第34話 バーベキュー大会


「――チキチキ、バーベキュー大会~!」


「「「イェーイ!」」」


 夏休み初日の昼前。

 現在俺の家の庭にて、バーベキューが行われようとしていた。

 ……夏休みの初日からアクティブすぎる。


「ほんとどこが大会なんだよ」


「えいちゃん細かいよ? こういうのはとにかく楽しまなくっちゃ」


 ジンジャーエールが注がれたコップをみくるから受け取る。

 もうどうでもいいや。


 細かいことは気にせずに、とにかく楽しむことにしよう。


「お兄ちゃんこのお肉どんどん焼いちゃっていい?」


「いいぞ、たくさん買ったからどんどん食ってくれ」


「さっすが、私の英二お兄ちゃん♡」


「お兄さんありがとうございます」


「英二さんいつもすみません」


「お兄ちゃんサンキュー」


 そして、相変わらずこの妹軍団もいた。

 というか、ぶっちゃけこの四人がバーベキューの主催者である。


 どうやらこのバーベキューは、



『なんか夏らしいことを夏休み初日にやって、気分上げたいよねぇ~』


『スタートダッシュが大事!』


『そうだけど……夏らしいことって何?』


『私もわかんない』


『う~ん……バーベキュー?』


『それだ! 美味しいもの食べたい!』


『じゃあ私の家で、お兄ちゃんに準備してもらおう!』


『それだ!』



 といういかにも軽い理由で開催が決まったらしい。

 ……勝手に人の夏休み初日の予定埋めるんじゃねーよ。予定あったらどうすんだよ。


 いや、ないんだけどさ。


 それと――


「師匠、僕が肉を焼きましょうか? 実は昨夜徹夜で勉強しまして」


「焼いてくれるならありがたいんだけど……お前大丈夫? 目の下のクマヤバいけど」


「大丈夫です! ばっちこいです!」


「不安でしかない……」


 けど昨夜必死に勉強したというなら、その努力を認めてやらせてあげるべきだろう。

 師匠と言われるのは嫌だが、先輩として後輩の成長を見守ってやろう。


「まっ、いいだろう。その代わり、なんかあったらすぐに俺を呼んでくれ」


「何もなくても呼ばせていただきます! 師匠!」


「何もないなら呼ぶな! 彼女か!」


 俺のツッコみをほくほく顔でスルーして、肉を焼き始める弁天。

 実はこいつもこのバーベキューに参加していた。


 どんだけ大所帯でバーベキューをやってんだか。


 俺とみくるは椅子に座って、キラキラと輝く高校一年生たちの姿を見ていた。

 もう年老いた気分である。


「なんかいいね、大勢で」


「後片付けが大変そうだ」


「大丈夫すぐ終わるって。私が手伝ってあげるから」


「……お前ってほんとにいい奴だな」


「今更だなぁ」


 一年しか長く生きていないのに、なんでこんなにも俺たちの時間の流れ方はゆっくりなんだろう。

 いや、別にいいんだけどさ。なんというか……正直年老いていないか心配。


「でも、なんだかんだ言ってえいちゃん、楽しそうだよ?」


「そうか?」


「うん。いつもより目がほんの少しだけ笑ってる」


「それはもはやサ〇ゼの間違い探しの域ではなかろうか……」


 幼馴染にしか分からないという激ムズ条件付きなので、たぶん分かる人はみくるしかいないだろう。

 

 右手にあるジンジャーエールを少し口に含んだ。

 夏休みのようにパチパチと口の中で炭酸が弾けて、すぐにそれも消えてなくなってしまう。


 そんなことに寂しさを感じながらも、夏を迎えたばかりの空を二人して見上げた。


「のどかだなぁ」


「のどかだねぇ」


 夏休みはぬるっと始まった。

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