第2話 キャンプスキル覚醒!


 辺境の地「ドルヴァエゴ」に追放処分となったウェイン。


 彼は今、その辺境の地を目指している荷馬車の上にいた。


「へえ、旦那は『キャンプ』っていうスキルを授かったんですかい?」

「ああ、まったく聞いた事のない、正体不明のスキルだけどな」


 ウェインは、荷馬車の御者を務めている男と色々世間話をしていた。


 御者の男の名はキース。

 彼は服役中の囚人で、ウェインをドルヴァエゴの地まで運べば釈放するという条件付きで、帝国から依頼をされて荷馬車の御者を務めていた。



「旦那、この辺りは空気もうまいし、休憩にしますかい?」

「ああ、そうだな。確かに緑が多くていい感じだな」


 荷馬車から降りて、2人は少しの間寛いだ。


 しばらくすると、キースが何気なくウェインに話しかけて来た。


「旦那、そういやその『キャンプ』ってスキルは、何が出来るんですかい?」

「いや、まだ試した事はないぞ。どうせ外れスキルだろうからな」

「案外、仕えるスキルかもしれませんぜ?」

「あやしいな。……でもまあ、試してみるか」



 ウェインはキースに勧められて、『キャンプ』のスキルを発動させる。


「……スキル発動!」


 ウェインがそう言うと、どこからともなく不思議な声が聞こえて来た。




《今仕えるスキルは2つです。》


 ① 火を起こす 

 ② 野生の動物を呼ぶ



《どちらのスキルを発動しますか?》




「……何だそれ? 本当にキャンプっぽいスキルだな。……やっぱり外れスキルか?」


 ウェインは大きなため息をついた。


「うーん、今火を起こしても仕方ないし、動物でも呼んでみるか」



 ウェインは試しに、野生動物を呼んでみる事にした。



《了解しました。それでは、野生動物を呼びます。野生動物は(小)(中)(大)とありますが、どれにしますか?》



「色々あるんだな。じゃあとりあえず(小)にしてくれ」



《了解しました。それでは、野生動物(小)を呼びます。》




 すると突然、ウェインの前に、可愛らしいネコラビという小動物が3匹姿を現した。



「「……キュ~、キュ~!」」


 ネコラビは愛くるしい泣き方で、ウェインの目をじっと見ている。


「か、可愛いじゃないか~」

「もしかして旦那のスキルで、こいつらを出したんですかい?」

「まあな。外れスキルだけど、何か癒されていいかもな」

「モフモフですぜ、旦那~」


 2人はネコラビを抱っこして可愛がった。

 

 ウェインはネコラビを抱っこしながら撫でていると、荒んだ心が少しだけ癒された気がした。



――――その時だった。


 ウェインとキースの前に、突然4人組みの山賊らしい風貌の男達が現れた。

 男達はなぜか、腹を抑えて笑っている。


「ぶわははははーっ! 随分と可愛いスキルだなぁ、元ヴラントの領主さんよ!」

「銃も使えない、スキルは役立たず、本当に無能の領主だな!」


 山賊の男達は、剣や槍を武装している者もいる。

 


「何だお前ら? 追いはぎか?」

「くくく。その通りだよ領主さん! 大人しく金目の物置いていきなっ!」


 ウェインはすぐに抜刀して、戦闘に備えた。


「おっと、時代遅れの剣術は無意味だぜ?」


 山賊のリーダーらしき男が、懐から小型銃を取り出してウェインの方へ銃口を向けた。



「旦那っ! こいつらはたちの悪さで有名な山賊だ! 金目の物を渡しちまった方がいいですぜ!」

「くそっ、どいつもこいつも近代化か!」


 山賊のリーダーが、少しづつウェインの方へ歩み寄る。


「さあ、どうするんだ領主さんよ!? お前さんをぶっ殺して金目の物を奪ったっていいんだぜ!?」


 ウェインは悔しさで身が震えた。




――――とその時、またしても不思議な声がウェインの頭の中で聞こえたのだ。


《野生動物(大)を呼びますか?》



「……野生動物だと!? もしかして熊とかか!? ……よし、すぐに呼んでくれっ!!」


 ウェインが不思議な声に返答するが、辺りから熊のような獣が出てくる様子がない。



「何を1人でゴチャゴチャ言ってやがるんだっ!? さっさと金目の物を出しやがれ!!」


 山賊のリーダーはウェインを追い込もうとするが、ウェインの後方で身をガタガタと震わせているキースに気が付いた。


 キースは体を震えさせながら、上空を見上げて指を指している。

 そして、すぐに彼の体は大きな影で覆われた。


「……あん?」


 山賊のリーダーは、キースが指を指している上空を見上げた。

 それに釣られて、他の山賊達も後方の空を見る。


「……う、う、う、うわああぁぁああーっ!!」

「ば、ば、化物だああぁぁああーっ!!」


 何と上空には、体長10メートル以上はありそうな巨大な魔獣が羽ばたいていたのだ!


「あ、あ、あいつは、……グ、グリフォンだああぁぁああー!!」



 顔と翼は大鷲、下半身はライオンという、おぞましい巨大魔獣グリフォン。


 その魔獣が、獰猛かつ鋭い目付きで山賊達を睨んで急降下して来た。


「た、た、助けてくれええぇぇええーっ!!」

「ひ、ひいいぃぃいいーっ!!」


 山賊達は必死で逃げるが、グリフォンは巨大な前足で彼ら全員を捕まえる。


「い、嫌だっ! 食べないでくれええぇぇええーっ!」

「助けて、助けてええぇぇええーっ!!」

「し、死にたくない、死にたくないよおおぉぉおおーっ!!」



 命乞いする山賊などお構いなしに、魔獣グリフォンは巨大な翼を羽ばたかせ、上空にどんどん上昇していく。そして、その姿は次第に小さくなっていった。


「あ、行っちゃった」

「行っちゃいましたね……」


 ポカンとする2人。


「……すげえな。あれが野生動物(大)か!」

「ま、まさか、また旦那のスキルでアレを呼んだんですかいっ!?」

「みたいだな。あんまり野生動物って感じじゃなかったけどな」



 上空の遙か彼方に飛んでいくグリフォン。

 その姿をウェインとキースは、いつまでも呆然と見ていた。


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