第39話 熊本⑤

あららぎ一尉からの報告によると、ギャリオンと言うロボット形態を手に入れたそうだね?」

「はい、その通りです。そのギャリオンを使えば、例えば我々であっても、モンスターと戦う事は可能という事かな?」


「あー、それは一概には言えません」

「どういう事だね?」


「今現状、僕の所持しているギャリオン零式に関して言えば、元の能力に対して増幅するタイプの機体だからです」

「という事は、我々が使った場合は大して戦力にはならないという事かな?」


「恐らく…… ですが、ドワーフの国にあった百式という機体であれば、使いこなせば、恐らく通常のモンスターであれば撃退できる程度の能力はあると思います。今現在は修理中ですが、お酒を納品すれば譲って貰える筈ですので、その機体が手に入れば、貸与しても構いません」

「そうか、期待してるよ。それともう一点だが、北部九州では、電力なども使えるそうだね。現状の生存者をその地域に、移住させたいと思うのだが、協力は要請出来るかい?」


「それは…… 僕には判断できませんが、受け入れ先である北部九州地区の方は大丈夫なんですか?」

「その辺りは要交渉になるが、あちらも設備が生きていたとしても燃料問題などは、必ず起こるわけだ。勇気君の協力が得られるのであれば、十分に交渉は可能と思うのだが?」


「そうですね、その辺りの協力はしょうが無いと思います」

「もう一点は、博多ダンジョンではトランスフォームの能力を習得できる可能性があるらしいな?」


「可能性だけです。もしかしたら一歩も動けない植物人間になる可能性も残っているので、怖くて人体実験なんか出来ません」

「確かに民間人には頼めないが、ここにいる自衛隊の3名の女性隊員が、強力な能力を身に付けれる可能性にかけてみたいと言ってくれている。協力を頼めるかい?」


「本当にどうなるかの責任は取れませんよ?」

「もし、動けなかったとしても、野菜や果物を生み出し続ける事が出来るんだよね?」


「それはほぼ間違いないです」

「それなら少なくとも人の役には立てるんだから、こんな時代になっちゃったんなら試してみたいです」


「解りました。熊本のダンジョンを終わらせた後でいいなら、それは協力しましょう」



「私達は、早速博多へ向けてヘリを飛ばして交渉を始めたいと思う。今後とも蘭一尉をよろしく頼むな」


 自衛隊の人達ってなんでこんなに自己犠牲精神にあふれてるのかな?

 俺には無理だよ、そんな考え方……



 ◇◆◇◆ 



「美里さんは、俺達の仲間の立場と自衛隊員としての立場は、いざとなればどっちが優先なの?」

「勇気君。私はどちらも大切なの。今生き残ってる人たちの力を合わせれば、必ずこの世界を人の手に取り戻す事は可能だと思っているよ。その為に一番大切な存在なのは勇気君だとも思っている。出来れば勇気君と手を取り合って、新しい世界を創造して行きたいの」


「俺、そんな世界だとか人類だとかそんな話をされても解んないよ。でも解んないから断る理由も無い。自分の考えがはっきりと決まるまでは、美里さんの話も参考にはさせてもらうね」

「うん。今はそれでいいよ」


 ◇◆◇◆ 



「さぁ熊本に戻って、スタンピードを止めるよ」

「「「了解」」」


 愛美の転移で熊本に戻ると、前回同様、俺はフェンリル姿でアブソリュート0絶対零度を展開しながら、一気に、熊本ダンジョンのゴーレム達を破壊しながら進んで行った。


 途中で奈沙と沙愛の姉妹がバーニングを獲得していたけど、香奈さん服が燃える話とか教えなかったのかな? もしかして、態と教えなかったとかじゃ無いだろうね?


 8層まで降りた段階で、奈沙と沙愛の姉妹は次々にスキルを入れ替えていき、こんな感じになった。


 大西奈沙 16歳

 胞子人

 155㎝

 45㎏


 称号

 マッシュルーマー

 

 ギフトスキル

 融合

  【突撃茸】☆☆☆

 力強化Ⅷ

 ヒーリングレイ

 生命力吸収

 状態異常耐性Ⅲ

 バーニング

 ヒートレイ

 ダークネスレイ


 大西沙愛 16歳

 胞子人

 155㎝

 45㎏


 称号

 マッシュルーマー

 

