深海を覆う程のアイを叫ぼう
楠木黒猫きな粉
思いつきの街中で
落ちる瞬間の景色は綺麗だった。飛び降りというよりかは転落自殺と言った方が正しいだろう。
どうして自殺したと問われるのだとしたら私の答えは一つ程度しか無い。
実につまらない日常を嫌った。私のあり方を理解したのは小学校低学年の頃。その時から私は周囲とは感じている時間の差を感じていた。簡単に言うならば夢がなかった。明日の事を覚えていなかった。私が必死に今を生きている時に周りの子供達は遊びの『予定』を語り緩やかな時を生きていた。私はやりたい事を一瞬で消化している。それなのにみんなはありふれた事を長くやっていた。
その時だった私が速くなったのは。文字通り私の時間だけ加速したのだ。体が思考を追い抜いて動き回る。そうして私は私が今でしか生きられない事を理解した。
加速した私の世界は酷くぼやけていて見るに耐えない。人を置いて未来を追い抜いて私は全てを今にしていった。手で触れたものは過去にしかならず私は存在を消していく。飽きた時間は加速し続けた。思考を抜いて加速する体はどこまで腐っていく。子供のままに大人になっていく。存在できない恐怖はぼやけた世界の法を犯させる。飽くことが怖い。まだやめてしまいたくない。心の底で募る願いはさらに飽きを加速させる。
目まぐるしく回る舞台で私は綺麗に壊れていった。人であることに飽きないように丁寧に繊細に積み上げる。ありふれた日常の隙間の猟奇のような狂気のような快楽に溺れていく。飽きる飽きる飽きていく。法を犯す快楽も人にすがる快楽も何者にも変えられないはずなのに全てが置き換わる。目まぐるしく舞台が変わる。私を見る目が変わる。私の居場所が変わる。私の宝物が変わる。私の愛が変わる。
選ぶ意思があるようで何もないことに気づくのに時間は掛からなかった。そうして私の愛が私を包む頃には座る席なんてありもしなかった。当たり前だ。私の居場所がそこなのだから。
平凡であれないし特別でもなかった私はやっと今に飽きてくれた。未来が見えない。過去がわからない。そして今が崩れていく。
そうして吐きそうなほどの曇天があいを叫ぶ。
落ちる。
当然の落下だった。空なんて飛ばないのだから。
落ちる
綺麗なほどの自己満足だ。何せ私の愛はそこにある。
落ちる。
ありふれた回想が走馬灯の皮を被って現れる。望まれた帰結だろう。
落ちる。
私の世界が開いていく。イマという底で藍を待つ。
向かう。
ただそこに飽くことがないように。
深海を覆う程のアイを叫ぼう 楠木黒猫きな粉 @sepuroeleven
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