第35話 美味い肉には甘いカップルを

「肉美味い! これぞバーべーキュー!」


 わが妹である加奈が骨付き肉に食らいつく。

 美少女ながらなかなかにファンキーで、ワイルドだ。


「ほんとだ結構美味しい。これはすぐお腹いっぱいになっちゃいそう」


 そう言いながら腹を擦る朝日。

 ……ほんとにすぐ満腹になりそうだな。もう少し太れよ。

 少し心配するほど、ウェストが細かった。

 

 だが、


「私はまだまだいけるぜ!」


「私もまだいける。朝抜いておいてよかった」


 花と三ツ谷はこの通り余裕そうだ。

 二人とも日頃から消費エネルギーがすごいから。特に花は、日常でも部活でも消費エネルギーがすごそう。

 

「私もいける!」


 加奈は……なぜかよく食う。たぶん俺より食べると思う。

 実際、もうすでに俺の食べる手は止まってるし。


「瑞希もっと食べる食べる。そんなんだから体がやせっちいんだぞ? 食え食え!」


「も、もう僕は十分に食べたよ。あとはみんなで食べ――」


「はいはい肉肉~。黙って食べる~」


 有無を言わせずに、弁天の皿に肉を盛っていく花。

 弁天が物凄く顔をしかめて、盛られていく皿を見ていた。


 ドンマイ弁天。お前はもっと食え。


 ほんと他人事のようにそう思いながら、ジュースを一口飲んだ。


「えいちゃんは、もう食べないの?」


「もう無理だ。これ以上食べたら腹がはち切れる」


「えぇ~えいちゃんももっと食べた方がいいと思うけどなぁ」


「俺はもうパーフェクトボディーなんだよ」


 俺がそう言うと、「えぇ~ほんとに~?」と言いたげな表情をみくるが向けてきた。

 ……ほんの少しだけ、脚色したかも。


「まぁ、私は今のえいちゃんでもい、いいと思うけど……ね?」


 頬に加えて耳までも真っ赤に染めてそう言うみくる。

 俺はそんなみくるを直視することができず、誤魔化すようにジュースを口に含んだ。


 なんだよみくる、お前可愛すぎんだろぉぉぉぉぉ‼


 思わずそう叫びたくなった。


「でも、健康第一だからね! まぁそこはこの先も私が管理していく予定だから、大丈夫だとは思うけど……」


「ん? この先も?」


「うん、この先も」


「ほぉー、じゃあよろしく頼むわ」


「うん! 任せて! んふふ」


 ご機嫌な様子のみくる。

 そんなみくるの姿を見ていたら、「この先って……結婚する予定?」というツッコみは野暮な気がしてきた。


 それに俺たちの関係はなんだかんだでこの先も続いていきそうな気がするから、だからいいのだ。


「暑いねぇ」


「だなぁ」


 額に一筋の汗が伝わる。

 俺はそれを拭って、美味しそうに肉を頬張る妹軍団と弁天(こいつは苦しそう)の姿を見た。


「青春だなぁ全く」


 かくいう俺も、傍から見れば青春しているのだと、この時の俺は気づかなかった。




   ***




「おいおいまたお兄ちゃんみくるさんといちゃついてるよ」


「あれはもう癖みたいなもんだからね。私たちには止められないよ」


「でも……こうも間近でいちゃつかれると、こっちまで恥ずかしくなってくるよね」


「確かに……」


 お肉を食べながらも、こんな時でもラブコメしてる二人に視線を向ける私たち妹軍団。

 正直言って、あの二人の姿を見ているから食欲が増していると言っても過言ではないだろう。


 それに、心なしかいつもよりお肉が美味しい♡


「ほんと何なんだろうね、あの熟年夫婦感」


「実際熟年夫婦でしょ」


「確かに」


 そんな会話をしていると、二人が恥ずかしそうにそっぽを向いた。

 その一部始終を見ていた私たちは、一様にこう思っただろう。


「「「(お肉うまっ!)」」」


 バーベキューには甘々なカップルがいると、なおお肉がうまいということが証明された瞬間だった。

 まぁ、ほんのりお肉が甘くなるけどね。

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