ヒーロー〝D・I・Y〟!

アリエッティ

第1話 ドゥーイット・ユアセルフ

 俺はヒーローに憧れてた。

だけどなれないから、よくなりきった


「..よし、できた。」

それは今も変わらない、やっぱり好きなものはいつまでも好きなんだ。


「Mr.コンストラクション...!」

工具くっ付けて即席だけどクオリティ高ぇ、左手のチェーンソーいかす〜。

「ワンタッチでモードチェンジ」

手首に付けたボタン式装置で臨機応変にアームを変化、イカスこれ!


「チェーンソーからトンカチだぜ?

画期的すぎだろこの変換!」

眼は防護眼鏡を改良したスペシャルシールドでしっかりガード、背中はマントでオールクリア!


「やっぱヒーローは赤マントだよな」

この為に美大出たんだよ俺は。


別にコスプレが好きな訳じゃない。

ただヒーローの格好をすると、小さい頃からの夢が叶うから気分が良い。そしてここで止められないのが男の夢だただ着るだけにすれば良かったのに。


「……これで外出てみたいよな。」


でも大丈夫かな、捕まるかな?

捕まらなくても近所一の変態として忌み嫌われたりしないかな?

...ダメだ、我慢できない。外出たい!


「どこかでそういうイベントやってないか、仮装大会的なやつ。」


便利な世の中だ、分からない情報は直ぐに調べられる。パソコンってちょっと古い気がするけども。


「…ん、なんだこれヒーロー大会?」


貴方のヒーロー魂ぶつけてみませんか

そんなキャッチコピーがでかでかと張り付いたサイトを見つけた。

「開催地は何処だ、すぐ近くならいいんだけどな。」

早速場所を調べた。すると思わずぎょっとした、余りにも近かったからだ。


「市民...会館。」

家出て直ぐのトコじゃん、うれし。


「見せびらかそ、これでもかってくらいひけらかし倒そ。」

直ぐに向かった、秒で向かった。

何か書かされるかもと思って部屋の隅にあった小さい鉛筆を持って向かった

「外雨降らないといいけど。」

傘を持っていくかギリギリまで悩んだけど結局持っていかなかった。

嵩張るから、傘だけにとかではなく。


「洗濯物畳んでからの方がいいかな」

とかも考えたけど無視した。

きりがないから、延々とになるから。

「いってきます」

市民会館の場所はよく知っているからはやての如くスピードで到着した。

既にそこには観客と思しき人々で賑わい溢れ、入り口付近でもう人が居過ぎるとこだった。


「出場者ですね、お名前は?」

「Mr.コンストラクションです。」

受付のような人間がいたが手続きが簡単に口頭で済んだので持ってきた鉛筆は使わなかった、すごい持て余した。


「Mr.コンストラクションさん、それでは早速中の控え室へどうぞ。」

「控え室?」

正面の自動ドアから会館のロビーへ入り、そこから更に幾つか扉を抜け、小さな個室へ案内される。ロッカーが幾つも並び、学校の部活の更衣室のような場所だ。練習後居座る感じの。


「準備が出来たらお声掛け致しますので、それまでゆっくりと。」

滞り無いな、あの階段は何だ?

何処に続いてる、アレ絶対登るよな。

のちに確実に登らされるよな。


「それにしてもガラクタが多いな、何かに使えるかもしれん。小分けにして持っておこう。」

木の板や鉄の塊といった本当にその辺に落ちているゴミばかりだが何に使えるかもわからない、懐にでもしまって温めておく事にした。


「コンストラクションさん、時間です

手前の階段を上がりください。」

そんな事をちらほらしてたら直ぐに時間だ、やっぱり登らされた。

「何が待っているっていうんだ?」

想像は余り出来なかったが登れば分かると階段を駆け上がった。

するとそこで見たものは、予想以上に

派手な事。少なくとも市民でやるには目立ち過ぎる出来事だった。


「さぁ始まりました、市民会館特設ステージ。ヒーローバトル大会!

記念すべき一戦目の札を落とすのは、

Mr.コンストラクション!

そして死神・ソウルデスボーン!」

賽の目に切った岩を敷き詰めた四角いステージに立たされた二人のヒーローを囲み湧く観客達。

熱量は凄まじく、開始数分で黄色い声援を送る人も。声でっかいなオイ。


「ナルホドな、渾身のヒーローで戦い合う訳だ。それで魅せ方を競って観客を湧かす、良く考えたな。」

見せびらかしたい人間にとっては絶好のイベントだね、有難いよホント。


「周囲は皆ヒーローマニア、貶される事はまず無い。お互いウィンウィンだ平等な戦いってのはイイね。」

おそらくルールは賽の目フィールドから出るか、戦えなくなったら終わりっていうベタな奴だろう。格好良く勝つのもいいけど潔い負けざまってのも中々良い味出すんだよな〜。


「それでは早速始めます。

レディ〜..ア、ゴーヒーロー!」

合図独特だな。別にいいけど。さて、何してくるかな?

死神っていうくらいだからな、やっぱり鎌で一撃とか。丁度持ってるし。

でか、てかクオリティー高っ!

まるでモノホン握ってる感じの刃物感

「シシッ...!」「うおっ!」

降ってきた、凄い音した。

プロの空気斬る嫌な耳障りの音がした


「チッ、モウ一発ダナ。シシッ!」

「またきた!」

いや怖っ、本気で降ってくる音こっわ

....待ってよ、え?

