フォロワーさまの一文で物語を作ってみた

肥前ロンズ

第1回~第9回

フォロワーさまの一文で作ってみた

 目が覚めると、見覚えない真っ白な部屋にいた。

 そして目の前には、ゲーム機のようなもの。タッチパネル式の画面に、「クイズに答えなければ出られない部屋」という文字が書かれている。

 そして隣には、何故か私が担当する生徒が。


「先生」賢そうにメガネをくいっと上げた私の生徒は、まだ状況が飲み込めてない私に言った。


「(※1)なぜ犯罪者は常にバールのようなものでこじ開けるのですか?」

「いや今聞くことかよ!!?」


 教師としての恥も外聞もなく私はツッコんだ。





「……つまりね、『バールのようなもの』って言うのは、現場に使われた物が置きざりにされてない限り、本当にバールかどうかはわかんないのよ。ただ、自販機とかすっごく硬いわけだから、人の力ではこじ開けられないわけ。だから力点支点作用点を利用出来るものを使ったのだろう、というある程度の推測がーー」


「あ、もういいです。先生」


 さっと生徒が手を挙げた。「難しくてよくわかりませんでした」

「ああもう! 要するにわかんないから『バールのようなもの』って報道してるの! (※2)ええい、これでどうだい!」


 ハアハアと私は息切れを起こす。


「そ、そんなことより、何これ? ここどこ? あなた、どうやってここに来たか覚えてる?」

「わかりませんよ。気付いたらここにいました」

 またもやくい、とメガネを上げる。

「ひょっとして、先生もわからないんですか? 先生なのに? 知らないんですか? うわー」

「……」こいつムカつくわー。


 真っ白でドアと壁の境がよく分からないけど、ドアノブはある。

 しかし、ひねってもドアは開かなかった。

 ここにバールのようなものがあったら、こじ開けられたかもしれないけど……。いかんいかん、こんな時にバールのようなもの持ってたら生徒にあらぬ疑いをかけられる。


 そしてゲーム機のような画面に書かれた文章……。これは……。


「〇〇しないと出られない部屋ッ……!?」


 なんてこった。

 仮にも生徒ととんでもない部屋に閉じ込められてしまった。


 え、あれ、派生はいっぱいあるけど本家はセッ……よね? 私推しにさせてたもん!! ベッドとトイレと風呂と冷蔵庫セットで閉じ込めさせていた!!

 その因果応報がここで来たっていうの? なんてことっ……!


「先生? どうしたんですか?」

「ばっちゃが言ってたの……。『(※3)鬼も悪魔も、人にはなれない。けれど人の心は、鬼にも悪魔にもなれるんだよ。』って……!」

「はあ?」


 カップリングを作る業が、今自分に降りかかったとき、ようやく私は自分の罪深さに気付く。

 ここは大人しく罪を受け入れ、罰を受けるか? ……否。


「こんなところで一生を終えられないッ……!」


 DOOTHで頼んだ推しカプの新刊が家で待ってるんだよ!!

 推しカプが幸せになるのを見届けないと死ぬに死にきれない!

 あと受けいれるのは受の役割だしね!


「とりあえず、この画面タッチしないと駄目なんじゃないですか?」


 私が決意をかためたそばで、生徒はとっととスタートボタンを押した。

 ティティーンという効果音とともに、第1問が映し出される。



『問題:



 (※4)有明海はだれのもの?』


「知るかよッッッッッ!!!!!!」


 私は機械を殴った。痛い。


「知らねーよ人間が勝手に言ってるだけで誰のもんでもねーんじゃねーの!?」

「すみません。その辺はデリケートな問題ですし、運営のガイドラインに触れそうなんで別の問題でお願いします。これギャグだし」

「運営のガイドラインって何!?」


ピロン

『では改めて。

 有明海に接する県はどこ?』

「福岡佐賀長崎熊本」

ピンポーン


 何故か生徒が答えてた。



『問題:


 次の企業の内、佐賀県出身の創立者は誰か。


 1グ〇コ

 2森〇製菓

 3久〇製薬』

「伏字ぃ! ピー音うるせぇぇぇぇ!」発禁の修正じゃあるめぇし!

「全部」ピンポーン


 なんで生徒はわかるんだ。てかえ? 全部佐賀なの? うっそ。


『問題:


 全国で、海苔の生産地一位はどこ?』

「佐賀」ピンポーン


「なんだこの謎の佐賀推しはッ!?」


 そしてどうして答えられるんだ生徒はッ!?

 そう思い、生徒の手元を見てみると……。


「……ねぇ、それ、何?」

「え? ……スマホですけど?」


 見て分かりませんか? と生徒。


「……ネット、通じてんのここ?」

「ええ。その通りですけど」


 カンニングし放題かよ。

 教師の前でよくやるわ。いや、今非常事態だからいいけど。


「……先生、大変です」

「何? 架空請求でもされた?」

「いえ、これを見てください。


 (※5)『佐賀が首都になる』がすごい勢いでリツイートされてます」


「なんでさッッッッッ!!!!?」


 慌ててスマホを見ると、確かに『佐賀が首都になる』というツイートがずらり。


「Ahooooo! では、ニュース記事にも『佐賀が首都になる』というタイトルが」

「私らが閉じ込められている間に何があった!?」


 一生行かなそうな都道府県堂々の一位だったはずだぞ!?



「いやー、夏だから皆頭バカになってるんですかね」

「頭がおかしくなるのは春でしょ……」


 とは言えこの炎天下、皆おかしくなってもおかしくはない。おかしくなるのはおかしくないって、なんか日本語が迷子だな。







 こうして、謎の佐賀推しのクイズは生徒のカンニングにより事なきを得て。

 光がパァと輝いたと思うと、ドアノブしか見当たらなかったところに、茶色のドアが現れた。

 私は、そのドアノブを慎重に開ける。


 あまりに眩い光が差し込んで、思わず目を閉じる。

 再び目を開けた時には……。



「空……」


 嫌になるほど、見慣れた入道雲と青空。

 気がつくと、私たちは自分たちが住む町にいた。

 ちゃんとそばには、生徒もいる。

 あの部屋のドアは、後ろを見渡してもどこにもなかった。



「……なんか、変な部屋でしたね」

「ほんとね……」


 生徒もしっかり記憶があるらしい。ということは、白昼夢ではないんだろう。

 ああ、でも良かった。私は心から安堵した。



 よく考えたら私実家暮らしだから、薄い本をクローゼットに山積みにしてるのよね……。

 行方不明になって警察が捜査に踏み込みでもしたら、死ぬ羽目になってた。社会的にも精神的にも。



「……夏休みも終わるというのに、変なことに巻き込まれちゃったわね。お互い」

「はい」

「明後日には二学期ね。学校で会いましょう」


 そう言って、私は生徒と別れようとして。

「先生」生徒は、ニッコリと笑った。







「(※6)『私達の夏は終わらない』……ですよ」


「あなた宿題終わってないわね!!!!?」


                 終




※1……祟さま「なぜ犯罪者は常にバールのようなものでこじ開けるのですか?」

※2……アメリッシュさま「ええい、これでどうだい」

※3……ぎざ様「鬼も悪魔も、人にはなれない。けれど人の心は、鬼にも悪魔にもなれるんだよ。」

※4……郭隗の馬の骨さま「有明海はだれのもの?」

※5……無月兄さま『佐賀が首都になる』

※6……無月弟さま『私達の夏は終わらない』


お付き合いしてくださったフォロワーさま、ありがとうございました!

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