルファがいると過程するなら走ることはできない。
歩くのさえも拒んでしまうほどの恐怖が俺の中で芽生えるけれどそんなのを気にしている余裕はない。
固くなる足を動かし、前へ前へ進む。
今、どこが安全でどこが危険かも分からない。
安全だと思っていた地下水路が危険な場所なら今すぐに戻って冷夏や生見さんと話し合わなければいけない。
衣月の行動だって変えてもらわないといけない。
「早く見つかってくれ」
天にも祈る思いでこの音の原因を探す。
恐怖、不安、緊張。
この三つが今、俺の体を支配している。
「っ」
どんどん歩く速度が落ちてくる。
俺の心も、恐怖や不安に支配されつつあるということだ。
「今ここで立ち止まるわけにはいかないんだっ」
必死で一歩踏み出した、その時……。
プルルルル
「!」
着信音が頭がパッと変わった。
「もしもし」
「河野? 冷夏だけど」
着信先は冷夏からだった。
「どうした?」
「さっきからずっと風のような音がするの。生見さんと一緒に辺りを見たけれど穴とか風のような音の原因がどこにもなくて……」
「俺も同じ状況だ。奥へ歩いても風のような音はやむことがなく、ずっとゴーゴー言い続けてる」
「……え?」
「どうした?」
「ちょっと待って」
少しすると今度は生見さんの声がした。
「水谷くん」
「どうした?」
「この風のような音は、もしかしたら風ではないかもしれない」
「風じゃない? なら、何だ?」
「ねぇ、凄く嫌な予感がするの」
「それは僕も」
「もし、どこかに穴が空いているとするならあの小型のアルファが入ってきている可能性は俺もずっと考えてる。だけど、これが風じゃないなら原因は何だ?」
「分からない。だけど何かが起こっているとしか思えないの。だってまだ十七時。日が昇ってて上ではアルファが活動してる。あいつ等が何かしてるとしか思えないのよ」
「うん。水谷くん、一旦戻ってきて、作戦を立て直そう」
「……それは無理だ」
「え?」
「俺はこの風のような音の原因を探してくる。お前等は衣月の連絡先教えるから作戦立てておいてくれ」
「ちょっと待って! なんで危険に自分から飛び込んで行くのよ!?」
「そうだよ。今、水谷くんが死んだら僕達にとって大きな力を失ったことになる」
「大げさすぎ。この中で頭が冷夏や生見さん、心臓が春、なら俺は手足だ。手足は体の支えや犠牲になることが多い。手足ならいくらでも替えが効く。いいか?」
「っ。駄目だよ! 戻って、河野!」
「いいか、これは安全確認だ。もしどこからか入って来れてるのなら地下水路は安全じゃなくなる。上から移動しないといけない。これじゃ全て最初に戻る」
「それでも……」
「ここで確認しないと皆が危険になる。冷夏や春に生見さん。それにこっちに向かってきてる衣月もそうだ」
「水谷くんは?」
「俺は大丈夫だ」
「何を根拠に言ってるんだい?」
「俺にしか分からない根拠だ」
「馬鹿……」
「そうさ、俺は馬鹿だ。頭で考える前に体が動く脳筋野郎だ。だから行く」
「理由になってないよ!」
必死に俺に訴えてくる冷夏や生見さん。
仕方ない。
「……切るな」
「嫌だ。まっ……」
ツーツーと電話が消えた音がした。
「悪いな。冷夏、生見さん」
次の着信音が鳴る前に冷夏に衣月の連絡先を送信しておき、携帯の電源を落とした。
「さて、行くか」
鳴り止まない風のような音。
その音を聞きながら真っ暗な水路の奥へと歩いた。
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