第103話 痛みを伴う魔法
占い始めよりは明るくなった部屋だが、それでも薄暗いのには変わりなく、プレセリス様の顔が神秘的に見えた。けれど、よくわからない事を言われ、椅子の座り心地が悪くもなった気がした。
「それって、無意識に魔法を使っている、という事ですか?」
「えぇ、そうですの。ハルカ様も内に秘めた魔力が強いので、その弊害でしょう。いえ……、恩恵、なのでしょうか。心が揺れる時、何かに触れた時、不思議に感じた出来事があるはず。それらを思い出しながら、今後もご自身を注意深く観察するのがよろしいかと」
「あ、あの! 書き残してもいいですか?」
この言葉を忘れたくなくて、ハルカはそう申し出た。
「えぇ、是非。まだお伝えする事がありますので、お好きになさって」
許可を得たので、ハルカは収納石から日記を取り出した。
すると同時に、プレセリス様は魔法を使った。
「現れよ」
その言葉と共に、小さな机がハルカの目の前に置かれた。
「こちらをどうぞお使いになって」
「あ、ありがとうございます」
自分が知らない魔法を目にして、ハルカは驚きを隠そうと努力したが、無駄に終わった。それが可笑しかったようで、プレセリス様はくすくすと笑い声を漏らしていた。
「わたくしの前ではどうぞありのままで。新鮮な反応は、何よりの報酬ですの」
そして、プレセリス様は続きを話し始めた。
「では、書き留めながらで構いませぬので、お聞き下さいませ。驚かれるかもしれませぬが、ハルカ様が今まで出会った方、これから出会う方、その中から特に信じられると思う方々へ、どうぞご自身の秘密を打ち明けてほしいのです」
その信じられない言葉で、ハルカは先程の助言を箇条書きしていた手を止めた。
「それは……、私が異世界から来た事を伝える、という事ですよね?」
「そうです。ハルカ様はこちらの世界での縁が少ない。ならばその少ない縁の絆を強くする事で、困難を乗り越える事ができる。そして、その絆がハルカ様の魔法へと繋がる架け橋になる事を、覚えておいて下さいませ」
私が特に信じられる人達、か……。
そう考えた時、今まで言葉を交わしたほとんどの人が、信じられるように思えた。
「そのお顔を見る限り、もう既に浮かぶ方々がいらっしゃるようで。ハルカ様の強さは『信じる心』でございます。これが魔法を見つける為の、最大の助言になりますの」
『信じる心』
その心が、私だけの魔法に繋がる。
という事は、私の魔法は人を傷付けたりは……、しない?
その考えが浮かんだ瞬間、声に出ていた。
「あのっ! これだけはお聞きしたいのですが、私の魔法は、人を傷付けるものではないですか?」
「……物理的には、そうかと」
「それって……」
黒の魔法使いは精神の魔法で拷問をする、って聞いていたけれど、それに近い魔法って事?
心のどこかで違うものであれと思っていた。だからか、やはりショックは大きかった。
「言葉が悪かったようで、申し訳ありません。何とお伝えすればいいか……。知らない間に怪我をされて、気が付くと痛くなる、そんな経験はありませぬか?」
「えっと……、何となく、言いたい事はわかります」
魔法の話をしていたはずなのに、妙な例え話に戸惑った。
「ハルカ様の魔法は、本人が気付かぬ傷を気付かせる、そんな魔法でございますの」
「それが、魔法?」
「えぇ、その瞬間だけは痛みを与えてしまう事になるかと。だからこそ、ハルカ様の魔法を待っている方々がいらっしゃいますの」
痛みを与えて、傷を気付かせる?
そんな魔法を待っている人なんて、いるの?
そんなハルカの疑問に答えるような言葉が、プレセリス様の口から紡がれた。
「その傷は、気付けなければ癒す事はできませぬ。使う瞬間になれば、わかるはず。ですから今は、書き留めていただけるだけで構いませぬ」
「わかりました。ここまで教えて下さって、ありがとうございます」
忘れないように質問をしながら急いで書き終え、日記と通信石を収納石へとしまった瞬間、プレセリス様から声をかけられた。
「最後にもう1つだけ。このコルトで何かあれば『プレセリスからもらった』と、おっしゃって下さいませ」
「それは、どういう事ですか?」
「ふふっ。内緒でございます。ですが、むやみやたらに言ってはいけませぬ。ハルカ様がご自身ではどうにも出来ぬ、と思った時、言葉にして下さいませ」
何かを含む、楽しそうな笑い声を上げてプレセリス様は立ち上がった。
「よくわかりませんが……、何かあればプレセリス様のお名前をお借りしますね」
「そうして下さると嬉しいですの。さぁ、そろそろハルカ様の大切なお連れ様が、痺れを切らしているはず。ユーゴと戦わせるのも一興ですが、この館が崩壊してしまっては困りますので、行きましょう」
ちっとも困っていなさそうなプレセリス様と共に、不思議な空間から、カイルとユーゴさんが待つ待合室へと戻る為にハルカは立ち上がった。
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