山の日なのじゃ



「海の日があれば山の日もあるのじゃ」

 でもわらわは、どちらかと言えば海の日の方が好きじゃのう。

 暑い中、山は登りたくはないのじゃ。


 天界山もよう見える。

 山頂は入道雲よりも高く、雲に隠れて見えん。そもそもあの山は幻影じゃないかと思ったりもする。

 よく見えるのに遠いのじゃ。


 縁側で一息つこうとした時、庭にバサッバサッと翼をはためかせた飛竜が降り立ったのじゃ。

「お主、姉上の飛竜、吹雪ではないか。どうしたのじゃ?」

「ククゥ」

 背中を嘴で指して、わらわに乗れと促しておる。

 乗れと言われてものう。もしや、姉上の身に何かが。

 いそいそと背中に乗ると、吹雪が勢いよく羽ばたいた。

「のじゃーー」

 目を瞑って鬣にしがみ付いていたのじゃが、ゆっくりと目を開けると、天界が見渡せたのじゃ。

 これはなかなか。

 吹き抜ける風が涼しくて暑さも気にならんのじゃ。

 そして一気に天界山の頂近くの庵に辿り着いたのじゃ。


 姉上はのんきに手招きして「山登り楽しかったでしょ」と言いおった。

 登ると言うより昇るじゃのう。

 無駄な心配じゃった。吹雪に礼を言い、出されたお茶を飲んだのじゃ。

 山の上はこんなに涼しいのなら山の日も悪くないのじゃ


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