外れスキル「キャンプ」を授かり追放された領主は、辺境の村でどんな魔獣も素手で仕留める最強のキャンパーに覚醒し、なぜか伝説の名君と呼ばれるようになりました!

コマ凛太郎

第1話 悪徳領主、追放される


 俺の名は、ウェイン・ルーク・シュナイダー。


 平民の出ながら戦で成り上がって、帝国の一領土を治める領主までに上り詰めた男だ。


 がしかし……!

 俺は目の前の帝国の宰相から、信じられない事を言い渡された。


「シュナイダー卿、そなたは明日より、辺境の地ドルヴァエゴの領主に任命する」

「は……!?」


 俺は宰相の言葉に耳を疑った。



「何度も言わせるなシュナイダー卿、今からすぐに荷物をまとめて辺境の地へと旅立つのだ」

「さ、宰相殿、一体どういう事ですか!? なぜ私が辺境の地の領主に!?」

「……それは、言わなくとも分かるであろう?」

「ま、まさか神殿より与えられた、私のスキルが原因でしょうか!?」



 そう、俺の様に帝国の領主になった者には、この大陸の至高神を祀る大神殿により「スキル」が与えられるのだ。


 スキルには様々な種類があり、その殆どが「戦闘」か「統治」に関連する物だ。


 帝国の皇帝は「覇王」というスキル。

 名のある領主や将校には「賢帝」「剣聖」などというスキルが与えられている。



「無論、原因の1つはお主のスキルだよ、シュナイダー興」

「や、やはり……」

「お主の授かったスキルの名は何だ?」

「……キャ、キャンプです」


 宰相は俺の言葉に笑いを堪えられず、「プッ」と噴出してしまった。


 そしてそれに釣られる様に、周りにいた家臣や使用人達もクスクスと笑い出した。



 そう、俺が大神殿より与えられたスキルは『キャンプ』だ。

 帝国の長い歴史でも、全く聞いた事のないスキルだった。

 残念だが、おそらく「外れスキル」なのだろう。



「シュナイダー卿、スキルとはその人間に1番適合した物が、天より与えられるのだ」

「た、確かにそうですが……」

「お主は領主の適正ではなかった、という事だよ。」

「そ、そんな……!!」


 宰相はため息を一つ付いてから、再び口を開いた。


「さらには、お主は領民に『悪徳領主』と呼ばれているそうじゃないか、そんな男に重要な領地を任せられんよ」

「た、確かに、私は領民にそう呼ばれています! ですが……」

「それにだ、そなたの時代遅れの政治能力では、今の近代化の波には対処出来ないであろうが」



 近代化の波。

 そう、確かにここ近年は機械化が進み、どんどん人々の暮らしは便利になった。


 街には蒸気機関車が走り、様々な工場にも機械が取り入れられて、効率化が加速している。


 おまけに「銃」という剣や槍を遥かに凌ぐ武器も開発されたのだ。


 悔しいが、剣1つで成り上がって来た俺は、その近代化の波に上手く対応出来ていないのは間違いなかった。



「しかし宰相殿、私が治めるヴラント領を、このまま無責任に放置するわけには……!?」

「何の心配もいらぬよ。ヴラントは君の腹心の家臣ギルトン君に任せるからな」



 俺は振り返って、自分の斜め後方で平服している家臣のギルトンを見た。


 するとギルトンは顔を上げて、含みのある笑みを浮かべた。


「ウェイン様、ヴラント領の事は全て私に任せて、安心して辺境の地ドルヴァエゴに赴きください」

「ギルトン、き、貴様、一体どういう事だ!?」


 ギルトンは俺を鼻で笑った後、再び話し出した。


「ウェイン様、もうあなたのやり方では、領民は付いて来ませんよ。もう剣を振り回して、どうにかなる時代ではないのですから」

「……な、何だと!」

「それに、その『キャンプ』という訳の分からないスキルでは、領主は務まらないと思いますがね」


 ギルトンは下を向いて、笑いを堪えている。



 俺は信じていた家臣のギルトンに、まんまと裏切られたのだ。


 どう考えても、ギルトンと帝国の宰相が裏で繋がっているのは間違いない。


 両者が近代化を推し進めたいのは勿論だが、おそらくギルトンから多額の賄賂が宰相に渡っているのだろう。

 

