浮き立つしののめの夏
雛倉弥生
第1話新しい出会い
春、桜が散った5月。海堂焏は教室の机で
うつ伏せになりながらイヤホンを耳に付け、
音楽を聞いていた。焏は教師の話を聞いていない。
聞く必要もないからだ。彼は無気力で無表情
だった。瞳には何の光も写してはいない。
何を言っても届かないから、誰も何も言わない。
言えないのだ。すると、焏の隣の席の生徒が
声をかけてきた。「おい、海堂」少し長い金の髪を
揺らした。焏は光の灯っていない瞳を彼に
向けた。「…」「喋ってからねぇのかよ。まあ、
良いや。一緒に部活見学行かないか?」
焏が目を瞬きもせず、何も言うことはなかった。
___…金の髪の生徒は麻美弥桂といった。
クラスの中でも明るく人気のある部類に入る
生徒だった。もちろん、焏はそのようなことには
興味の欠片もない。「俺さ、気になってた部活
あんだよねぇ。ほら、高校見学の時にやってた
書道部!お前もそうだろ?」一方的に話しかけて
くる桂を気にせずに歩き続ける。と、いうか
焏は高校見学には来ていない。来られなかった。
誰にも言うことはないが。数分、歩くとある
部屋へ二人は着いた。「よし、ここだ。入るぞ」
手を引かれ、中へ入るとそこにいたのは文字を
墨で半紙に文字を書いている生徒、他の見学者に
説明している者もいた。「あら、見に来てくれた
の?」女生徒が焏達に声をかける。
「あ、はい。楽しそうですね」上品な敬語を
桂はすらすらと喋る。「楽しいけど、大変よ?
出演依頼されたら、遠くの場所まで行かなくちゃ
いけないし、ダンスも踊るのよ」書道部へ入ると
言うことは相当な覚悟が必要なようだ。
「そうですか…」「ええ。運動部のように、
そこまで体を動かす辛い練習等は無いわ。けど、
集中力や、日頃の生活、勉強もしっかりさせる
必要もある。この部活は周りからの評価で
やっていくから。だから、書道部は周りの人達の
良い評価を受けて続けていけてるの。」
生活の面もよくしてかなくてはならない。
女生徒は笑みを浮かべながら二人をある写真の
方へ案内した。「これが今までの大会に出た
記録よ」そこには大きい紙に太い筆で文字を
書く姿や、おそらく部活の生徒ら全員で記念
撮影をしている姿などが写っていた。
「これは去年、県の大会で審査員特別賞を
貰った時よ。」一つ、一つ説明をしてくれた。
「これで大体は分かった?後は部に入れたら
話してあげるわ」そこでチャイムがなり、
二人は教室へと戻った。
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