第17話 私たちにそれはまだ早い
体育祭が終わった後。
私たち四人衆はいつも通りお兄ちゃんの部屋で打ち上げをしていた。
いつも私たちが散らかしてお兄ちゃんに部屋を返してあげてるのに、次の日には何事もなかったかのように綺麗になってるもんだから、もう荒らしがいがない。
あと、いつも「なんで俺の部屋使うんだよ~」って愚痴ってるけど、なんだかんだ言ってウェルカムじゃないの? と思う。
ほら、お兄ちゃんそういうの不器用だから。
ひとまずそんなことは置いといて、今は祝杯をあげよう。
「体育祭お疲れってことでぇ~……乾杯!」
「「「かんぱーい!」」」
今日も私は変わらずジョッキ。
やっぱりこれじゃないと女子会始まった感じにならないんだよね。
「いやぁ楽しかったねぇ体育祭」
「だねー。ってか海、今度は女子にモテ始めたんだって?」
「ちょ花! それは秘密だって」
「海さんそれはどういうことかなぁ?」
いつも大人しい朝日が珍しくテンションが高い。
……あっ、この子炭酸で酔う子だったわ。
「いや、そのー……かっこよかったって、リレーの後言われて……」
「むぅー羨ましいぞ海~! 私も可愛い女の子にモテたいのにっ!」
可愛い女の子だらけの世界とか最高じゃない?
私はそんな世界を生きたい!
女の子にモテまくる海に少しむっとして、海の大きな胸を掴む。
……私も炭酸で酔う子なのかもしれない。
「ひゃん! ちょ、ちょっと加奈⁈ や、やめてぇ……」
「イケメン女子のくせしてこの胸はなんだぁー! ずるいぞずるいぞ~!」
「ほんとにそうだよっ! 少しくらい私に分けてくれもいいじゃないか!」
「花……あなたはそのままでいいのよ。むしろそのままでいて」
「えぇ加奈どういうこと⁈ ひどくない⁈」
だって花は色々とちっちゃいから可愛いんじゃん。
でもこれ以上言ってしまえば拗ねてしまいそうなので、これ以上は何も言わないでおく。
きっと拗ねた姿も可愛いと思うけど。
しばらくの間、酔っぱらったみたいなテンションで、中身のない会話ばかりをした。
そして導かれるように、例のラブコメカップルの話へ——
「そういえば、今日も相変わらずの熟年夫婦っぷりだったねぇあの二人」
「えっ⁈」
いつも通り私がそう話を振ると、海がなぜか驚いたように声を上げた。
皆一様にして、海に視線を向ける。
「どうしたの? 急に」
「い、いやぁ……その……ね?」
「ほんとどうしたの海」
「いやさ、実は私……見ちゃったんだよね」
「……何オカルトとかそっち系?」
「いやっ! 私そういうの無理だから!」
目を両手で隠して守備モードになる花。
肝心の耳が隠れていないので、私がそっと耳を塞いであげる。
「そういう話じゃないよ! その……英二さんとみくる先輩の話で」
「あぁーそっちか」
「そっちね」
「そっちかー」
「普通話の流れでそうでしょ」
海がツッコみに回るなんて珍しい。
でも今の私たちのボケの連携は最高だったといっていい。
我満足なり。
変なボケをした私たちにため息をついた海は、仕切り直して続けた。
「実は私……英二さんとみくる先輩がそのぉ……き、き」
「き?」
「き、き……」
恥ずかしいのか頬を真っ赤に染める海。
私たちは温かい目で、海が言い出すのを待った。
「き、キスしてるところ、見ちゃったの!」
「「「ほへ?」」」
唐突の爆弾発言に、私たちは完全に意表を突かれてしまった。
少しの間沈黙が流れ、ぽつりぽつりと言葉が漏れ出す。
「マジ?」
「ほ、ほんとに?」
「ま?」
「ほ、ほんとに見たの……」
……マジカヨ。
多分海以外の全員の脳内にこの言葉が浮かんだと思う。それもちゃんとカタカナで。
それにしても、全然想像がつかない。
いつの間に二人はそんな関係に……?
いや、きっとなってたら私に言うだろうし……えっじゃあなんでキスしたの?
もうわけがわからなくなってきた。
「全く状況が読めないんだけど……」
花のその言葉に、海は自分が見た経緯とその時の状況を事細かく私たちに話した。
それもあってか私たちはようやく「あの二人がキスをした」ということについて理解することができ、混乱と歓喜が混ざった、微妙な空気になった。
「いやぁどうりで体育祭から帰ってきた後、お兄ちゃん変だなと思ってたんだよね。なぜか庭の草むしりしてたし」
「「「確かに変だ」」」
それほどにみくちゃんとキスしたことが響いているのだろう。
ってことはやっぱり……お兄ちゃんはみくちゃんのことを異性として意識してるんだな。
わずかにもラブコメの進展が見えた気がする。
「で、やっぱりその後どうなったかだよね」
「私的には、もうそういう関係になったんじゃないかなと思ったんだけど……」
「いや、あの二人だったら、恋人になったら私に絶対報告するはず。だからきっと……」
「付き合ってないけど、しちゃったと」
「そういうことだね」
……なんだこのラブコメ。
私のお兄ちゃんとみくちゃんの恋はあまりにもフィクション過ぎるんですけど。
もはやこの場でため息をついていない人などいなかった。
「でもきっとあの二人のフィクションっぷりを想像するなら……」
「「「まだ何もない」」」
やはり満場一致でそうなった。
私的にも、あの様子じゃあ絶対に何もなかったんだと思う。
多分あの二人の距離感じゃ、キスくらいじゃ恋人にならないだろう。
……ほんと特殊な恋愛すぎる。
「じゃあ何すればお互いの関係性が揺らぐんだろう。こう……幼馴染を超えて恋人として……さ」
「うーん、キスのさらに上?」
「上……」
キスの上……
……
「……」
「……」
「……」
「……」
付き合ってもないのに、上。
「「「……!!!!!」」」」
想像して、四人して顔を隠して赤面した。
結局それ以降、特に話はまとまらず、「とりあえず見守っておこう」という結論に至った。
***
「(あぁー)」
無心で草をむしって二時間。
未だなお、キスの感覚は消えない。
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