 帝国の政(まつりごと)のトップに君臨する男の不正を正すのは、ほぼ不可能だ。


 それに、俺が領民の信頼を失っているのは、紛れも無い事実なのだ。


 俺はどうにもならない悔しさで、打ち震えた。




♨♨♨




 帝国に辺境の地への派遣―――いや、辺境の地に「追放」を言い渡された俺は、自分の邸宅に帰りすぐにメイド達に荷物をまとめさせた。


 正妻のアデルや腹心の家臣達、そして邸宅に仕える執事やメイド達にも、事の成り行きを全て話した。


 だが、おそらく辺境の地へ一緒に行きたがる人間は、かなり少ないだろう。


 それにしても急な話で、まだ現実を受け入れられない自分がいる。




 翌朝。

 邸宅の正門前に待機していた馬車に俺は驚いた。


 なんと、我がシュナイダー家の家紋が入ったいつもの馬車ではなく、家畜を運搬する荷馬車が用意されていたのだ。



「いやぁ、申し訳ありませんウェイン様。シュナイダー家の馬車はこれから私が使わて頂きますので、この荷馬車で辺境の地へ向かって下さいませ」


 ギルトンから、信じられない言葉が発せられた。


「ギルトン、貴様っ! どこまで俺をバカにすれば気が済むんだ! 俺はずっとお前の事を信じて、全て任せて来たんだぞっ!」

「全て任せる? ご冗談を。剣しか振るう事しか出来ない貴方が、政治全般を私に丸投げしたのでしょう?」

「何だと……!?」

「領主という重要な役職は、平民上がりの貴方には所詮無理だったのですよ」

「貴様! 言わせておけば……!」


 俺が懐の剣を抜刀すると、ギルトンの前には武装した騎士団がずらりと姿を現した。


「ウェイン様、……いや、悪徳領主ウェイン、ギルトン様に手を出すならこの場で斬りふせるぞ!」


 何と、戦場で俺の右腕を務めた騎士団長ボルトが、俺に剣を向けて来たのだ。


「ボ、ボルトまで、俺に敵対すると言うのか……!?」

「さあ、早く荷馬車に乗りなさい。貴方ではこの国に未来は無いのだから」



 俺はしばらく呆然としたが、ボルトに促されるまま仕方なく荷馬車に乗り込んだ。

 ボルトの背後では、ギルトンが狡猾そうな笑みを浮かべている。


 そして驚いた事に、何と彼の傍らには俺の正室であるアデルまでもが、笑みを浮かべて立っていたのだ!


「ま、まさか、あの2人が結託して……!?」


 俺はショックで何も考えられなくなった。


 俺は領地を良くしようと、必死で頑張って来た。

 帝国に敵対する隣国の侵攻を、何度も命をかけて退けて来た。


 なのに、どうしてこんな事になってしまったのだろう。


 俺は信じていた伴侶や腹心の家臣を、全て失ってしまったのだ。



「辺境の地へ赴くのが、まさか俺1人とは……」



 追放。

 まさにその一言だった。


 

 荷馬車が正門を出ると、待っていたのは怒り狂った領民達だった。

 この時を待っていたと言わんばかりに、大量の石ころが俺の乗った荷馬車に投げ付けられる。


 だが、黙ってやられるほど、俺はお人好しじゃない。


 俺は素早く抜刀すると、ほぼ全ての石ころを剣で弾いた。

 俺の人間離れした剣技に、領民は少しの間黙り込む。



「……くそっ! この悪徳領主めっ! 俺達を散々苦しめやがって!」

「そうだそうだっ!! 85%の税なんて、お前は悪魔かっ!!」

「ドルヴァエゴの猛獣に食われて死にやがれっ!」



 俺は領民の言葉に絶句した。


「85%の税だと!? 俺はギルトンに45%の税率にしろと伝えたはずだ!!」

 

 俺は再びギルトンを見た。

 ギルトンは爬虫類を思わせるような顔付きで、歪んだ笑みを浮かべている。


「あの野郎~、やりやがったな!」


 俺は悔しさで発狂しそうになったが、今ここで暴れても何の解決にもならない。


 俺はゆっくりと深呼吸を繰り返した。

 そして抜刀したままの剣を、ゆっくりと鞘に戻す。


「ふ、まあいいさ。元々俺は剣1本で0から生り上がったんだ。また0から成り上がるだけだ」


 お気楽で、切り替えが早いのが俺の長所だ。

 まあ、あの2人に対する「復讐」は絶対忘れないが。



 俺は荷馬車の荷台で、大の字になって寝転んだ。

 そして、大空をのんびり見ていたら、いつの間にか眠くなって寝てしまった。



 だが俺はこの時、外れスキル『キャンプ』によって、「驚異的な戦闘能力」と「圧倒的な統治力」が覚醒するとは、夢にも思わなかったのである。


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