第115話 想いが反映される世界の弊害

 ハルカは期待を胸に、精霊獣との契約をしに来たはずだった。

 それなのに、精霊獣に対して酷い事をしようとしていると疑われた事に、酷く心が揺れた。


「私は生き物が好きです! だから自分の精霊獣と会えるのを楽しみにしていたんです! どうすれば私がそんな事を思っていないか、信じてくれますか?」

「別に自分は、あなたの心なんて知りたくないです。そこまで必死になるなんて……。黒は予測がつかない魔法を使うから……まさか、あなたが犯人ですか?」


 この言葉にサンが素早く反応した。


「さっきから聞いてりゃ、一方的に決めつけすぎだろっ!? そんな偏見で人を見てんなら、俺達は依頼を破棄するぞ!」

「他の方には頼みたいですが、黒の人は別に必要ないです。言わせてもらいますが、所詮黒は黒だ。特にそちらの人は特別な黒でしょう? この理由に何かご不満でも?」


 サンが怒ってくれた事で、ハルカは少しだけ冷静になれた。

 そして他のみんなの様子を見てみると、苦虫を噛みつぶしたような顔をしていた。

 カイルに至っては、何故かハルカを背に隠すように動いていた。


「カイル、どうしたの?」

「もし、あいつがハルカを何かの犯人と決めつけて誰かを呼んだら、セルヴァを召喚するからすぐに乗れ」


 いきなりそんな事を言われたので、ハルカは慌ててカイルに質問をした。


「いきなりどうしたの? なんでセルヴァが出てくるの? 私が黒の魔法使いなのに、卵がわからないまま声をかけちゃった事がそんなにまずかったの?」

「いや、声をかけるのは問題ない。ただ、捕まるのはまずい。時間稼ぎにしかならないかもしれないが、行き先はセルヴァに伝えておくから、逃げろ」


 何か大事になってしまったと感じ、ハルカの心は大きく揺れた。

 そしてこの会話の間も、サンは抗議を続けてくれていた。


「逃げるって……。私のせいでこうなったんだよね? ちゃんと話して誤解を解いてみる」

「あいつは黒に対して否定的な感情を抱いている。だから、ハルカの話は余計に聞かないだろう。それに他種族と問題を起こした場合、冒険者は証を剥奪される。最悪、死刑だ」


 死刑!?


 勝手に精霊獣の卵に声をかけてしまった事は、悪い事だとは思う。

 けれど、特別な黒の魔法使いというだけでこんな言いがかりをつけられるなんて……!


 ハルカは戸惑いよりも怒りが勝り、カイルの前に出た。


「ウィルさん、でしたよね? この世界は意思が強く反映される。だから、あなたのように見た目だけで人の内面まで決めつける人が、黒の魔法使いを……、鮮やかな髪色の人を、追い込んでいるのではないですか? 精霊獣を守る仕事は立派だと思います。ですが、そんな偏った考えで守られる精霊獣は幸せなんでしょうか?」


 人は、それぞれ違って当たり前だ。

 特別な黒の魔法使いだって、プレセリス様のような人だっている。

 この世界は意思の強さが反映されるのなら、その想いが一雫の波紋のように様々な人へ広がってしまうはずだ。

 そして、そんな気持ちのまま、黒の魔法使いの契約者を待ってる精霊獣達を守っているのであれば、その気持ちはきっと精霊獣達にも伝わっているはず。


 怒りに任せて言葉をぶつけてしまった自分を落ち着かせるように、ハルカは服の上から生誕石を握った。

 すると、不思議な言葉が頭に浮かんだ気がした。


『それでも、自分が絶対に精霊獣を守りたい』


 何……、今の?


 その言葉は一瞬で消えてしまった。

 しかし、そのおかげでハルカは冷静になり、ウィルさんを静かに見つめた。


「! ……黒に、サイラス様と同じような事を言われる日が来るなんて。だから自分は……」


 そう言うと、ウィルさんは自分の頬を両手で思いっきり叩いた。


「失礼しました。少し、頭を冷やしてきます。それと、精霊獣の卵が揺れた原因を探ってきますので、待ってて下さい」


 そう言い残して、ウィルさんは足早に小屋の中に入っていった。


「ハルカちゃん、ごめんな。ここまで言われたんだ、依頼を破棄しよう」

「ううん、大丈夫。私も言いたい事言ったし、お互い様って事になればいいんだけれど……」


 サンに気遣われながらも、これが揉め事に発展したらみんなも死刑になってしまうかもしれないと思い、ハルカは今更ながら血の気が引いた。

 そして、ミアもリアンさんもサンの言葉に賛同しつつ、3人で今後どうするかを話し合い始めた。


「ハルカ、さっきの言葉は気にするな。あと、少しいいか?」


 カイルが心配そうに顔を覗き込んできたが、続けて小さな声で耳元に囁いてきた。


「俺がハルカと出会う前に、何か渡されたものはないか?」


 それって、神様からって事だよね?


 この白に近い紫色の膝丈のワンピースと、黒のロングブーツ、それに手のひらの大きさの漆黒の生誕石しかもらった覚えがないので、ハルカは首を振った。


「そうだよな……。何も持ってなさそうだったもんな。一応、あのウィルという男を待ってみるか。これで頭が冷えていなかったら、依頼を破棄してキニオスに帰るぞ」


 私の生誕石って、卵の形だけど……まさかね。


 生誕石が精霊獣の卵だったら、私の生誕石はどこに? という事になるので、ハルカはこの考えをすぐに忘れる事にした。

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