帰り道なのじゃ


 勤めを終え、帰る途中なのじゃ。

 「ふぅ……なのじゃ。」

 その帰りの牛車の館の中で、わらわはだらけておる。


 宮殿へ行き、詩天庁に原稿を納めてきたのじゃが、天界の移動も楽ではないのじゃ。

 ネットで送信すれば良いものを……と思っても、そうはいかないのじゃ。

 わらわの力が宿った文字でないと意味がないのじゃ。

 これが無ければ天界に召し抱えられる事も無かったのかも知れぬが。


 のたのたとしばらく行くと、

 牛を引いている牛飼童(うしかいわらわ)の信乃が汗を拭いながら言ったのじゃ。

「姫様も飛竜で宮殿まで行かれた方が早いのでは」

「飛竜は姉上が既に飼っておるし、わらわはこの緩やかな速度も好きなのじゃ。

たまには信乃とも話したかったしのう」

「左様でございますか。ありがとうございます。ですが、話題と呼べるものは天界には殆どありませんよ。天人が話すのは、皆下界の事ばかりです」

 確かにのう。天界は穏やかに日々が過ぎ去るのみ。

「そうそう。今、わらわ弟子募集中なのじゃ。お主は弟子にならんか」

「恐れ多いです。能力の事は分かりませんが、そもそも書こうとする強い意志がなければ書けませんよ。私は牛の世話や馬の世話をするのが性に合っております」

 信乃は困ったように笑っておる。

 わらわは別段気にしたことも無かったか、書くとはそういうものなのじゃろうか。

 師匠と弟子。教えられることは教えたいと思っとったが、教えられるものでもないのかも知れぬ。

 どうなるのじゃろうのう。


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