第11回~

第11回、9人が11人に

(※1)「ダメだ、話のネタが浮かばない。浮かんでも形にすることができない!」


 僕の名前は無月K。自分で言うのも何だけど、売れっ子の少女漫画家だ。ただ今は初めての長期連載が最終回を迎え、次の連載について考えなくちゃいけない。僕はスランプに陥っていた。


「ちわーっす、せんせー、進捗どうっすかー」


 そこに現れたのは、僕の担当の義座ぎざさん。


「ダメだ……一応色々考えてみたんだけどね……」

「あ、これプロットすか? 見ても?」

「どーぞ」


 僕のプロットは殆どネームのようなものだ。義座さんも慣れたもので、他者なら読みづらいであろう意図も自分で汲み取ってくれる。


「へー、タイムスリップものっすか。いいっすね、今人気少年漫画の続編アニメもやってることだし」


 そういいながら、義座ぎざさんは第一案を読んだ。



     ▪






 きゃー、いっけなーい、Late,late!

 私アヤ・タターリ! 花も恥じらう二十歳、

グローバル・コミュニケーション学部グローバル・コミュニケーション学科グローバルコミュニケーションコースの二年生♡ 最近の悩みは学部学科コースを書く度に欄からはみ出ることかな☆

 今日は土曜日の補講、なのにうっかり平日のバスの時刻表を見ちゃってもうたいへーん! 友達から鬼LINE来てるきゃー!

「(※2)ごめんね、私はいつも遅れる、こんな自分が情けないよ! 미안합니다!」

 そう嘆きながら私は曲がり角を曲がろうとしたの。


 でもRainbowなlightに包まれて、気がついたら……。


(※3)「令和なのに、平成ジャンプしちゃったよ!」


 Adiós! 令和。नमस्ते! 平成!

 VHSとかブラウン管とかよくわからないけど、我会努力的!



     ▪


「ちょっと待って」


 義座さんがストップをかけた。


「えっと……なんですこの子? ルー語ってレベルとは思えないほど色々喋ってるんですけど」

「彼女はグローバル・コミュニケーション学部グローバル・コミュニケーション学科グローバル・コミュニケーションコースなので、簡単な言葉を勉強するんです。中々沢山覚えないといけないので、彼女はこうやって意識的に使ってます」

「な、なるほど……?」


 何故か唸る義座さん。


「えっと……なんで平成? 思い切って戦国とかじゃなくて、なんで平成?」

「ベルリンの壁崩壊って、平成元年じゃないですか」

「はっ?」




「グローバル・コミュニケーションなアヤは冷戦の社会に巻き込まれるんです」

「……………………………………平成っていうのも中々大変な時代ですよね、そういや」




 とりあえず色々と調べないといけないので保留、と義座さんは次の案に移った。


「おっと、今度はバトルものっすか。何なに……」



   ▪





(※4)「くそっ、あとちょっとだ! 届け!!」

 少年は手を伸ばして走る。

 真っ暗な闇の中、ただひたすらに、少女のために。


 崖に落ちる少女の手を掴み、少年は汗を流しながらもニヒルに笑って見せた。


(※5)「目の前で助けを求めて手を伸ばす一人の少女を救うくらいの力はある。そうだろう?」








  ▪


「おお、カッコイイじゃないっすか!」


 義座さんが褒めてくれた。


「で、この少年は一体どんな冒険をしてるんすか?」

「いやそれが……そのシーンだけは思いついたんだけど、それ以外はちっとも形にならなくて……」


 一応悪役とのバトルシーンは出来たんだけど、と言って、僕は次のページをめくって見せた。



   ▪


 主人公らしき少年に向かって、魔王らしき男が、

(※6)「ふはははは、お前の大事な芽キャベツはこの私の臍の穴に移植済みだ!残念であったな、冒険者よ」

 と、高笑いしている。

 

 恐ろしき肉体美の臍には、確かに芽キャベツが生えていた。


(※7)「貴様!覚悟しろ!」


 怒り狂った少年の、真の力が開花するーー!


