第80話 守りの冒険者
アルーシャさんの『戦わない』事を選択する言葉の意味を理解したくないはるかはしばらくの間、返事をする事ができなくなっていた。
「それは……冒険者を辞めた方がいいという事ですか……?」
ようやく言えた自分の言葉にすら苦しくさを覚え、はるかの声色が硬くなる。
「そういう事ではありませんよ。昨日の魔物に対する気持ちや今の返答で、攻撃が向いていないと思ったからです」
「こればかりは性格が影響する部分でもあるからな」
2人は一体何を言っているんだろう?
戦わないのなら、冒険者として私は何をしたらいいの?
倒す事が出来ない冒険者なんて……存在するの?
はるかの頭の中が疑問で埋め尽くされそうになった時、アルーシャさんの声で現実に引き戻された。
「先程はっきりと守ると言い切ったのが決め手です。絶対倒してやる! という返事なら話は別ですが」
「戦わない事を決めたら……冒険者として何をしたらいいんですか?」
答えがわからなくて思わず聞いてしまった。
思い詰めていたはるかを安心させるように優しく微笑むアルーシャさんは、理解しやすい答えを返してくれた。
「わかりやすく言えば癒し手の方が良い例ですね。無理に戦う事に心を砕くよりも、自分の望む力の使い方にしっかりと目を向けた方が強くなれます」
いろんな人から教えられる自分の気持ちの大切さ。
これまでの私は周りに嫌われないように自分の気持ちを消してまで人に合わせて生きてきた。
でもこの世界に来てそれがどんなに自分に対して、そして自分に関わる人に対して酷い事をしているか、考えさせられた。
自分の気持ちを大切にする事が誰かを守れる強さに繋がるのなら、こんなに嬉しい事はない。
覚悟はできた。
少し俯きながら考え込んでしまったが、顔を上げてはるかは宣言した。
「私は、誰かを守れるような冒険者になります!」
そう宣言したはるかを、肯定するように2人は頷くとこう続けた。
「決まったな」
「決まってしまえば、魔法を見つけるのも早いと思うからね」
そして驚くべき事を続けてアルーシャさんの口から聞かされる事になる。
「それにですね……僕も攻撃したくない冒険者なんですよ?」
「えっ! アルーシャさんが!?」
はるかは心底驚いた。
攻撃に特化した人だとばかり思っていたからだ。
そしてアルーシャさんは理由もちゃんと教えてくれた。
「アルーシャ、それ以上は——」
一瞬カイルが何か言いかけたが、アルーシャさんの声がそれを掻き消した。
「獲物が恐怖を感じると美味しさが半減するのです! これでは命を奪われた獲物が不憫でなりません。だから僕は闇雲に攻撃せず、なるべく一瞬で終わらせます」
その返答に場の空気が固まった気がした。
さすがはアルーシャさん、振り切れてるなぁ……。
はるかの思考はゆっくりと動き出したが、浮かんだ言葉はこれだった。
先程の覚悟が霞むくらいのアルーシャさんの情熱を目の当たりにして、はるかは本当にこの人に教えてもらって大丈夫なのだろうかと少しだけ不安になった。
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