 ギフトスキル

 融合

  【突撃茸】☆☆☆

 力強化Ⅷ

 ヒーリングレイ

 生命力吸収

 状態異常耐性Ⅲ

 バーニング

 アイスレイ

 ホーリーレイ


「あ、奈沙ちゃん沙愛ちゃん見た目普通になったね良かったねぇ」

「「やっぱりこけしってヤバかったんですか? 愛美さん」」


「うん…… ちょっとだけ」


 完全にキノコっぽさが無くなった訳じゃ無いけど、マッシュルームカットの女の子程度の見た目になったから、ある意味うさ耳の愛美さんや狼耳の里香達より人間ぽいよな。


 まぁ女の子が精射スキルとか使う姿は見たくない気がするから、良かったけど。


 そして遂に熊本ダンジョンの最終層9階層へと足を踏み入れた。

「あれ? 何も無いし、敵も居ないね」

「ミコ? どういう事だ?」


「ふむ、解らぬのじゃ」

「あの? 勇気君ちょっといいかな?」


「ん? どうしたの香奈さん」

「ほら、ここってさ隠し部屋が他のダンジョンに比べたら沢山あって、ギャリオン零式が手に入ったじゃない?」


「うん」

「ギャリオンじゃないと最終層が攻略できなくなってるとかじゃ無いの?」


「あ、可能性としてはあるかもね。ちょっと出してみるからみんな装着フィッティングして合体コンバインしてみよう」


「「「はーい」」」


 美里さんが「コンバイン」と叫ぶと「キャシャーン」と甲高い合体音がして、ギャリオン零式が姿を現す。

 俺が「起動スタートアップ」と指示を出した。


 すると、この部屋の中央部分に、ロボが姿を現した。

青い機体のロボだった。「鑑定」と唱える。


「ギャリオン壱式」

 能力は見えない。

 対話も出来ないな。

 ☆表示も無いぞ。

 だがサイズは10mクラスで零式の3倍以上のサイズだ。


 ちょっと厳しそうだな……


 こいつは完全なAI起動方式みたいだ。

「とにかくこいつを、零式で撃破したらいいんだよな?」


 壱式は結構な機動力で、巨大な日本刀の様な武器を振り回して、顔の横からもバルカン砲で、攻撃してくる。

 零式も俺の運動能力がそのまま上乗せされてるから、機動力だけは上回っているし、攻撃は各パーツに乗っているパイロットが指示を出しているから、圧倒的に攻撃量は多いんだけど、ことごとく左手に構えた大きなタワーシールドに阻まれる。


 戦闘時間は30分を超えて来たが、決定打には欠ける。

 むしろ壱式のAIがこちらの動きを学んでどんどん鋭さを増してくる。


「ヤバいなこれ。何か良い手段は無いかな?」

「勇気君。ちょっといいかな?」


「美里さんどうしました?」

「もしかしてさ、壱式を登場させる鍵が零式だったってだけで、戦闘自体はエンシェントドラゴンでも大丈夫って事は無いかな?」


「あぁ可能性としてはありますね、このままじゃやられちゃいそうですから、それに賭けてみましょう」

「ミコ、リリースしたらすぐにみんなを守ってくれ俺だけ反対方向に行くからな」


「了解なのじゃ」


 そして解除リリースの指令を美里さんが出した直後に、俺はエンシェントドラゴンにトランスフォームした。

 渾身のブレスを壱式に浴びせかけると、壱式は消滅した。


 その場にソフトボール大のコアを残して。


「うーん、戦闘はどうにかなったけど、ダンジョンのクリアがアナウンスされないな。まだ続きがあるのか?」


 コアを拾い上げると光を放って、ホログラム映像が現れた。

 ドワーフのおっさんが喋り始めた。


『零式を復活させ壱式を撃破する事が出来る者が現れた事に敬意を表す。壱式は対零式に特化した機体で、汎用性は皆無じゃ。だがこのコアを零式のボディに埋め込めば、サイズ可変能力を与える。次世代機は更に優れた機体だ。見つけ出してみろ』


 そのホログラムの映像が終ると、ダンジョンクリアのアナウンスも流れた。


「ミコ、マスターに成れたか?」

「いや、駄目だったのじゃ」


「えぇ、そうなんだ素材は今手に入れた分だけで終わりなのか……」

「恐らく、ゴーレムダンジョンが他にもある筈なのじゃ。どういう仕組みになっているのかは解らぬが、ギャリオンは後98体が存在するのは確かな筈じゃ」


「一度、ドーガさんにしっかりと話を聞かないといけないな」


 熊本ダンジョンは消滅し、俺達は地上へと戻された。

「まぁしょうが無いけど、熊本のスタンピードも止まったから良しとするか」


「勇気君この次はどうするの?」

「うん、防府基地の東指令に頼まれた件もあるけど、九州にダンジョンはもうない筈だから、先に酒蔵とか廻って、百式の機体を手に入れる分量分のアルコールを手に入れたいかな?」


 こうして俺達は、九州中から物資を回収する事にした。

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