「床の岩に食い込んでるじゃん。」

え、どゆこと。

もしかしてアレ、マジのマジもん?

「シシシシッ!」「嘘だろ!」

あいつ、本気で命狙って来てる。

クオリティーとかじゃないじゃんそうなると、本気の死神やっちゃってる!


「モードチェンジ・ブレード!」

取り敢えず受け止めよう、怖すぎる。

「シシシシッ!」

「…嘘だろ、斬り落とされた。」

鉄製の硬い奴だぞ、こんなに簡単に。

何の素材使ってんだろアレ、合金?


「それ何の素材使ってるんですか?」

「コレワ死神デスチタン、オマエタチニハ馴染ミガナイダロウナ。」

「ダメだわ、物凄い世界に入ってる」


でもカッケー。

ダークヒーローって事か、そういう発想もいいな〜、たまらん!


「シシシシシッ...!」「うおっ!」

スキルまであるの凄いよな、体鍛えると幅広がるわ〜。鍛えないけど


「ただめちゃくちゃ怖いな、そりゃ鎌あれだけ振られちゃ危険だわ」


「躱スナ、逃ゲル力ハ凄マジイ。」


「斬られそうだから必死だよ」


「シシシシシッ!」「容赦無し?」


➖➖➖➖


市民会館モニター室


「どう、様子は?」「館長。」


監視席に座り、チョコバーをかじりながらモニターを見る割腹の良い男にスレンダーな美女が声を掛ける。市民会館の館長、レミンだ。


「順調です。

いきなり死神とは、ヒーローというより悪役っぽいですけどね」


「捉え方は人それぞれよ?

只の鎌を持った悪役と思う者もいれば正義の味方という人もいる。地獄の使者、なんて事もあるかもね」


「本当にヒーローが好きですね。」


「ええ、大好き♪

だからこそ私は嬉しくて心躍るの。

だってこの大会には、色々な星や世界から訪れた〝本物〟のヒーローが参戦してくれるんですもの。」


「いたんですね本当にヒーローって」


「ね、私もびっくりよ。

図鑑や資料で昔から、多くのヒーローの情報を知っていたけど架空のものだと思ってた。...でも変ね」


「何がです?」


「この子、Mr.コンストラクション?

こんなヒーロー聞いた事ない。何処から出てきた英雄かしらね」


「さぁ..新人か何かですかね?」

「どうだろう..ま、イイけどね♪」

ヒーローマニアの主催者も知らない新たなるヒーロー、それはそうだろう。

彼は自主制作のチープヒーローなのだから、新人どころか素人である。


「リーチ長っ、幅広っ、威力やばっ!

死神ってそんな快活なのか。」


「シシシシッ!

イノチ捨テル気ニナッタカ?」


「ブレないなぁ〜世界観!

徹底ぶりが素晴らしいね、最ッ高。」


「ナラ死ネ!」

「もう死んでもいいかも!」

それにしてもあの鎌完成度高いなぁ、大きさくらいは測れないかな?


「シシシシッ!」「おっと!」

全長が..180ミリ、でかいな。

で、幅が約...130ミリか。

「うん、なんとかなりそうだ」

「調子ニノッタナ、遅ク振ッテイルカラ避ケラレテイルモノヲ。」

あの美大何故か科学工学もあったからな、割と素材は拘らずに...。


「よし、出来た!」「ナニ..?」

ちょっと持つとこ太すぎたな。お陰で上がプラついてるけど、ここの調節良く出来たよなあの人。やっぱスゲ。


「どうですかコレ、やっぱ下手?」

「アノ男、オレノ武器ヲ。

エモノヲトレース出来ルトハ、思ッタヨリ厄介ナ力ヲモッテルナ」


「でもコレどうやって振るんだろ、作ったはいいけど使い方わかんねな。」

上から振り下ろす感じか?

でも刃が内側に付いてるんだよなぁ。撫で斬る、横から振るか、どうしよう


「シシシシッ!」「うわ来た!」

もう鎌構えてるし、あのまま刈られる

..仕方ない、見様見真似でいこう。


「シシシシ!」「でや!」

あーあぁやっぱり上抜けた。

持つとこ固すぎて当てたらすぐ折れた

やっぱ駄目だな即席じゃ、時間掛けないとクオリティー的には...ん?


「なんで倒れてんだ?」「シシ..。」

こっちは傷一つ付いてない。

「なんだこれ?」

「..コイツ、上回ッテキヤガッタ。

鎌デ一振リヤッテヤッタラ刃ガ抜ケテ

トンカチミテェニ。ハナカラ頭ヲ狙ッテヤガッタ..」


「あれ、もしかして俺勝った?」

客湧いてるし、多分そうだよね。

いやーたまんないね、自分で作ったヒーローが勝つってのは。…あ!


「死神さん!」「...ン?」

(設定とかクオリティ、最高でした)

「…何イッテンダオマエ?」

声ちっちゃかったけど伝わったかな。


「勝者Mr.コンストラクション!」


「え、あぁ..ラッキーやった!」

さぁ〜次のヒーローはどんなだ〜?

楽しみだね、ワクワクすんぞこりゃ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る