第28話 熊本①
倉敷ダンジョンを制覇してミコが倉敷ダンジョンのダンジョンマスターとして存在する事になった。
この事実によって、ダンジョンの攻略は、次の段階に進んだと言える。
俺が一通りの種族にトランスフォーム出来る様にしておけば、この先、希望の通りの進化を演出できる、ダンジョンを生み出せる。
だが嫌な予感もする。
蟻ダンジョンは確かに戦力を持たない素人から見れば、十分に危険だった。
しかし、軍事国家が敵を調べた上で取り組むなら、難しいダンジョンでは無かった筈だ。
炎には耐性があったかもしれないが、電気で内部から焼く事には耐性が無かったし、試して無いが毒や酸による攻撃だって難しくない。
他に討伐数を稼げるダンジョンも世界中に1000以上存在するんだから、必ずある筈だ。
それを計画的に、人造人間工場として利用しない保証はあり得ない。
むしろ、軍事国家であるなら、取り組む方が自然の流れだ。
まだわずか10日程しか経っていないが、人口に関して言えば、日本では80%以上が失われていると思う。
きっと…… 世界中でも同じか、それより酷い結果になっているだろう。
一体これから先この世界はどう変わって行くんだろう?
◇◆◇◆
「美里さん。防府の自衛隊基地以外の状況はどうなってるんですか?」
「状況的には、厳しいよ。自衛隊としても戦力分散は避けたいから、他の学校や公共施設に避難している人たちは、できればみんな基地に集まって貰いたいんだよね」
「他の市内の避難所にいる人数ってどれくらいなんですか?」
「ここに10800人程で、市内の小中学校に避難している人数は合わせて8000人程だよ」
「防府市って11万人くらいいましたよね?」
「そうだね」
「ここに他の人達を移さないんですか?」
「今でもプライバシー何てほとんどない状況で暮らしてる中で、他の人達を連れて来ると、必ず問題が起こると東司令は心配してるの」
「そうですよね、それも運なのかな……」
「冷たいようだけど、自衛隊員だって毎日他の避難所を危険のある中巡回して物資を届けてるでしょ。その任務中に殉職した隊員の数だって300人近くなっているの。死亡率が20%を超えるような任務を命令する事は、組織としてこれ以上できないの」
「そうでしょうね」
「もう弾薬も底をついたし武器も無い状態で基地の外に出るのは自殺行為でしか無いからね。こちらが迎えに行く形でなく、自力で辿り付けた方を保護する事まではダメとは言わないけどね」
「離島とかはどんな状況なんですか?」
「駄目だったよ。ウルフは普通に海を渡って島にも上陸して行ったわ」
「そっかぁ。俺はとても世界の救世主になろうなんて考えにはなれないから、自分なりに、両親や妹が困らない程度に動くしかないな。次の解放場所なんだけど、博多か、熊本に行こうと思うんだけど、どっちが良いのかな?」
「熊本は、火を使う魔物が出るそうだよ。情報が入っていた時点で熊本市内は消失してたらしいからね」
「ミコに聞いて見なきゃ」
俺はミコに念話で話し掛けると、里香と愛美も一緒に現れた。
香奈さんは、お爺ちゃん達と施設の外周を見回って、蟻の能力で何か出来ないか考えてみるそうだ。
積極的に力になろうとするとか、凄いなって思った。
「ミコ、熊本のモンスターはどんな種類なんだ?」
「ちょっと待つのじゃ…… 解ったのじゃ。熊本はゴーレム系の魔物なのじゃ」
「え? 火を吐く魔物って聞いたけど」
「それは、溶岩がベースの魔物じゃな」
ちょっと大変そうだけど、フェンリルの氷の能力であれば対処は出来そうだし、行って見るか。
俺は次の目標を熊本に決めた。
火災が発生しているなら、愛美の能力も役に立ちそうだしな。
『香奈、次のダンジョンに出発するから格納庫まで戻って来てくれ』
『え? これどうやって聞こえてるんですか?』
『念話だ、今は俺から発信する事しかできないが、パスが繋がってる間は相互通信できる』
『いいなぁ勇気君、この能力って私達も覚えれるのかな?』
『どうなのかな? 攻略を進めたらヒントは手に入るかも知れない、俺のはダンジョンの宝箱で身に付けたからな』
それから10分程して香奈も戻って来たので、愛美に防府球場へと転移を発動して貰って、俺はドラゴンにトランスフォームした。
「今回は少し遠いから、ドラゴンで一気に飛んでくぞ」
愛美は落ちても自力で飛べるから、今回は首筋には香奈がストッキングを手綱にして跨り、その後ろに愛美が乗って、脚には美里さんと里香をミコが巻き付いて固定した。
そのまま、熊本上空まで一気に飛んで行ったが、状況は想像よりずっと厳しかった。
熊本から九州山脈を越えて宮崎に至るまで山火事が発生していて、大分方面、鹿児島方面にも火の手は伸びている。
何故か福岡方面には延焼をしていないが、博多ダンジョンのモンスターとの兼ね合いで延焼が防がれているんだろうか?