   ▪


「……ギャグ漫画すか?」

「一応バトルファンタジーを目指したんだけど。ドラ〇エ的な」

「どっちかとゆーとこれグル〇ルに近いっすよ……」


 とりあえず保留で、と義座さんは言った。


「あ、最後は自信作なんだ。かなりシリアスな感じの。見てくれる?」

「ミステリーすか。ふむ……」


 そう言って、義座さんは次のページをめくった。



   ▪


 ジェットコースターの上で、女が電話をしている。

 ジェットコースターには、ランチボックスほどの爆弾がとりつけられており、彼女は解体作業をしていた。

 女は言った。


(※8)「赤と青、どっちの線を切ったら良いの? それとも貴方との縁を切った方が良いのかしら?」



   ▪


「却下で」

「え」


 自信作なのに!!











「いやまあ、大変な仕事っすよね。物語を作り出すなんて」


 義座さんはうんうん頷きながら言った。


「俺も小説書いてるんですけど、(※9)『PV50突破しました! ありがとうございます!』って書いたら、フォロワーさんには(※10)『おいはようやく1000pv突破したばい( ≧∀≦)ノ』って返信されてショック受けたんすよ」

「そ、そうか~」


 何ともコメントしづらいコメントだなぁ……。


「でも、こうやってると、自分には才能がないんじゃないかって思うことがあるよ。面白いものが描きたいのに、何が面白いのかわからなくなってきたというか」

「先生……」

「故郷にいた頃は描くだけで楽しかったし、面白かったんだけどね」


 今は皆の反応が楽しみな分、怖い。

 評判が良かった前作を越えられるのか。不安だ。

 プロットを書いていてわかったことは、大分迷走している自分だ。


 でも、プロなんだ。

 プロの漫画家には、編集者さんたちの生活もかかっている。お世話になっている義座さんの気持ちを裏切るわけにはいかない。

 だから今、ここで弱音を吐く訳にはいかないんだ。


「ごめんね、今のは忘れ、」


「すいません先生、今フォロワーさんから(※11)『佐賀県って実在するの?』って質問が来たんすけど」


 実在するんすか? と尋ねてくる義座さんに、僕は腹の底から怒りが込上がった。


「実在するわゴラァ!」


 おいは佐賀県唐津市出身じゃこらぁ!




 そうして出来た、『ふしぎ佐賀遊戯』。

 誰にも知られない佐賀県を怒りのままぶち込んだんだけど、何故か、売れに売れた。






無月兄さま、書籍化おめでとうございます!🎉👏👏👏🎊


(※1)……無月弟さま「ダメだ、話のネタが浮かばない。浮かんでも形にすることができない!」

(※2)……アメリッシュ様「ごめんね、私はいつも遅れる」

(※3)……かしこまりこ様「令和なのに、平成ジャンプしちゃったよ!」

(※4)……ぎざ様「くそっ、あとちょっとだ! 届け!!」

(※5)……祟さま「目の前で助けを求めて手を伸ばす一人の少女を救うくらいの力はある。そうだろう?」

(※6)……百瀬ふう様「ふはははは、お前の大事な芽キャベツはこの私の臍の穴に移植済みだ!残念であったな、冒険者よ」

(※7)……ゆうすけ様「貴様!覚悟しろ!」

(※8)……梅しば様「赤と青、どっちの線を切ったら良いの? それとも貴方との縁を切った方が良いのかしら?」

(※9)……リチャード三太郎さま「PV50突破しました! ありがとうございます!」

(※10)……野林緑里さま「おいはようやく1000pv突破したばい( ≧∀≦)ノ」

(※11)……無月兄さま「佐賀県って実在するの?」



近況ノートはこちら!

【今回は9人で終了!】第11回!フォロワーさまが残す一文を使って物語を書きたい

https://kakuyomu.jp/users/misora2222/news/1177354054934179501



9人ではなく11人ですが!

ダメだ……オチがマンネリ化してる……。

次回はもっと、精進します。


いつもご参加ありがとうございます!!!



 

 


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