第104話 素敵なお告げ

「ハルカ! 無事か!?」


 占いを終え、プレセリス様が扉を開けた瞬間、カイルが目の前にいた。


「……びっくりした! 大丈夫だよ。お待たせ」


 まさか扉の前で待っているとは思わず、変な声を上げそうになった。そんな声を辛うじて呑み込めたハルカは、なるべく穏やかな声で返事をした。


「ずいぶんと時間がかかったな」

「色々と聞きながら書いてたからね。心配させちゃって、ごめん」

「いや、無事ならいいんだ。というか……、何もされていないよな?」


 あぁ、やっぱりカイルはカイルだなぁ。


 いつも通りの心配症なカイルにどこかほっとした。しかし、放っておくと面倒くさい事になるので、ハルカは早々にこの話題を終わらせる事にした。


「何もされてないよ。沢山の事がわかったから、後で話すね。それと、私が異世界から来た人間だって知っていたから、こうやって通してくれたんだよ」

「なっ!?」


 占いを終えたプレセリス様から、あまり驚いている様子が見られなかったので、ハルカは思っていた事をカイルに伝えた。


「ハルカ様、よくお気付きになられましたね。今、この時をユーゴを通して視ていたので、予定を空けておりましたの」

「何故、もっと早く言わない?」


 今にも斬りかかりそうな程、険しい顔つきのカイルは、低い声でプレセリス様に尋ねていた。


「そんな事、わかりきっている。伝えた瞬間、お前は剣を抜いただろう?」

「だから騙したのか?」

「騙す? お前がそれを言うのか? わたくしは、ハルカ様の秘密を広めるつもりはない」


 どうも2人は相性が悪いようで、一触即発の空気にハラハラした。しかし、ハルカはそんなやり取りを見守る事しか出来なかった。

 すると、カイルの後ろに佇んでいたユーゴさんが、やんわりと仲裁に入った。


「プレセリス様、お言葉が過ぎるかと。彼は本当に、心からそちらの少女を心配しておりました」

「……失礼しました。少し熱が入ってしまって。どうぞそのまま、ハルカ様を大切にして下さいませ」


 カイルは眉間にシワを寄せたまま、プレセリス様に向かって頷くと不毛な会話を終わらせた。


「そんな事、お前に言われなくともわかっている。それに、先程の言葉も俺は信用していない。だから金で解決させてもらう。口止め料はいくらだ?」

「いえ、本当にお代は結構ですの。ですが、別の物をいただきたいのです」

「何だ?」


 すると青白い頬に赤みがさしたプレセリス様が、何故かこちらを見つめてこう言った。


「ハルカ様の過ごしていた世界の、思い出の一部をいただけるでしょうか?」

「それはどういう事ですか?」


 カイルがまたプレセリス様に突っかかる前に、ハルカは急いで返事をした。


 ***


「疲れた……」

「あはは。お疲れ様」


 カイルは宿へ戻ってきた瞬間、すぐに椅子へ座り込んだ。そして、げんなりした顔でぼそっと呟いた。それがなんだか面白くて、ハルカは笑いながらも労いの言葉をかけた。


「なんでハルカはそんなに元気なんだ?」

「なんだかね、色々わかってすっきりしたんだ」

「そうか。でも、本当にあんなに詳しい情報を教えてよかったのか?」

「むしろ、それでタダで占ってもらえたと思うと、申し訳ないような……」


 プレセリス様が求めたもの、それはハルカの『高校の制服』の詳細だった。

 

「異世界の知識は、そんなに簡単に教えていいものじゃない」

「そう言いながら、カイルも魔法まで使って写していたよね?」

「当たり前だろ? 異世界の知識だぞ? 俺にも保持する権利はある」


 カイルは『複写ふくしゃ』という魔法を使い、自分の記録石に制服の詳細を写していたのだ。

 なんだかんだ、プレセリス様と似た者同士なんだと思う。けれど、それを伝えたらカイルが不機嫌になるのが目に見えているので、その考えを心の中にしまった。


「時間はいくらでもあるんだから、いつでも聞いてくれたらいいのに。それにしても、まさか制服を着たいから作る、なんて言われると思わなかったね」

「……また、そのうちな。服については、あの女の趣味なんだろうが、作るのはユーゴなんて不憫だ」


 少し考える素振りを見せながら、カイルはプレセリス様に悪態をついていた。


「まぁまぁ。どんな仕上がりになるんだろうね。それとさ、最後に教えてくれた旅芸人の話なんだけど、絶対、観に行こうね!」

「なんだかあの女の手のひらで踊らされている気がするんだが、ハルカが観たいのなら、行こう」

「ありがとう! プレセリス様は親切で教えてくれてるんだから、大丈夫だよ!」


『明日、有名な旅芸人の舞台がありますの。そこで素敵な事が待っていますの。ですからどうぞ、楽しんで』


 見送られた時に知らされた情報に、ハルカの胸は踊っていた。


「じゃあ明日に備えて、早めに休む準備をするか、と言いたいところだが、今から占いの詳細を確認してもいいか?」

「もちろん。カイルには全部話すよ」


 そして防音の魔法をかけ、プレセリス様から教えてもらった助言から、ハルカだけの魔法を考える話し合いが始まった。

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