第70話 真相は藪の中

 部屋の中央にある丸テーブルに近づきながらカイルは話し始める。


「とりあえず座ってくれ。本当に簡単に説明するからな。真面目に説明していたら時間がいくらあっても足りない」

「わかった。お願いします」


 そして念の為、防音の魔法をかけてからこの世界の説明が始まった。



 この世界の名前は『シュトーノ』。


 人間が多く存在するが、他種族も存在する世界。

 人が住まう全ての町は1つの国によって管理されている。


 王都の名前は『セイクリッド』。


 人間の『光の聖王』が治める国である。


 それ以外の国と呼ばれる土地は他種族が治めている。

 そして人と交流が盛んなのがその国の一部の町達。


 エルフ族が他種族を迎えれる為に作り上げた町、それが精霊の生まれる町『コルト』。

 ドワーフ族が自分達の魔具を広める為に作り上げた町、それが魔具職人の町『ローゼン』。


 例に挙げた2つの町は特に有名で、コルトはエルフ族、ローゼンはドワーフ族と説明しなくとも周知の事実だそうだ。


 他種族の国や町は種族間で誓約が交わされている為、攻撃してはならない。

 もし何かあればその人物や町に対して制裁があるそうだ。


 そして話は多くの人が犠牲になった戦争へと移る。



「そもそも城壁もそこまで強固な城壁になった原因が戦争によるものなんだ」

「それまでは普通の城壁だったって事?」

「小さな争いはあったんだが、そこまで酷い争いはなかったからな」


 近隣の町との小競り合いなどに国は一切介入しなかった。

 度を越した場合のみ、なんらかの対応がされる。

 そんな日々が続く中、突如として起きた戦争。


 そしてはるかは、戦争の詳細をここで初めて知る事になる。


「戦争といってもたった1日の出来事だったんだ。それでも被害は凄かったが……」

「1日でそんな事が……」

「だが、首謀者はもうこの世にいない」

「首謀者って……誰だったの?」


 カイルの言葉から何か違う響きを感じ、はるかは嫌な予感がした。


「異世界の研究をしていた奴らだ」


 その信じられない言葉にはるかは耳を疑った。


「どうして……?」

「異世界の力に魅入られて正気を失っていた……とだけ。その責任を問われて前王は解任。そしてその事を明るみに出した第3皇女ルイーズ様が王の座に就いた」


 異世界の力がこの世界の人々を傷つけたの?


 唖然としているはるかにカイルは淡々と話を続けた。


「大半の人間はその事実を受け入れられていない。異世界の話なんて今じゃお伽話みたいなものだしな。しかし現実の被害が出てしまった。そして莫大な懸賞金。ここからは俺の推測を話すぞ」


 カイルは少し間を置いてから、意を決したように話し始めた。


「不安になるかと思って言わなかったが、伝えておく。これを機に異世界の力に対して不信感を持つ者も出てきた。それに何より……異世界に関連した物は莫大な懸賞金を掛けてまで見つけ出し、保護する事になった」

「保護? 危険だから?」

「それもあるが……元々研究をしていた奴らがまだ生きている可能性がある。その奴らから守る為に聖王が保護という形をとったように思う」

「なんで……そう思うの?」


 まるでその生きている事を知っているように話すカイルに、はるかは違和感を覚えた。


「火種を持ち込んだ奴らはその場で自害している。それによって戦争は突然終わりを迎えた」


 言い終えて、カイルは言葉を切った。

 そして感情を抑えるように少しだけ顔を歪めながら、ゆっくりと言葉を続けた。


「そしてこれから話す事は、この町の住人は知らない。ここからは俺の問題だ。まず、家族や仲間を襲った奴らの死体がなかった。次に……無くなったものがある」

「何が……無くなったの?」


 この先を聞くのが怖いが……聞かなくてはいけない事だと思ったはるかは続きを尋ねた。


「異世界の記録だ」


「えっ……? なんでその記録をカイルの一族は持っていたの?」

「俺達の生業は様々な歴史の保持。だから様々な地を渡り歩く事をしていた。その中に異世界の記録も含まれる。そしてそれが無くなっていた」

「だから生きてる可能性があるって事?」


 なぜそれだけで生きていると言えるのだろうか?

 真相が知りたいと思うはるかは続きを尋ね続けるしかなかった。


「そうだ。もう生きてはいないかも知れないが、必要だったから持ち去ったとしか思えない」

「それって……」

「あぁ、まだあの時の戦争は本当の意味で終わりを迎えていない」


 また何か起こるかもしれない。

 ましてや私がその異世界の住人だったと知られる日が来たら……一体何が起こるのか。

 そしてそれ以上に不安なのが……そんな私と一緒にいるカイルの事だ。


 そんな事を考えながらはるかは無意識に服の上から自身の生誕石を握っていた。


「それが本当なら……カイルは私と一緒にいて大丈夫なの?」


 不安な気持ちを胸に抱き、生誕石を握る手に力が入った。


「確かに俺は生き残りで、急に誰かを連れて歩くようになったら不審に思われる。だから敢えて親戚とした。もしハルカが異世界の事を話してしまっても俺の親戚なら……とりあえずは切り抜けられるはずだ」


 力強くそう言われたが、はるかは何かが引っかかった。


 カイルは何かを隠している。


 突然、そんな言葉が頭の中に浮かんだ気がした。

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