「愛美ちょっと豪雨降らせてみてくれ」
「うん、やって見るね」
愛美が豪雨を発動すると物凄い水蒸気が上がって来た。
「あっちいいいいいい。駄目だ止めろ。これじゃ火傷するだけだ」
「勇気、あそこ燃えて無いから一度着陸しない?」
美里の声に反応すると、確かにひときわ大きな山だけが燃える事無くそびえていた。
「あれは阿蘇山か? 火の国熊本の象徴が逆に燃えるのを免れて残ってるなんて、皮肉だな」
俺は阿蘇山のカルデラ内部に向かうと、自衛隊員を中心にかなりの人数がここの土地に居る事を確認した。
まだかなり上空だが、俺のドラゴンの巨大な体躯はきっと視認されているだろう。
ちょっと離れて人がいなさそうなカルデラの中にある山肌に着陸するとすぐにトランスフォームを解除した。
当然の様に、素っ裸な俺に4人の女性が密着した状態だ。
「愛美、お前自力で飛べるんだから着陸態勢に入ったら、離れろよ」
「だって、他の人達に差を付けられそうだから…… 美里さんなんか明らかに顔の向きが股間向くように調整してるよ?」
「そ、そんな訳無いでしょ? 私は大人の女として、勇気君が無駄に興奮した状態になって、里香ちゃん達を襲わないかが心配だから見張ってるだけです」
「香奈ちゃんだって初めての着地露出なのに、無言で指の間からしっかりと観察してるし、みんな油断も隙も無いでしょ?」
「ぇ、私は、そんな事、ちょっとしか興味ないですし」
「あるんじゃん」
不毛な言い合いを聞くのも時間の無駄なので、さっさと服を着て、次の行動をどうするか考える事にした。
「でもさぁ香奈さんって何でジャージ姿なの?」
「特養でお仕事する時の恰好がジャージだったから、そのままだよ」
「他の女の子らしい格好とかはしないの?」
「女の子らしいって? 里香ちゃんや、愛美ちゃんみたいなコスプレ?」
「え? 私のバニーはコスプレじゃ無くてTPOを大事にしてるんだよ? うさ耳にはやっぱりこれでしょ?」
「私は、勇気君が最初に出してくれたのがセーラー服だったから、着てるだけだよ?」
「愛美ちゃんの友達のうさ耳ガールズは普通に高校の制服だったじゃん。ブレザーにチェックのスカートの。勇気君はセーラー服が好きなの? それなら私も着ようかな?」
「香奈さんセーラー服は18歳以下限定です!」
「ええ、一つしか違わないじゃん」
「それでもそこは重要なポイントなの。19歳以上のセーラー服とかそれこそコスプレ以外の何物でも無いじゃん」
「おい、コスチュームの話は良いから、どう行動するか決めるぞ」
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